第2章 強姦


  「ねぇ。いいでしょ?」
田中瞳は強引に木村瑞穂をOFF会に誘っていたのである。最近、瞳はE-mail
にハマッテいてメール友達から呑み会に誘われたらしく、一人で行く勇気が無
い為、同僚の瑞穂を誘っていた。

「急に言われても・・・それにアノ日だから・・・お腹も痛くて」
「そんなもの、呑めば直るわよ。友達を連れて行くって言っちゃったのよ」
「そう言われても・・・」
「一生のお願いだから」
「もう・・仕方無いわね・・」
「やったぁ。だから瑞穂は好きなのよ」

結局、瑞穂は強引にOFF会とやらに連れて来られてしまったのであった。
確かに見ず知らずの人達が逢ってお酒を呑みながら話しをするのは新鮮で楽し
かったかも知れない。しかし、メールのやり取りをしている瞳はとにかく瑞穂
はE-mailを一度もしたことがなかったのである。メールと言えば会社での業務
メールしかしらない瑞穂にとって何がそんなに楽しいのかまったく判らなかっ
たのだ。

女性は瑞穂と瞳の二人だけであった。他には男性が5人、OFF会には全部で
7人が集まっていた。

「瑞穂ちゃんは無口なんだね」
大学生だと言う耕太郎が話し掛けて来た。もちろんハンドル名であって本名で
はなかった。ハンドル名を持っていなかった瑞穂だけが本名を名乗ったのであ
る。

「いつもは、もっとうるさいくらいなのよ。笑」
横からぷ〜ちゃん(瞳)が口を挟んだ。
「じゃ・・今日はどうして」
「ア・・・痛い」

酔っ払ったぷ〜ちゃん(瞳)はなんでも話そうとするのである。瑞穂がアノ日
である事など平気で喋ろうとするのだ。横で瑞穂が瞳のお尻を抓ったのであっ
た。

「なにをするのよ!」
「ぷ〜ちゃん、酔ったでしょ」
「酔ってなんかぁ・・ねぇ〜」
「十分、酔ってるみたいだね。笑」
大学生の耕太郎が言った。

「二時間の予約だから、そろそろ、ここは締めないといけないんだけど・・」
「そうなんだぁ」
「カラオケでも行きます?」
「いきま〜す!!」
瞳が大きな声で賛成した。

「他の人はどうする?」

結局、全ての人が二次会に流れることになったのである。瑞穂もカラオケは嫌
いでは無かった。瞳とも月に何回かはカラオケでストレスの解消をしているの
である。

2時間のカラオケタイムはすぐに終わった。はじめのうちは遠慮しながら曲を
いれていた人達も後半になると次から次へとエントリーをしたため9曲も残っ
ているのだ。

「どうする?延長する?」

いつのまにかリーダ格となってしまった耕太郎がみんなに尋ねた。

「ごめん、私、明日会社だからそろそろ帰ります」
「え〜っ、私だって同じじゃない」
瞳は酔っ払って腰が重いのか、このまま居座る気らしい。

「瞳も帰ろう」
「嫌!」
瞳は隣の大学生と腕を組んで離そうとはしないのだ。

「じゃ、私だけ帰っちゃうわよ」
「いいよぅ!byebye」

「僕も明日、早いから帰るよ」
以外にも耕太郎は帰ると言い出したのだった。

「お〜い、二人で帰って・・・襲うんじゃないぞ。耕太郎」
「自信は持てないかも。笑」

瑞穂と耕太郎の二人だけがカラオケルームを後にしたのである。時計は夜11
時を少し回っていた。

「僕は地下鉄なんだ。君は?」
「私はJRなの。ここでお別れね」
「駅まで送ろうか?」
「ううん、大丈夫よ。ありがとう・・・」
「また、逢えるかな?」
「どうだろ(笑)」
「今度、メールをするよ。アドレスを教えてくれる?」
「会社のでもいいかしら?」
「そちらに問題が無ければ」

瑞穂は会社のメールアドレスを書いて耕太郎に手渡し別れたのであった。




遠藤学は会社で残業をしていた。

「遠藤課長、まだ帰らないんですか?」
「あぁ、もう少しで終わるから、先に帰って良いよ。お疲れ」
「そうですか?それじゃ、お先に失礼します」

遠藤は一人になると大きく背伸びをして再び資料の作成を始めたのである。

「ふ〜う、もう少し・・・」
その時、昼間と同じように地震が起きたのである。正確には遠藤だけが揺れて
いる感覚に襲われたのである。

(また・・・)

視野が暗闇に閉ざされ、遠藤の視野に再び明かりが戻った時、そこは会社の近
くのコンビニの前であった。

「おい、何をシカとこいてるんだよ」
「?」

遠藤が声につられて振り向くと如何にもガラの悪そうな不良に囲まれていた。

「いいだろ?ちょっと付き合えよ」
「何を言っているんだ?」

自分の声に遠藤は驚かせられた。ドスを効かせて発した声が女性の声だったの
である。まるで、宝塚の男役である。180cm以上の背丈のある遠藤は相手を
見上げることなど殆ど無かった。しかし、目の前にいる男達は2メートル近く
の大男ばかりに見えたのだ。もちろん不良達は2メートルもあるわけではなく
遠藤の背丈が縮んだため見上げる恰好となってしまっているのである。

(また・・・昼間と同じ・・・幻覚か?)

「ほぅ、勇ましいお嬢さんだね」
「オレはそう言う女をヒィーヒィー言わせるのが好きなんだな。笑」
喧嘩でもしたのだろうか?前歯の欠けた頭の悪そうな男が言った。

(今はそれどころじゃ無いんだよ)

「悪いけど、頭の悪い男の側には近寄らないようにしているんだよ、馬鹿が移
  ると困るからね」

「なんだと?この野郎」
遠藤は野郎じゃなくて女だと言おうとも思ったが、今の自分を肯定する気には
なれず言葉を飲み込んだのだった。

「おいおい、野郎じゃないだろ?」
もう一人の頭の悪そうな不良が隣の男にいってしまった。
「どっちでも、、、いいだろ」
(良く無い・・・深刻な問題だ)

「大人しく誘っていれば調子に乗りやがって」

どちらにしても今の遠藤には喧嘩をして勝てる相手ではなさそうであった。コ
ンビニの中を見ると店員は見て見ぬ振りをしているのだ。駅まで行けば交番が
あるのであるが200メートル近くあった。

遠藤は戦うことをあきらめ逃げることに決めていた。男達の隙を見て走り出し
たのである。しかし、慣れないヒールに足をくじき転んでしまったのである。
あわやアスファルトに衝突しそうなところを不良に支えられてしまったのであ
る。逃げるどころか自分で不良の懐に飛び込んでしまった結果になった。

「やめろ!」
遠藤は自分で飛び込んでおきながら両手で不良の胸を押し離れ後ずさりした。

三人の不良は遠藤を逃がさないようにと警戒し回りをすっかり囲んでしまった。

「ここじゃ、人通りが多くて恥ずかしいだろう?近くの公園に行こうか?」

そう言いながら不良の一人が遠藤の手を掴んだのである。遠藤は勢いよく腕を
引き、捕まれた手を振りほどこうとしたのだが不良の握力は思ったより強く、
手を振りほどくどころか自分の体を不良に引き寄せる恰好となってしまったの
である。

不良の手が背中から肩を抱くように遠藤を押え込んだ。彼は(今は女性である
が)腰を落としてその場から動くことを躊躇ったが、もう一人も加わって抱き
かかえるように連れられてしまったのである。

遠藤は助けを呼ぼうとしたのだが、それを察した不良は手で口を塞いだのだ。

「うぐぅぅ・・」

いくら遠藤が力を振り絞り暴れても彼を抱えた二人の不良は動じないのである。

(男の力はこんなに強いのか・・・)

遠藤は必死にもがき口を押さえられた手をなんとか外した。彼はこの機を逃さ
ず声をあげようとしたのだ。

「たすけ・・うぐぅ・・」

一人の男がハンカチを遠藤の口に捻じ込んだのだった。喉の奥まで詰め込まれ
たハンカチが遠藤の吐き気を誘った。目にも涙が溢れて来たのだ。

「よし、、ここなら人が来ないな」
「三人で順番に気持ち良くしてやるよ」

「うぐぅぅ・・・・」

(僕は犯されるのか・・?)

「誰が一番良かったか、後で答えるんだぞ」
「わかったか!」

一人の不良が遠藤の頭を上から押え込み、あたかも遠藤が「はい」と返事をし
たかのようにさせた。

「よし、その男の女になるんだぜ。わかったか?」
また、同じように遠藤の頭を強引に下げさせた。遠藤は恐怖に震えていたのだ。

「手始めに、俺のモノをしゃぶってもらおうか!」
そう言うと前歯の欠けた男がズボンを脱ぎ出したのである。

「おい、立っていたらしゃぶれないだろ?跪けよ!」
遠藤を押え込んでいた男が無理矢理、彼を座らせたのである。その間にも前歯の
欠けた男は自慢のモノを取り出していたのである。

「下を向いていたら、しゃぶれないぞ!」
「いたぁい」
男が遠藤の長い髪を鷲掴みにして顔を上げさせたのであった。遠藤の目の前に大
きく膨張した、モノがあった。

「やめてくれぇ〜っ」
悪臭が遠藤の鼻につく。
「咥えたいんだろ?言ってみな!」
「うぅっ」
「ほらっ、その可愛い唇を開けよ!」
遠藤は唇を結び、男のモノから顔をそむけたのである。


「こら〜っ!そこで何をしてる!!」
少し離れたところで男性が怒鳴る声が聞こえた。

「やばい、人が来たぞ」

人影が走って近づいて来る。

「ちぇっ」
不良達は遠藤を突き飛ばし、走って来た影に向かって転がすと反対方向に走っ
て行ったのである。

「大丈夫?遠藤さん」

遠藤は抱きかかえる男性を見て唖然とした。それは遠藤本人だったのである。
もちろん、今の遠藤の容姿は男性の遠藤ではないから同じ人間が二人いるので
はないが、少なくても遠藤は自分の容姿をした男性に抱き抱えられていたので
ある。男性の胸には木村というネームプレートが付いていた。昼間に見た木村
課長はどことなく自分に似ていると感じただけであったが、今の木村課長は遠
藤と、うりふたつと変わっていたのである。


「・・・・木村課長?」
「ああ、コンビニに夜食を買いに来たら、遠くから君の姿を見かけたんだ」
「どうも・・・ありがとうございます」

遠藤は心からお礼を言っていた。男達に襲われたショックが自分が弱い女だと
認識させられていたのである。

「駅まで送ろうか」
「すみません」

木村課長に遠藤は駅まで送ってもらい別れると、すぐに来た電車に飛び乗った。
遠藤は電車の吊革につかまり、夜の町並みを走る電車の中から眺めていた。

(僕はどこに帰ろうとしているんだ?)

再び、目の前に暗闇がおとずれたのである。




気が付くと遠藤は会社のデスクに座っていた。目の前にはコンビニで購入した
と思われるオニギリが二つと紙パックの牛乳が置かれていた。

(また、幻覚か??)

遠藤は自分の体調が悪いことに不安を覚えた。

(今日は早く帰って寝よう・・・)

彼は仕事を途中で切り上げると会社を出たのである。