第一章 運命の出会い/a fateful encounter


物語を始める前に自己紹介をしておきます、私の名前は深山舞、花も恥じらう
18歳の射手座、血液型はB型、この春に聖心短期大学英文科に入学したホヤ
ホヤの女子大生です。

あの日、私は大学の学食で一人少し遅い昼食を食べていました。昼休みの時間
帯は学生で混雑している学食も午後1時を回ると、こんなに広かったの?と思
うほど人影が少なくなります。今日は午後の講義が休講となった為、混んでい
る時間帯を避けて遅い食事を取ることにしたのです。

「こんにちは、ここ、よろしい?」
「あっ、どうぞ」

クラスメイトの森川愛美さんでした。聖心短期大学英文科に入学して3ヶ月が
過ぎようとしていましたが彼女とはあまり話す機会も無かったのでした。声を
掛けられた時は少し意外でしたが、今考えると。この時が運命の出会いだった
と思います。

「今日は一人なの?」
「ええ」

きっと、彼女は斉藤美佳のことを言っているのだと思いました。美佳とは高校
時代からの付き合いで大学に入ってからもいつも一緒にいたのです。そう、彼
女は私にとって唯一の親友だったのです。

「珍しいわね、一人で食事だなんて」
「そう?ちょっと、分け有りなもんで・・・森川さんこそこんな時間に食事?」
「ううん、さっき食べたわ。突然、休講になるんだもの暇になっちゃたの」
「ふーん、私は暇つぶしかぁ、笑」

いつも美佳とつるんでいた私は彼女のことをあまり気にしていなかったのです
が、あらためて彼女を観ると目鼻だちが大きく、それでいて顔は小作りでまる
でモデルのような容姿です。特に彼女の背丈はチビな私と違い165pはある
ように見えます。

「そうそう、でも一度、深山さんとお話をしてみたかったの」
「うん、私も丁度、新しい友達が欲しいと思っていたのよ」
「えっ?なにかあったの?」
「・・・・・・チョットね」
「あっ、言いたく無いんだったら無理しなくていいわ」
「うん、ごめんね」

ちょっと気まずいな?とも思ったのですが、特に親密な友達でもない森川さん
に話す内容でも無かったのです。正直に言いますと三日前に私は彼氏と親友を
同時に無くしてしまっていたのです。よくある話ですよね・・・・・
自分で言うのもなんですが、私は身持ちが堅い方だと思います。なんと言って
も彼氏とつき合い始めて6ヶ月にもなるのにキスもしていなかったのですから。

細かい成り行きは知りませんが、いつのまにか美佳は彼との間で肉体関係を結
んでしまったようです。どちらからアプローチしたか今となってはどうでも良
いのですが、二人を許すことは出来ないのです。

その日は渋谷で映画を観る為、彼と待ち合わせをしていたのですが。そこに美
佳が現れたのでした。はじめは何が起こったのか理解できませんでした。三人
で喫茶店に入り空いている窓際の四人席を確保したのですが、あろうことか美
佳は彼の隣に座ったのです。話を聞いている内に私はその場にいることが辛く
て仕方なくなり、一人、喫茶店を後にしたのでした。

はじめての失恋でした。それも親友の裏切りだったのです。

「深山さん?どうかしたの?」
「・・・・・なんでも無いわ」
「なんでも無いって言っても・・・・」

突然、涙がこみ上げて来て目が霞んでしまったのです。

「ゴメン・・・・涙腺の調節機能が壊れちゃったみたい」
「ううん、いいのよ。これを使って」

森川さんは自分のハンカチを私に差し出してくれたのです。

「ありがとう・・森川さん」
「愛美でいいわよ、私も舞って呼んでいいかな?」
「ええ」

愛美の貸してくれたハンカチは優しく甘い香りがし、とても落ち着く感じがし
たのです。

「ねえ、これからエスケープしない?」
「えっ?」
「なんだか、講義を受けてる気分じゃなくて」

突然、愛美が言い出したのです。

「・・・・・・」
「ねっ、いいでしょ。付き合ってよ」
「ええ・・・・」
「じゃ決まりね、早く食べちゃって。笑」




渋谷に着いたのは午後2時を少し回っていました。映画でも観ようとのことで
上映時間を確認すると始まったばかりだったのです。次ぎの上映まで1時間以
上あるではないですか。私と愛美は仕方ないので"東急ハンズ"や"109"をぶ
らぶらすることにしたのです。

「ねぇねぇ、この指輪、可愛いわね!みて・・」
「わぁ〜、本当!」
それは18金のリングベース上にプラチナのリングが重ねられており、幾何学
模様が施されているものでした。
「こんなのをプレゼントに欲しいなぁ・・笑」
私がなんとなく口にすると。まじめな顔をして愛美が答えたのです。
「いいわよ、私がプレゼントしてあげるわ」
「えっ?」
「私も欲しいから、お揃いで買わない?」

値段を見ると、ひとつ二万円でした。学生身分の舞にとっては大金なのです。
「今月、ピンチなんだぁ」
「だから、私がプレゼントをするって」
「本当に?」
「うん、どうせ親のお金だもの」
「この親不孝者め!」
「違うわよ、親の情けにすがるのも、親孝行のうちなのよ」
「そう言うものかな、笑」
「じゃ、二つね」
「あぁぁ・・これ結婚指輪よ」

よく見るとそれは結婚指輪のショーケースに陳列されているものだったのです。

「そうよね、でも関係無いじゃない。笑」

結局、愛美は私の分と二つの結婚指輪を買ったのでした。買う時に気がついた
のですが愛美と私は指のサイズが一緒の上にイニシャルまでもがMMで同じだ
ったのです。

時計を見ると次ぎの上映時間の5分前です。二人は人混みを掻き分け映画館に
向かったのです。映画館に着いたのは上映の一分前でしたが思ったより空いて
いて前の方の席を確保することができました。

以前、彼氏と見に来ようと思っていた恋愛映画「ユー・ガット・メール」を観
ていたのです。トム・ハンクスやメグ・ライアンが特に好きなわけではなかっ
たのですが、彼氏と二人でハッピーエンドの恋愛映画を観たかったのだと思い
ます。

映画が進むに連れ、ジョー・フォックス役のトム・ハンクスが彼に、キャスリ
ーン・ケリー役のメグ・ライアンを私とダブらせて観ていました。映画の中で
はハッピーエンドだったのに・・・・

私の瞳の中には涙が溜まりスクリーンが見えない状態でした。その時、私の手
を愛美はしっかりと握ってくれたのです。

「大丈夫?」
「ごめん、思い出しちゃった・・・」
「私を彼氏だと思っていいよ」
愛美が私に囁いたのです。彼女はすっかり私の失恋を確信しているようです。
「ありがとう」


私と愛美は映画を観終わった後、イタリアンレストランバーで食事をすること
にしました。代官山にあるチャールストンカフェと言うところで愛美のよく行
くお店だそうです。

「ここはカクテルだけで130種類位あるのよ」
「へぇー、全部飲んだの??」
「まさか、笑」
「今日はワインにしましょう」
「うん」
「サンジョベーゼ ディ ロマーニャでいいかなぁ?」
「よくわからないから、お任せるわ」
「じゃ、これにしましょ。ボトルで、よね、笑」


「さて、何を食べましょうか」
「うーん、ここは何が美味しいの?」
「私はペーシェ・スパーダが好きで良く食べるわ」
「なに?それ・・・」
「カジキマグロ・ナス・トマトソースのスパゲッティーよ」
「・・・・私はパスします、笑」
「そうね、今日は二人の出会い記念と言うことでリッチに行きましょう」
「仔牛ヒレ肉のソテーマルサラワインソースにしようかなぁ」
「それじゃ、私も。サラダは、海の幸のマリネサラダ仕立てでいいかな?」
「うん」

「ここ感じの良いお店ね、食べ物も美味しいし。いつも誰と来ているの?」
何気なく私は愛美に探りを入れたのですが、彼女はそれには答えず・・・
ニコニコしているのです。

「舞って可愛いわね、笑」
「なに?急に、笑」
「だって、泣いたり笑ったり忙しいんですもの」
「あはは、恥ずかしい所を見られちゃったなぁ」
「そんなこと無いって、そう言う舞・・・好きよ」
「ありがとう、笑」

「ところで、さっき買った指輪交換しない?」
「いいわよ、でも何から何まで同じじゃない、笑」

愛美は自分の持っていた指輪の箱を開き、中から結婚指輪を取りだしたのです。

「右手を出して・・・」
私が言われるままに愛美の方に右手を差し出すと、彼女は私の薬指を取り指輪
をはめたのです。
「私にもお願い」
「あっ、ごめん」
私は急いで自分の持っていた指輪を取り出すと同様に愛美の薬指に指輪をはめ
たのです。

「これで二人は離れられない関係だよ」
「あはは、そうね」
私はなんだか照れ臭くて笑っていたのですが愛美は真面目な顔をしているので
す。
「この指輪はどんな時も外さないでね」
「二人の友情の証ね。お風呂の時もトイレの時も外さないことを誓います」
私は宣誓のポーズをしておどけてみました。
「男性とエッチをする時もよ、笑」
「もう懲りたから男は作りません!」
「あらあら」

「さて、そろそろ出ましょうか」
「そうね、もうこんな時間」
「今日は付き合ってもらって、ありがとう」
「そんなぁ、私こそ、指輪までプレゼントしてもらって、悪かったわね」
「いいのよ、笑。結婚指輪を受け取ったということは、今日から舞は私のもの」
「あはは・・・ちょっと安売りし過ぎたかなぁ?」
「ここはの代金も私が払うわよ、笑」
「そんあぁ!いくらなんでもダメよ。割り勘にして」
「さっき、お勘定は済ませて来たもの」
「えっ?・・・いくらだったの?」
「いいのぉ!、でも、私が払う変わりに、お願いを聞いてくれない?」
「なに?」
「今度の休みの日に私の家に来てご馳走を作ってよ。私、料理苦手で、笑」
「私が作るの?」
「そう、舞は私の彼女なんだから、家に来て手料理を私の為に作るの」
「料理、私もあまり上手くないわよぅ」
「勉強しなさい。笑」
「はいはい」