What is In The Nursery?


"The most under-rated British band."

この世で最も過小評価されたイギリスのバンド。
こんな言葉がファンの間から出てしまうような不思議なバンド、それがIn The Nurseryです。



ITNの歴史

IN THE NURSERY。通称ITN。直訳すると託児所の中、子供部屋の中、とかいう事になりますが、この名は彼らの幼少期の反映として名づけられたそうで、(と、言うことは託児所にいたって事ですか?)サウンドが現在のような形になる前から、ずっとこの名で通しつづけています。

IN THE NURSERYは、81年にクリーヴ・ハンバーストーンとナイジェル・ハンバーストーンという双子の兄弟と、彼らの友人アンソニー・ベネットの3人編成で結成されたバンドです。当時の流行であったポスト・パンク的なアプローチでデビューを飾ったITNでしたが、自分達が経験を重ねていくにつれ、現在のスタイルに満足出来なくなった彼らは徐々にその方向性を変えていきます。
ギターによる演奏に限界を感じ、代わりにクラシックな要素を取り込みはじめますが、その直後に友人が脱退、新たにドラマーのQと、女性ボーカルのドローリー・マーガレットがサポートメンバーとして加わり、この4人編成になった所で現在にまで至るサウンドを確立し、クラシックの様式美を取り入れたITN独自のサウンドを築き上げ、全く止まることなく積極的に音楽活動を展開してきました。
が、その後Qが多忙によりメンバーから離れたようで、現在はクリーヴ、ナイジェル、ドローリーの3人で活動しているようです。



Klive Humberstone Nigel Humberstone Dolores Marguerite C Q
兄弟の写真はだいぶ若い頃のものですね。それにしてもいまだに私は、
「あれ、どっちがクリーヴでどっちがナイジェルだったっけ?」と分からなくなります(爆)


90年代後半に入ると、彼らはITNcorpという自らの会社を立ち上げ、ここで自分達のアルバムを発表していく事になります。一応これはレーベルと考えて良いものですが、現在はまだ他のアーティストと契約を結んでリリースするようなステップには至っていないようです。これ以降、彼らは様々なメディアとの共同作業に積極的に参加し、無声映画へのサントラ提供、ゲームのサウンドトラック、CM等、多岐に渡る活動を行うようになりました。

現在でもヨーロッパを中心に積極的にライヴ活動を行っていますが、どうやら未だ来日の経験は無いようです。



© ITNcorporation

ITNはどんな音楽か?

彼らのサウンドが特徴を表し始めたのは、友人が脱退した後からの事で、その前までは、ギターとミリタリードラムというシンプルで激しいパンクをやっていたのですが、突然方向転換、クラシックの様式を取り入れた、ニューエイジサウンドにきわめて近いが、オルタネイティヴで実験的な要素も含んでいるという、非常に独特で美しいサウンドへと変化していきました。
彼らの曲は、クラシックのような和やかなサウンドラインの上に、ミリタリースネアドラムの激しい音色と、シンセが加わってくるという、まさに静と動の融合のようなサウンドで、非常に美しいものです。一見、どこにでもあるようなインスト曲にも聞こえるのですが、実際にはこんな独特なサウンドは存在しないといっても過言ではありません。また、ボーカルのドローリーがフランス語で歌詞を歌う事が多いので、フランスのバンドと思われがちですが、違います。イギリスのシェフィールドが彼らの活動拠点となっています。

今現在ではアンビエント、ヒーリングミュージック的アプローチを積極的に取り入れている事もあって、アンビエント、ネオ・クラシカルと評される事が多いITNですが、元々はオルタネイティヴ畑から出てきたバンドであり、その息吹は今でもライヴで見ることが出来るようです。
当時私はTESTDEPTやLAIBACHなど、オルタネイティヴ畑から出てきたアーティストの作品を好んで買っていた時期があって、この時にITNを知る事になります。基本的にオルタナ畑から出てきたバンドの多くは、独特で興味深いサウンドを展開していましたが、往々にしてそれは「怒り」の表現が多く、結局そういった表現に嫌気がさし、オルタネイティヴから私は離れていってしまうのですが、唯一残ったのがこのITNでした。なぜなら彼らのサウンドは怒っていなかったからです。穏やかで、しかし時に力強いが、決して拳を振り上げていない力強さ。ITNはゴシック系のひとつとして取り上げられることが多いですが、もはやその枠内に収まるような単純なカテゴリでは表現出来ない領域にいます。
現在では無声映画のためのサントラも数多く提供している彼らですが、これらのサントラにいたっては毒気など全くない美しいアンビエント音楽を披露しており、インパクトという面では劣るものの非常に聴きやすくて美しいサウンドであり、今となってはこれも彼らの魅力のひとつとなっています。

私の感性とフィットしたITNは、もう活動歴が20年を越えました。完全にベテランバンドの仲間入りを果たしたITNですが、元オルタナというハンデを差し引いても、それにしてはあまりにも無名で、一枚も邦版化されてないばかりか、外資系の大手ショップですらほとんど手に入らないという有り様です。
そのため国内に入ってくる情報も非常に限られており、いまだ謎が多いというのも事実です。彼らがWEBでコミニュティを開いてくれているおかげでまだ救われているのですが、それにしては情報不足で、マニアが知りたがるプライベートな情報など、当然の如く全く伝わってきません。私個人は特にゴシップとかには興味ないっすけどね。



ITNはどんなジャンル?

ではITNをより理解しやすくするため、ITNに近いサウンドは何があるのか、と言われるとかなり迷います。彼らの音楽は初期の頃と現在を比べても結構与える印象が違いますし、おお、ITNみたい!というのは今まで出会わなかったような気がします。もっとも、他人に比べればかなり音楽は聞いている方なんですが、最近はオルタナ・ヒーリング共々、首を突っ込むほど大量には聞いてないですから、この辺から出てくるであろうITN的サウンドについては良く分からないままです。
ヒーリング的解釈で言えば、ENIGMAなんかが出てくるんですが、これはもう苦し紛れというか、かなりおおざっぱな見方でして、他に各当するものがないからって感もあります。
もっと類似性があるバンドがあるのかどうかについても分かりません。でも、こういった音楽が好きな人には一応オススメ出来る部分はあるのは間違いないのかもしれません。

オルタネイティブ的解釈でいうともっと分からなくなります。大体ITNとゆかりのあるDeath in juneや、それに近いカレント93とかが時折ひとくくりで紹介されたりするのを見かけます。たしかにDIJは他のオルタナバンドと比べるとまだ聞きやすい感はありますが、どっちにしても音楽の方向性は全く別のベクトルの方向に向かっているので、全く違うものと捉えてもいいですね。ジョイ・ディビジョンなんかは彼らが影響を受けたバンドで初期のサウンドはまさにこれそのものですが、いまとなってはその「エコー」だけが残ってそれを連想させるようなダークで重いサウンドでは無くなっています。

オルタナバンドの多くは新鋭・ベテラン共々、いまだに暗い闇の中にとどまった連中が多く、ITNのように日差しの前に出てきたバンドはほとんどいないような気がします。もっとも、怒りや混沌がなければオルタナじゃないじゃん、てな感も無きにしもあらずですが、まあそれはともかくとして。
ITNと共に紹介されるバンドなんかもたまに見かけますが、やっぱりITNと比べて圧倒的に暗くて攻撃的で、私の心を満足させてくれるものに出会った事はまだありません。

個人的に民族音楽を貪欲に取り入れていたTest dept(Good night outのVictoryは名曲!)や、独特なヨーロッパ感が漂うLaibach(インスト曲なんかで凄く叙情的なものがあったりした)は、ITN共々長い間聞いてきましたが、最近のオルタナバンドが良くやらかすテクノビートの導入しすぎで、全く面白みのない物になってしまい、今では全く聞いていません。もうオルタナ自体に興味無いです。Laibachなんてまだ活動しているみたいですけど、もはやダミ声ボーカルが恐いだけのバンドになってしまった感あり。なんて勿体ない。

唯一オルタナから脱した元オルタナバンドといって思い浮かぶのは「Dead can dance」位でしょうか。これがかろうじて近い息吹を持っているというか・・・・。でもやっぱり苦し紛れ感大いにあり。
多くのバンドがテクノビートや最近流行のスタイルを導入していく中、このバンドだけは徹底してアコースティックスタイルを保ち続けた頑固なバンドでした。ジャケットを共々Chris biggが手がけていたり、ソロで出たアルバム名が92年発売のITN作品「Duality」と同じだったりと妙にITNとつながってしまうDCDですが、音楽性については完璧に一致した物を持っているとは言えないかもしれません。でもオススメかも。

ITNのように幻想的なオルタナバンドとしてもうひとつ思い浮かぶのはやはり「コクトゥー・ツインズ」ですが、彼らはあくまでギターバンドだと私は思っているので、やっぱり違うような気が。「コクトゥー・ツインズ」系は結構あるような気はしますけどね。 あー、あくまで気がするだけですけど。

もはやITNを比較するにはクラシック畑か現代音楽でも探らなければならないのではとも思ったりしてるんですが、さすがにそこは守備範囲ではないので・・・・。後はエレクトロニカとかですか? これも多種多様でもはや全然把握出来てないので分からんですねえ。こうやって考えてみると、ホントITNが特殊なバンドだということを思い知らされますね。しかし実は、本当は類似するバンドは幾らでもいて、私がその存在及び類似性に気付いてないだけなんじゃないかと思うことが多々あるんですが、しかして真相はいかに?



尚、ITNにおける日本語としての解説は1991年、ペヨトル工房発行の銀星倶楽部「オルタネイティブ・ミュージック」にて、菊池健司氏によるインタビュー記事が唯一私が確認出来た解説ですが、これはとても貴重な記事で、その後日本語によるITN関連の記事は確認出来ていません。(まあほとんどあきらめていて真剣に探してないというのが実情ですが・・)ちなみに、このサイトでの解説はこの記事からの情報をかなり参考にしています。