『せたがやスタ研ニュース』4号【視察】

 御殿場市の協組森の腰商栄会((株)アクティブモコ)を視察

 若手主導でスタンプスタート
 法人化や話題性のあるイベントを次々と


 3月5日、静岡県御殿場市のW森の腰商栄会を区商連青年部と合同で視察。参加は34名。同協組のスタンプ(モコチップ)事業と共同店舗計画を学ぶのが目的で、商店街を視察後、同協組の役員3氏から説明を受けた。スタンプ事業を中心に報告したい。

協組森の腰商栄会役員の説明

◆青年部がイベント疲れ、10年計画作成の中でスタンプ浮上
 烏山の桑島理事長には、スタンプを立ち上げる前にも、御殿場市商工会を通じて1度お話いただいている。しかし、その時にはどういうわけかあまり食指を動かされなかった。なぜか考えて見ると、当時は、青年部活動ということで商店街としてイベントをよくやっていた。しかし、イベントは労多くして実りなし。何かいい方法はないのかと、悩んでいた。その頃、歴代の青年部長2人が立て続けに亡くなり、今までのイベント疲れで死んだのではないかと、相当滅入っていた。
 そんな時に、親会の協組森の腰商栄会から商店会の10年間の計画を作ろうと発案があり、コミュニティーマートセンターから、CI事業をやるなら一度リーダー養成講習会を受けろという要請があった。その講習会の最後の講座が桑島さんの話だった。青年部の役員が雁首を並べて話を聞いた。ここまで来たら、スタンプしかないというところで、タイミングが合った。

◆会員80店弱なのに87店がスタンプに加盟
 この講習は90年1月だったが、役員3〜4人で、とにかく7月1日にスタートと決め、動いていった。よかったことは、青年部が責任を持ってやるから、親会は一切手を出さないでくれということで、青年部のメンバー全員で何から何までやっていったため、逆にその点で効果が出たこと。
 加盟を促していく中では、ガソリンスタンドから、床屋、美容院など、普段小売りとはあまり縁のないサービス業にも呼びかけていった。
 青年部の役員が3人で組になって勧誘に回った。その時に持っていったのは、入会の際の1万円の領収書だけ。入るかどうか、イエスかノーかという、非常に荒っぽい勧誘だったが、3日間で87店舗集めた。
 加盟店の人たちにすれば青年部が来たからしかたがない、1万円出すだけですむなら嵐が過ぎるのを待つか、というところもあったのではないかと思うが、大変ありがたく思っている。

◆発行額予想以上で法人化、意思決定の迅速さなどで株式会社に
 当初年間3000万円くらいいけばいいと思っていたが、年間ベースで6000万円の売り上げが出たため、これは任意というよりは法人化して、きちんとした経営体制でやっていったほうが青年部にとっても責任が明確になるし、対外的にもいいだろう、ということで株式会社にすることになった。 当時青年部が25名、その時は商法の特例として40万円で株式会社を設立できた。半年後に増資をかけ、現在は、青年部の現役とOB合わせて40名で1000万円の株式会社にしている。
 会社にした理由のもう一つは、協同組合の運営体制を考えた時、非常にまどろっこしいということがあった。取締役の責任は非常に重いが、意思決定がスムーズなため、株式会社にしてよかったと思っている。青年部の会合も急に取締役会になるし、急に役員会になる。こう決めたということになればそのまま決まる。そのへんの意思決定がしやすいということでは結果的には良かった。

◆大盤振る舞いのイベント連発、お客が集め、加盟店が出す
 当時、お金がどんどんたまるため、お金を使うためにどんどんイベントを企画した。子供向けイベント、女性向けイベントとして、毎月1回は5倍10倍の付加価値をつけたイベントを当初から展開し、地域に話題性を提供することでお客様に知っていただく努力をした。加盟店もそれにつられてどんどん出してくれるようになった。
 スタンプがこれほど効果があるのか、ということが個店・商店街の中で高まった。時期もバブルがはじける直前で、いけいけどんどんという形でお客様に攻勢をかけることができたという点でよかったと思っている。

◆イベント企画はすべて青年部員で 
 イベントは旅行会社に任せてしまうのではなく、森の腰らしさを出すという点で工夫している。若い人だからこういうことを考えるのかという面白い発想がある。
 お金がかからず面白かったイベントは、原宿散策。原宿が非常に人気があった時の企画で、ただバスで原宿に連れていくだけ。ヤングママと中高生、小学生に、午前10時から夕方4時まで遊んでもらうというもの。バス代だけだったのでお金がほとんどかからなかったにもかかわらず、子供たちが学校で口コミで宣伝してくれたりして、非常に効果があった。
 また、当時はJリーグがスタート前だったが、サッカークレイジーがメンバーの中にいて、「なんとか清水エスパルスの株を買ってくれ」と。そこで、400万円で株主になった。当時手に入りにくかったチケットがイベントで使えて大いに宣伝になった。今もチラシには必ず、『モコチップはエスパルスの株主です』と入れている。現在は低迷しているが、地元の子供たちの夢を実現させるためにもエスパルスを応援していく。
 青年部の企画だからこそ話題性のあるものが多いが、反面、若いだけに、お年寄り向けの日帰り温泉ツアーやみかん狩りなどはあまり仕掛けないので、お年寄りには不満があるかもしれない。その代わり、子供たち向けのイベントは非常に多く、スーパーファミコンなどナウいゲーム機の交換などは非常に早い。

◆全体イベントに個店で連動して効果
 事務局のイベントと連動したイベントを各個店で企画することで大きな効果が出る。昨年暮れはウィーン旅行招待だったが、1店の加盟店(家具屋)からお客様にチラシで宣伝したいから1人分売ってくれという申し出があり、この店では、これを目玉にした売り出しで効果を上げた。

◆出さない加盟店は放置、出す店に積極的に情報提供で支援
 当初は無理やり勧誘したため、よくわからずに加盟した店もあり、お客様から、あの店は出さないというクレームが非常に多くあった。その頃は役員が行ったりしたが、1年ほどで次第におさまっていった。
 現在、加盟店は82店だが、スリーピング会員は約15%。年2回、中元歳末の時期に、「モコチップの在庫はありますか」というお伺い状のような手紙を加盟店に出しているが、それほど効果はないように思える。
 スリーピング会員があるのはしかたがないと思うし、この15%にエネルギーを注入するよりも、出してくれている店に、より積極的に情報を流していったほうがいい。プラス指向でいい方向に回転させていかないと、マイナス指向で、あの店がダメだ、この店がダメだと言っていてもはじまらない。そういう点では気が長くなった。
 結果的にはお客様に選んでいただく。出さない店にはお客様はだんだん少なくなるだろう。

◆大型店出店ラッシュで売上減だがSC開店で発行額2割増を期待
 93年には、売り上げが7200万円まで伸びた。しかし、御殿場の商業環境が、ロードサイドや大型店の出店ラッシュが相次いでおり、今年度は5600万円まで落ち込んでいる。ただ、今の経済情勢を考えた場合、健闘していると言えるのではないか。私どもはより頑張ろう、マイナス志向にはならないということでやっている。
 特に今年度は、第三セクター方式でショッピングセンターが完成する。ここからの売り上げで2000万円ほどスタンプ売り上げが伸びる見込みで、最盛期を上回る売り上げが来年度は予測される。これも自分たちを元気づける、勢いづける要因になる。

◆毎年、年賀状と暑中見舞
 今のスタンプ台紙による顧客データベースによって、地区別の回収分析や各世帯ごと(電話番号で操作)のデータが出る。このデータを使ったイベントは年2回、新年と中元時にハガキにスタンプを25枚分印刷して、「いつもありがとうございます。このチップを台紙に使って下さい」とDMする。これは、よく戻ってきているので、効果があると思っている。今の段階ではこの程度にしか使われていない。
 今後は、事務局をより戦力化することによって、DM、データベースの分析、それを踏まえイベントを考えていきたい。
 一部の店から、自店の顧客以外の地区別のデータがほしいとか、今まで何十冊以上つかったお客様のデータがほしい、という申込みがあるので、名簿代として1件いくらという実費をいただいている。ランダムに出す出力帳票については1ページ500円をいただいている。ただし、個店のお客様データは公開しないということで事務局だけで管理している。

◆台紙は加盟店の広告でツーペイ、枠はいつも満杯
 台紙は、1回4万枚、年間4回印刷。すべて加盟店の広告料でまかなっている。広告を出したい店が多くて競争率が高いので、早い者順ということでファックスで申し込んでもらったりしている。

◆事務所には飲みニュケーションの場も
 会議はいつも夜8時から始まり、10時まではきちんと話をしているが、それ以降は飲みながら。リラックスすると、いい発想も出る。
 たまたま事務局は、以前プールバーだったため、奥に大型冷凍冷蔵庫があり、カウンターと調理場が完備され、酒蔵にはワイン、日本酒、ビールが入っていて、気が向いたら誰でも飲んでいいことになっている。外に飲みに行くよりはよほど安上がりだ。

◆ソフト面以外に、明るく便利なワンストップ対応の街づくりも
 ソフト面だけでは限界があるということについて。私たちが青年部中心にスタンプ活動を展開してきて、地域に認知されている。現に、お店に来る99 %のお客様(男性も含めて)がスタンプを持っていってくれる。
 ただ商店街がこれだけ経済状態、設備面などで立ち入っていないということを考えると、ソフトでは限界がある。そこで、ソフトからハードへのプログラムを現在、進行中。ハードに入らずにソフトだけやっていったのでは、イベント疲れの青年部がまた復活してしまうだろうという危惧がある。
 現在は、駐車場不足、アーケードや歩道の整備などの問題がある。ワンストップショッピングや明るさも含めてお客様に来ていただきやすい環境づくりを商店街として全体で考えていかなければならないと思っている。

協組森の腰商店街の概要

 御殿場市は、静岡県の東部に位置し、人口は約8万人。自衛隊や米軍の基地があり、安定した購買力の一翼を担っている。また、富士山をはじめとした観光資源にも恵まれている。
 森の腰商店街は、JR御殿場駅から約500E。幅員は10〜15E。両側に2〜3Eの歩道とアーケードがある。近年は、裾野市など隣接都市に郊外型ショッピングセンターやロードサイドショップなどが増加、ヤオハンが撤退するなど森の腰商店街を含めた御殿場市中心部商店街は、厳しい状況にある。
 その対策として、W森の腰商栄会では、有志64名で街づくり会社P森の腰企画を93年9月に設立、商店街内の製材工場跡地700 坪を購入、隣接の土地を借り足し、97年中にはコミュニティー型ショッピングセンターの建設を着工する。併せて、市の街路計画に合わせ、商店街の歩道整備、モール化、共同建築の促進を検討している。
 加盟店は約90店。最寄り品、買い回り品がともに約30店 飲食・サービスが10店、その他。総合衣料、生鮮三品などの店で市内有数の有力店がある。
 町内会など地域の団体との結びつきは強く、祭りやイベントは青年部が中心となって活発に展開している。92年には無公害のポリ袋を制作したり、古着を活用した買い物バッグ制作コンクールなども実施。96年5月からインターネットに接続し、97年2月にホームページを作成した。 

ccRチップについて
開始 1990年7月
加盟店 82店
発行単位 100 円
台紙貼数 300 枚 500 円
利用方法 消費者は加盟店での買い物、イベントに利用できるほか、高速道路回数券や遊園地入場券・契約旅館・ホテルの宿泊券と常時交換できる
店負担率 2%

ccRチップ売り上げ・回収一覧(年度別)

期(年度)

売上金額

回収金額

回収率

イベント費用
1期(1991年)

6,662万円

2,208万円

40%

1,232万円

2期(1992年)

7,436万円

3,231万円

52%

1,076万円

3期(1993年)

7,287万円

3,970万円

65%

598万円

4期(1994年)

6,643万円

3,102万円

56%

712万円

5期(1995年)

5,982万円

3,198万円

64%

552万円

6期(1996年)

5,605万円

3,837万円

82%

 

質疑応答

◆組織について
 
(問)株式会社か有限会社と考えて、株式会社にしたということだが、そのへんの話をもう少し聞きたい。
 青年部は当時、OBを含めて30名ほどいて、最低5万円くらいの出資金をと考えた場合、人数的に見て、最初から株式にしたほうがいいだろうと考えて、有限については考えなかった。
 出資は店ではなく個人でしてもらった。青年部員ということなので親もいるが、親がかりということではなく、自分のポケットマネーを出してやろうということ。その当時は気分が大きかったので、配当でジャンボ機でも借り切ってハワイに行こうなどと、夢物語を語りあいながら作ってきた。
 もうひとつは、若い人たちを育てるというか……。大学を出て、せっかく御殿場に帰って来たんだから、商売以外にも頑張れるものがほしいということもあった。皆それぞれに能力もある。そんなふうに考えていたところ、タイミングよく青年部でスタンプをやることになり、タイミングよく会社を作ることができた。大きな目でみれば商店街の輪というか連帯感を作るための一つの手段だったとも思う。
 (問)役員の給料の内容は?
 私たちは無報酬。女子職員3名はパートタイマーで1人100万ずつで300万円。

◆スタンプ売り上げについて
 
(問)平成6年度の実績を見ると回収率 %だが、これではイベント費用が出ないのではないか?
 短期でここだけで見ればそうだ。
 (問)当然、株式会社は赤字決算だと思うが、苦しいのではないか?
 今年はイベントに使いすぎた。回収率が上がってしまっているので、損保手数料を含めて、そこからの穴埋めもしなければならない。若干、取り崩しも含めてやっている。
 (問)スタンプ売り上げの多い店は?
 一番はロッキーイワタで1000万円、この店の売り上げに左右されるともいえる。2番店は500 万円。
 (問)台紙での買い物に使われる率とイベントに使われる率の割合は?
 80〜90%が店頭回収、残りがイベント。
 (問)台紙に貼るスタンプの枚数を増やす考えは?
 ある。今年度、ショッピングセンターがオープンするため、これを機会にカード化も含めて考え、同時に350枚貼りくらいにする計画だ。

◆イベントについて
 
(問)イベント費用と年間のイベントの回数について?
 イベントの回数は、基本は月1回、ダブル場合があるので、96年度はトータルで30回。
 (問)イベント費用が最初と比べると今は半分くらいになっているが、内容を落としているとか、人数を減らしているということか?
 賑やかしの方向は同じだが、人数を減らしたりプレミアムの率を落としたりすることで経費を節約している。最初は定員に満たないことが非常に多かったため、私たちが参加して、給料を貰えない部分をそれで補うという感覚もあった。当然最初はたまっていないからカラ打ちになるが、それを承知で打っていった。 
 (問)中元歳末売り出しの際のスタンプの扱いは?
 連動している。
 (問)するとスタンプ加盟店だけの売り出しということ?
 森の腰商栄会の組合員は90、スタンプ加盟店は82。入っていないのは材木屋、不動産屋、美容院1店などで、ほとんどがスタンプに加盟している。森の腰商栄会としては、商店街のソフト事業はすべてアクティブモコがやるということになっており、アクティブモコが仕掛けるイベントが商店街のソフト事業ということになっている。
 (問)2倍3倍セールの場合、会社からの補填は?
 一切補填はない。
 (問)チラシを拝見して、『信じられないセール』『発狂セール』『あたりすぎ抽選会』など、ネーミングに感心した。事業は何人くらいの方でやっているのか、メンバーの平均年齢は?
 事業部は3〜4人、ネーミングもその連中が考えている。ちょっとどぎついところもあるが、任せている。非常によくやってくれている。

◆加盟店総会と称し女性が集まる場を
 (問)加盟店全体が集まる機会はあるのか?
 年1回、加盟店の総会のようなものを開催している。これは、桑島さんに言われた通りに、加盟店の社長ではなく奥さん、あるいは女性従業員に出ていただくという会を加盟店総会と称してやっている。60名くらい集まる。
 また、イベントによって説明会をやっているが、全体で集まる場所がないため、各ブロック別に女性に集まっていただく説明会を年1〜2回事務局でやる。あとは株主総会。

◆あえて加盟店の拡大はしない
 (問)ここの商店街はテナントはあまり多くない?
 ほとんど自分の店。テナントは2店だけ。
 スタンプ加盟店については、地域を広げて拡大募集はしていない。隣接の商店街から入れてほしいという要望があるが断っている。というのは、私達の究極の目的は、スタンプそのものではなく、ハードに結びつけていこうということ。そのため、あまり遠くの店に入ってもらってもメリットがなくなってしまうだろう。逆に言えば、地域を活性化しようという意識を持たない店に入ってもらっても無意味なので、あえて加盟店は拡大しない。
 ただ、会社という立場から考えると非常に辛いものがある。スケールメリットを追うということになると拡大していかなくてはならないので、そのへんのジレンマがあるが、スタンプ事業を通して地域の活性化を図るという会社の設立理念があるため、あえて拡大はしない。

◆消費税は外税
 (問)消費税はどう処理しているのか?
 スタンプを売った時に預かっており、外税でやっている。スタートの時に税務署に行って、どう運営したらいいのか相談したが、税務署からは明確な回答がなかった。我々の目的というのは会社として儲けることではなく、商店街のためにやるのだからぜひ認めてほしいとお願いした結果、消費税を預かって、最低消費税は納めるようにと言われている。

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