第一章 仮想現実 真希の股間には巨大なバイブが挿入されていた。男が特注だと自慢するだけ のことはあって、機能も最近のIT技術を組み込んだものであった。子宮の収 縮や筋肉の動きに合わせ振動や動作が変わるのである。ある時は同調し精神的 な高揚を増長したと思うと、強引に真希の波動を乱す動きもする。装着されて 数十分の間に何度も真希は絶頂感を味わされていた。全身は汗ばんみ、股間か らは愛液が溢れ太腿を伝わっていた。すでに立っていることも出来ず窓際に崩 倒れていた。手は後ろ手に手錠か掛けられ自分で装着されたバイブを抜き取る ことも出来ないのである。 「お願いです。もう外してください」 「気に入らないのかな?こんなに濡れているのに・・・」 男は倒れている真希の太腿に流れた愛液を指で拭うと、真希の鼻先につけた。 「うぅ・・」 「どうした?返事をしなさい」 真希は返事どころではなかった。何度目かの絶頂感に耐えていたのである。 目の前が白くなり気が全身から抜けるのを感じた。そして甘い虚脱感に包まれ たのだ。 ユウジに部屋の光景が飛び込んで来たのはこの時であった。 全身の虚脱感が彼を襲った。 (なんだ?この状況は・・・・) 起きようにも手は後ろ手に手錠を掛けられ、股間に挿入された機材は下半身の 身体能力を完全に奪っているのである。 ユウジはアバターの記録をサーチした。自分の記憶と真希の記憶が融合する。 普段であればアバターの記憶レベルを準備段階で最低レベルに下げた上で精神 の転送がされる。したがって、アバターの記憶は本人の記憶の上に軽く焼き付 けられるだけであるのだが処置の施されていないアバターに転送されたユウジ は記憶の渦に巻き込まれ混乱の状態にあった。普通の人間であったら錯乱状態 に陥り精神障害や二重人格として心の崩壊を来たしていたであろう。 男はそんなユウジの状況を無視するかのように、細く白い首に首輪を付けると それに繋がった鎖を引いたのである。 「ほら立て!」 身体を支配している真希の精神は素直に男の命令に従うべく立ち上がろうとす る。しかし、後ろ手に自由を失った身体とフラフラとなった下半身は思うよう にバランスを保つことも出来ず立ち上がることを許さなかった。 「なにをしてるんだ?」 「すみません」 「仕方ないな」 男はそう言うと真希に掛けられた手錠を外したのである。痕となった細い手首 がとても痛々しかった。 「ほら、これでどうだ?」 男が真希に背を向けた瞬間、ユウジは近くにあった花瓶を手に取ると男の後頭 部を強打したのである。力を振り絞ったユウジは男と共に床に崩れてしまった。 男が起き上がらないのを確認するとユウジはゆっくりと股間に挿入されたバイ ブを抜いた。圧迫さていたものが抜き去られ開放感がユウジに戻って来た。 ユウジはしばらくの間、天井を眺めながら体力の回復を図った。 ユウジは真希の衣服を身につけ自分の手を動かしてみた。白い小さな手が結ん だり開いたりしていた。 (よりによって、女の子のアバターか・・・) (障害が発生したか?・・とにかく本部と連絡を取ろう・・・) ドアを開けて外に出ると黒いスーツの男がニヤニヤしながら、真希を舐めるよ うに姦視したが部屋での出来事には気がついていないようであった。 ユウジは素知らぬ顔でエレベータへと向かった。 ロビーに着くと男が近づいて来た。真希と一緒に来た男だとユウジは思ったが 無視をしてそのまま出口へと向かった。 「おい、何を無視しているんだぁ?上手くやったんだろうな?」 男の手が華奢な真希の肩を後ろから掴みユウジを振り向かせようとした。ユウ ジは振り向きざまに男の鼻柱に最大級のパンチを食らわせたのである。不意を 突かれた男は鼻血を出しながらその場に倒れたのである。 「このやろう!何をしやがる!」 クリーンヒットであった。普通であれば相手はその場で気を失うか戦意を喪失 するハズであったのであるが、今のユウジの身体は身長150cm、体重42s である。そこまでの破壊力は無かった。それどころかユウジの細く小さな手首 には激痛が残っているのである。 ユウジは本部への連絡を優先すべく、出口に向かって走った。 「石島ー!」 後ろで男の声が聞こえた。出口を見ると巨漢の男がユウジを待ち受けていた。 石島とはホテルまで真希を乗せて来たベンツの運転手であった。 石島に出口を塞がれたがユウジは強行突破を図った。突進する勢いに体重を乗 せて体当たりを食らわしたのである。石島はその場で弾き飛ばされるハズであ った。しかし、飛ばされたのはユウジの方だったのである。よろめくユウジに 向かって石島の平手が飛んだ。目の前に火花が飛んでその場にユウジは崩れ落 ちたのである。 「くそっ!」 すぐに立ち上がり、逆襲に出ようとするユウジだったのであるが、身体はそれ を拒否していた。真希の精神が絶望感と敗北感で諦めてしまったのである。 追いかけて来た男の蹴りが床に這い蹲うユウジの腹部を襲った。激痛が真希の 身体を覆い、その中でユウジも抵抗力を失った。身体は完全に自由を失ってし まったのである。 |