第106回サイエンスカフェ開催報告
山田健太郎(サイエンスカフェにいがたスタッフ,公務員)
第106回サイエンスカフェにいがたのゲストは、新潟大学理学部の則末和宏先生です。海洋の温暖化を海洋中の微量元素の分析から探る研究についてお話しいただきました。
海洋は世界中と繋がっているため、海洋研究には世界各地との連携が欠かせません。先生は「GEOTRACES計画」という国際プロジェクトに参加し、研究を進めているそうです。
さて、最初は「海洋の温暖化」について説明していただきました。温暖化は大気が高温になるところから始まるため、海洋の温暖化は表層から始まり、その変化が拡散や海水の沈み込みによって深層へと伝わっていきます。これまでの研究で、最近10年間で水温が一番上昇したのは北大西洋や日本の南東海域で、約0.3℃上昇しました。また、北半球では深層水まで温度上昇が起こっています。海水温は深層に行くほど冷たくなります。表層の海水温が上昇すると、深層の海水温との差が大きくなり、「成層構造」が強化されます。温度が低いものは重く沈降し、高いものは軽く上昇します。その結果、海水温が表層ほど高く深層ほど低くなりますが、この構造が強化されてしまい、海洋の循環に影響が出てきてしまうのです。
深層水の温度は北半球で上昇が見られるものの、4000mよりも深いところでは、南大洋(南極海)で温度の上昇が顕著です。これは、南極海で深層へ海洋が沈み込む作用が大きいためだそうです。
このように、海洋は繋がって循環していることから、温度変化がどこで起こっていて、その原因が何か、どのような影響が出てしまうのか、を地球規模の視点で考えることが大切です。
次に「大気海洋相互作用」について説明していただきました。海洋が大気の温暖化の影響を受けている話がありましたが、大気と海洋の間では熱や他のエネルギーが相互にやり取りされ、それぞれの循環に影響を及ぼします。例えばモンスーンやエルニーニョといった現象がそれにあたります。
続いて、「海水中の微量金属元素」について説明していただきました。今回のメインテーマです。微量金属元素はその名の通り微量しか存在しない金属元素です。海水中にも微量しか存在しません。しかし、海水の深度ごとに含有濃度を調べてみると特徴的な分布を示すため、海洋の多様なプロセスを鋭敏に反映する指標として有効なのです。
微量金属元素の中でもさらに含有濃度の低い超微量元素になると、分析が困難になります。精確には測定できない理由は、測定機器の検出性能が十分でないことや、分析過程で試料以外から同じ元素が混入してしまうことが挙げられます。試料を扱う容器の見直しなども行い、分析過程の精確性が検証されて、初めて分析が可能となるのです。先生は研究室で学生とともに分析技術の改善に取り組まれています。
最後に、「海洋調査」について説明していただきました。海水には「モード水」と呼ばれる水があり、その海域を代表する特徴を持つ海水であることから、重要な研究対象となっています。冬の海洋表層は混合層という上下の攪拌が起きている海水で構成されていますが、夏には成層構造が発達し、表層と亜表層に分かれます。この亜表層にあるのがモード水です。
ただし、どの海水がモード水であるか判断することは難しいため、その手段としてビスマスの含有濃度を指標とする手法が用いられています。ビスマスの含有濃度は亜表層で極大になるため、ビスマス濃度が高い海水がモード水であると判断できるのです。ビスマスの含有量は非常に低く、極大値でも海水1ミリリットルあたり0.0000000004モル程度です。
お話を聞いて、私たちがニュースなどで耳にしている環境変動の情報は、屋外の調査だけでなく室内の化学分析によって解明されたものであることが分かりました。また、分析のためには必要に応じて最先端技術を自らの手で作らなくてはなりません。研究室での緻密な科学的検討が国際プロジェクトの中で共有され、そして地球全体の環境変動の議論へと繋がっていくダイナミズムは、研究の醍醐味だと思います。科学は自然界の不思議を感じることだけでなく、それを解明する研究プロセスもまた面白いと思います。先生から直接お話を聞き、研究の面白さを感じることが出来ました。
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