ナルシスの転落 25・転売の日(作:宮城耕一さん)
口ひげが昨日、ビデオは終わりだ、マレッタ、元気でなと言った。みんなも
元気でなと言った。あたしは、「みなさん、ありがとうございます。お元気で
」と答えた。あたしはこういう女なんだ。どうしてありがとうございますなん
て言ってしまうんだろう。ビデオがはじまってからここの人たちはあたしを抱
いたり、というか、犯したりキスしたりしなくなった。撮影の四日目には五人
、五日目には六人、客を取らされ続けた。今日、あたしは転売されるのかもし
れない。
昼食の後、ひげが来た。お化粧をしろと言った。あたしは昨日の真っ赤なマ
ニキュアとペディキュアがはげていないのを確かめて、ガーターをしてヒール
をはいて、お化粧をした。派手にした。ひげがお化粧がすむと、すぐに後ろ手
に胸縄首縄をして股縄をし、ボール・ギャグをかませた。
ドアを開け、一階の裏口から外へ出された。久しぶりの太陽だった。村井の
マンションから連れ出される時に太陽を浴びたことを思い出した。宅急便のよ
うなトラックがエンジンをかけたまま止まっていて、中にのぼらされた。あた
しは監禁されていた建物を振り返って見た。ラブホテルだった。レンガのよう
なタイルの貼ってある。「マーメイド」と名前が見えた。「人魚」、「人魚姫
」か。
中にはすでに四人、女たちがあたしと同じ格好でトラックの天井から吊られ
ていた。見たことのない顔ばかり。女はたいてい半年で転売されるのだろう。
あたしは男から女に性転換させるために二年以上かかったんだ。
あたしも天井から吊られた。扉が閉まった。薄暗い照明があたしたちを照ら
していた。
トラックが出発した。あたしたちは揺れるたびにヒールを踏みしめ、股縄にな
にか塗られていて、発情していくのを感じた。時間が長いのか短いのかわから
ないけど、あたしたちは扉が開くまでみな腰をくねらせ、あえぎ声を出してい
た。
扉が開いてギラギラとマスターが乗り込んできた。あたしたちはどこかの建
物の前に下ろされて、トラックから出てきたひげと村井に連れられて、内部に
入れられた。廊下を一列に歩いた。あたしは最後尾。後ろにギラギラとマスタ
ーがついている。あたしはまたしても、一時的であれ、村井やひげやギラギラ
、細面を愛していると思ったり、好きと思ってしまったことを後悔していた。
かなり大きな部屋に入れられた。コの字の形に部屋の三方にソファーのような
低い椅子が並べられてあり、正面に折り畳み椅子が二十くらい並べられてあっ
た。
あたしたちは股縄をはずされた後、隅のソファーのような椅子に浅く腰掛け
させられ、腕木に足を開いて乗せられ、足首を皮のベルトで拘束された。さら
におなかのところを椅子の下から皮のベルトで締められた。オマ○コのびらび
らを洗濯ばさみがはさんで、紐で引っ張られて全開され、紐がどこかに結びつ
けられた。すごい痛みは慣れられるものではなかった。「5」というプレート
つきの首輪をされた。うちの他の女は1から4で、あたしが商品番号「5」な
のだろう。
三人の女たちが、あたしたちと同じガーターにヒール、後ろ手に胸縄、首縄
、ボール・ギャグの姿で現れ、ほかのソファーに次々に拘束されては、オマ○
コ全開にされ、ナンバープレートつきの首輪をされていった。今度は五人の女
たち、最後に二人の女たちが連れ込まれた。売られる女は十五人だ。ガーター
やヒール、ギャグ、縄は色とりどりだった。女たちが全員拘束され終わると、
男たちがどやどやと入ってきた。スーツもいればブレザー、ジャージと服装は
ばらばらだった。でも、あたしは、この人たちは一般的な客なのではなくて、
風俗業、というより売春業者なのだわと思った。
男たちは拘束されている女たちを品定めしはじめた。あたしのところにも品
のない男が来て、あたしの顎を上げて顔を見、オッパイをさわり、オマ○コの
色を見て、指を突っ込んでくねくね動かして、中の様子を調べた。オマ○コの
襞をひっかかれると感じて、あたしはあえいだ。よだれがオッパイにしたたっ
た。アヌスにも指を入れられた。次の男は何かささやいたけど、中国語のよう
だった。中国人はほかにあたしの髪の毛を引っ張って、髪の毛の状態を調べた
。次は日本人。次は朝鮮語のようだった。次はヤクザっぽい日本人。次はアラ
ブ系と思われる外人。何人かわからないけど、たいてい椅子が二十あったから
、二十人の男たちに、体中をまさぐられ、女の中に指を入れられては燃えはじ
め、また冷めてを繰り返して、下検分は終わった。
男たちが前の椅子に集合してやりとりをはじめた。あたしたちはどれくらい
の時間、娼婦としての品定めをされていたのだろう。そしてあたしたちはどれ
くらいの値段で売られるんだろうか。ここの女たちの中には、あたしのように
さらわれて調教され、エロ写真や裏ビデオを撮られ、客を取らされて初めて転
売される女も、二回目とか数回目の転売を待っている女もいるんだろうなあ。
男たちが立ち上がった。あたしの前に男が来た。アラブ系だった。だとする
と、その男の国へ連れて行かれて、売春をさせられるのだわ。日本とはお別れ
。涙が少し浮かんだ。村井が足首とおなかのベルトをはずし、足首をそろえて
短い縄で縛った。ギラギラが大きなジュラルミンのトランクを運んできて蓋を
開けた。二人に抱き上げられると、あたしは助けて、助けて、売らないで、と
ギャグの中から叫んだ。もちろん言葉にならず、ただわめいているにすぎない
ことはよくわかっていた。身をくねらせて逃れようと、暴れようとしたけど、
こんなにくくられていてはどうしようもなく、簡単にバッグの中にしゃがみ込
むような姿勢で横たえられ、首輪をはずされた。村井とギラギラ、ひげがあた
しをのぞき込み、元気でな、と言って、トランクの蓋を閉ざした。あっと言う
間もなくあたしは暗闇に窮屈な姿勢で全身縛られ、猿ぐつわの状態で閉じ込め
られた。体が傾いた。あたしの顔と膝が下になり、やがてごろごろとトランク
を転がす音がして、あたしはどこかへ運ばれ出した。あたしはようやくしくし
く泣きはじめた。
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