第弐章 羽黒山(古代神事能の伝承)


  国道44号線を右折し47号線に沿いに2人は羽黒山を目指した。かれこれ1時間も経過
していただろうか、美佳の様子が少し変だ。
「どうかしたのか?」
「ううん、トイレ・・・」
裕紀が尋ねると美佳はもじもじして小さな声で告げる。
「おい、漏らすなよぅ。この歳でお漏らしをしたなんて恥ずかしくて生きて行けなくなるよ。
  早く車を止めてやってこいよ」
「お漏らししたら恥ずかしいからこの体はもういらない?」
まだ少しは余裕があるのか美佳も言うことだけは言うのであるが顔は我慢の限界のようで苦
痛に歪んでいた。しばらくして目立たないところに車をつけると美佳はパジェロを降りた。
「早くね!」
裕紀は助手席から見送ったのだがなかなか帰って来ない。すると車の影から裕紀を呼ぶ声が
聞こえて来た。助手席から外に出て車の影に回ると美佳は立ったまま困惑した顔で裕紀に救
いを求めていた。
「どうしたんだよ。おちんちんを摘み出してするんだよ」
「えーっ、触るの?」
「触らなきゃ摘めないでしょ」
「お箸かなにかで・・・もう、ダ」
ヤバイ、裕紀は彼女に近づきペニスをジーパンから取り出すと勢いよく放尿させた。

危機一髪であった。白い細い指に支えられて裕紀のペニス(今は美佳のものだが)からは放
尿が続いている。
「おい、自分で持てよ。誰かに見られたらどうする」
「それは私だって同じよ。男性のおちんちんを持ってオシッコをさせていたなんて、お嫁に
  行けないわ」
相変わらず女言葉で喋る。結局、彼女は裕紀のペニスから目を逸らし触ろうとはしなかった。
パジェロに乗り込もうとした時、今度は裕紀の下腹部に変な感触が走った。昨日から下腹部
がズンズンしてはいたのだが女性の体はこんなものだと思っていた。それがだんだん強くな
って来ていたのだ。
「どうかしたの?裕紀」
顔色を見て裕紀もトイレをもようしてると考えた美佳は意地悪く質問して来た。
「どんな感じなの?」
裕紀は症状を美佳に告げると意味ありげな顔をしてた。
「そろそろだと思っていたけど・・・ちょっと早かったかな(笑)」
「裕紀は、始めて男でありながら女を経験した人類かもね」
美佳の言い方で何が起こっているかを理解した裕紀は不安な気持ちで一杯になってしまった。
「どうしよう」
「何を情けない顔してるのよ。女の子はみんな経験することなのよ」
裕紀は情けない声を発して美佳に救いを求めたのである。結局、国道沿いのコンビニで裕紀
はナプキンを買わされ、ふたりでラブホテルに入った。どちらが買うのか少し揉めたのだが
男性の姿である美佳が買うわけにはいかないので裕紀が買ってきたのである。

ホテルに入ると美佳は裕紀にお風呂に入るよう勧めた。確かに裕紀は昨日の夜から納戸に閉
じ込められ、顔も洗っていないのである。自分の身体と顔が粗末に扱われるのが気になって
いるようだ。裕紀もいつもなら気にも止めない匂いが気になるので勧められるままに入るこ
とにした。脱衣所で着ているものを脱ごうとすると美佳が飛んで来て目隠しをするように言
う。突然、自分の全裸が見られることに気がついたようだ。裕紀は目隠しをされ彼女の手に
よって全裸にされた。シャンプーも体を洗うのも彼女が行っている。他人が見たら全裸にさ
れ目隠しされた女の子が野獣に体を弄ばれているように見えるかもしれない。そう考えると
体を洗うスポンジが妙な感覚をそそるのである。乳首に触れたり股間を洗うときなど声を堪
えるのに苦労していた。
「ちょっと、裕紀!感じているんじゃないでしょうね!」
いつのまにか綺麗に膨らんだバストの先にあるピンクの乳首が固くなっていたのであった。

裕紀はお風呂から上がると小さなパンティーの変わりに買って来たショーツにナプキンを付
けて履かされた。ブラジャーを付け目隠しをはずすと美佳は裕紀の前に周った。
「それじゃ元に戻りましょう」
裕紀と美佳の二人は手を握り昨晩のように念じたのである。しばらくすると目の前にフラッ
シュが光り出した。しかしいつまでたっても裕紀の身体は丸みをおびた柔らかいままである。
「裕紀!ちゃんと集中しているの?」「二人が同時に念じないとトランスしないのよ」
裕紀の神経は鈍い下腹部の痛みによりなかなか集中出来ないでいるのだ。裕紀はこの事を美
佳に告げると美佳は一瞬困った顔した。
「女性は女になった時から毎月その痛みに耐えているのよ。女性の苦労がわかるでしょ」
「その痛みは何日間かは続くんだから治まるまで待てないわよ、さぁ。はじめましょ!」
「あはは、美佳に取っては都合の良い生理だったんじゃないのか?これでもう僕は元に戻れ
  ないよ。この忌まわしい腹痛のなかで集中するなんて出来るわけないだろ。君はこの体か
  らオサラバ出来るんだ。よかったじゃないか」
美佳はいつになく恐い顔をしたと思うと話だした。
「私、その身体とても好きなの、生まれた時からずっと私と一緒だったのよ。そんな月もの
  があろうとなかろうと一生死ぬまで、50年でも10年でも、たとえ残りが1年でも私の
  体が一番好きなのよ。早く返して!!」
美佳の顔は悲しい顔に変わっていた。昨日、裕紀は半信半疑で聞いていたのだが20歳まで
に男性の体に変わらなかった場合、美佳は精神と身体が遊離してしまいその生涯を終わる事
となるのである。あの時は本気にしていなかったのだがこうして体の入れ替えが実現した事
を考えると20歳でその生涯を閉じることも事実であろう。それを思うと美佳の行為や言葉
が突然重みを増して裕紀の心に迫って来る。美佳は死を覚悟で裕紀を元の体に戻そうとして
いるのだ。裕紀の目から突然、大粒の涙がまた溢れ出てきてしまった。

「美佳、もういいよ!僕もこの身体、気に入っているんだ。美佳に返したら1年で終わって
  しまうんだろぅ?こんなに綺麗な身体なのにもったいないじゃないか。この時期に生理に
  なってしまったのも神様の意志だと思う。。。の、ずっとこのままでいい、わ」
裕紀はわざと女性の言葉をしゃべり出したと思うとブラジャーを外し自ら乳首を摘んだので
ある。早く女性の体に精神が同化してしまえば元の自分になんか戻らなくても良いように思
うだろう。甘い感覚が裕紀の全身を急速に包みだした。体が熱くなり下半身に熱いものが溢
れ出すのがわかる。(もっと、、、)裕紀は美佳の股間に目をやるとジッパーを下ろしフェ
ラチオをしたい衝動にかられていた。(この体、だれにも返さない!)

その時、大きな手の平が裕紀の赤みを帯びた右頬を捕らえた。呆然としていると次は左頬に
手の平が飛んできた。
「しっかりして!裕紀、早く服を来てここを出るわよ!」
美佳は裕紀に服を着せると急いでホテルを出たのだ。裕紀は彼女に引きずられながら車の助
手席に乗せられた。



「着いたよ!早く降りて。」
「ここはどこ?」
「羽黒山だよ」
美佳が場所を告げた。裕紀はいつの間にか寝てしまっていたようだ。辺りは何時の間にか山
の木々に覆われている。自分で話す言葉のトーンにも慣れて違和感を感じなくなってきてい
る。
「どうしてここに来たの?」
こころなしか美佳の喋り方は男性的になって来ており、裕紀の喋りかたし優しく女性的にな
っているような気がする。彼女の祖父は3日間もすれば完全に女性化すると言っていたが生
理の為か裕紀の女性化は急ピッチで進んでいるようだ。
「ここは日本屈指の霊地なの、ここなら精神が安定するから元に戻れるかも知れない」
美佳はそう言うと車を降りた。

途中、一の坂の登り口で羽黒山五重の塔に寄る事にした。この搭は東北では最古のもので。
確かに美佳のような霊力のない裕紀でもなにやら神秘的なものを感じた。
「少し、正気に戻った?その体はあなたの物じゃないのよ」
美佳は裕紀に言い聞かせ裕紀も肯いたのだが、それを阻止するかのように裕紀の下腹部に鈍
痛が走った。思わず手を当てる裕紀の仕種を見ていた美佳は
「本格的にはじまってしまったみたいね。先を急ぎましょう」
石段を足早に上りはじめた。

羽黒山隋神門から山頂まで2`の表参道・石段の両脇には樹齢500年を越える大杉の並木
が続いている。裕紀も強い霊気を感じ心が落ち着く気がしてきた。しかし長い石段が続き疲
れて来てしまい裕紀の歩くペースは急に鈍り出したのだ。
「待って」
息を切らせながら前を歩く彼女に救いを求めた。美佳は少し戻って来るとその大きな手で裕
紀の手を握り優しく労わるように引いてあげたのだ。他人が見たら、きっと若いカップルの
男性が女性を労りながら山頂を目指していると思うだろう。
「美佳は能舞で体を鍛えているんじやないの?なんでこんなに疲れるんだよ」
「あの日はすごく疲れるの、まして裕紀の精神は私の体に馴染んでないから余計な体力を消
  耗するんじゃないかなぁ?」


山頂に着いたのは4時を回っていた。美佳は三神合祭殿の中に入らずその前を通り過ぎる。
「どこに行くんだい?」
「この辺りでもっとも強い霊場に、すぐだから」
いい加減疲れていた裕紀はその場に座り込もうとしたのだが美佳に促されて渋々歩き出した。
5分程、獣道のようなところを歩くと突然、ひときは大きな杉の樹が目に飛び込んできた。
その直径は大人が10人くらい手を繋いでもこの樹を囲めないと思われるくらいある。
「この地の霊力がここに集まってこの樹に宿っているのよ。今から少しこの霊を分けてもら
  いましょ」
裕紀の姿をした美佳は光を発し出したのである。この光は大学のキャンパスで見た輝きと同
じものであることを裕紀は悟った。すると、すぐにその輝きは鬱蒼とした森の中に広がり裕
紀の体を包込んだと思うと美佳の姿をした裕紀自身も光を発しだしたのである。お互いの光
のなか心がひとつになって行くのがわかる。裕紀の頭の中で美佳が語り掛けてきた。
「さあ、裕紀!自分の体に戻りましょう」
突然、フラッシュが起きて裕紀は気を失ってしまった。

気が付くと横には美佳がいた。小柄で髪の毛を肩まで伸ばした女性の美佳である。裕紀は自
分の手を眺め顔を触り男の体に戻っていることを確認すると、気を失っている美佳を揺り動
かした。
「おい、美佳!大丈夫か?」
彼女の閉じられた長い睫が少し動いたと思うとそれは大きな黒い瞳に変わった。彼女も自分
の体を確かめ笑みを浮かべた。
「成功したね」
と嬉しそうに喜ぶ。思わず裕紀は美佳の小さな体を抱きしめていた。美佳は裕紀の胸の中に
少しの間、顔を埋めたと思うと顔を上げた。
「よかったね」
美佳は無邪気な顔をして人ごとのように言った。そうなのだ、彼女にとっては良くないこと
なのかも知れない。癌で余命1年を宣告されたのと同じことなのだから。

「そろそろ下山しましょう。すぐに暗くなるから」
美佳は告げると裕紀を促し歩きだした。裕紀はすぐに彼女に追いつき追い越してしまった。
身軽になったのである。先ほどまでの下腹部の鈍い痛みがすっかり無くなっていたのである。
きっと美佳は今その痛みを自分の変わりに下腹部に抱え後を歩いているに違いない。裕紀は
美佳を少し待ち彼女に手を差し伸べた。美佳はその白い小さな手で裕紀の手を握った。
「ありがとう」
そして2人で下山しだしたのである。

裕紀は鶴岡の駅までパジェロで送ってもらった。大きな運転席には小柄な美佳が座り運転し
ているのだが前がよく見えないようだ。裕紀が運転してあげれば良いのだが実は運転免許を
持っていなかったのである。駅のロータリーに車が着くと裕紀は助手席のドアを開け車から
降りた。
「さようなら・・・」
車から出た裕紀に向かって美佳の声がする。僕は振り向き美佳を見てホテルでの会話を思い
だしていた。
「美佳、ホテルで僕が言ったこと」
「ううん、気にしてないわ、裕紀は気が動転していたんだもの、わかっているから」
「そうじゃなくて、美佳が本当に1年の命なんだったら考えても良いと思っているんだ。で
  も結論はすぐに出せなくて、もう少し考えさせてくれ」
「いいのよ、無理しなくても」
「1年の間には必ず結論を出すから」
「期待しないで待ってるわ」
美佳は微笑み裕紀を黒い大きな瞳で見つめている。
「それに・・・・、」「美佳の体でいるのも満更じゃなかったんだ(笑)」
「もしかして、女の喜びを知ったとか?(笑)。じゃ、また大学で!」
美佳はそう言うと急に車を発進させた。美佳の視界を涙が塞いでしまいそれでなくても危な
い車の運転を一層難しいものにしていた。

見送っていた裕紀の後ろから急に声がした。
「あれ・・・、神野美佳、じゃなかった?」
振り向くと、昨日離れてしまった岡本と橋本がそこに居たのだ。





キャンパス編に続く。。。。。。。