Webサイト「生活環境化学の部屋」主宰:本間善夫
※ マークのページは無料の分子モデル表示用プラグインChimeが必要です(ダウンロード方法,マニュアル参照)。
※記事と連動させるために,本ページ内の一部で機種依存文字の丸数字を用いていますがご容赦ください。
※各回の「記事を読むための参考Webページ・文献例」は他の回と一部重複する場合もあります。
第12回で取り上げたサッカーボール分子フラーレン(C60)
生物の遺伝の仕組みを解き明かす出発点となったワトソンとクリックによるDNA(デオキシリボ核酸)の二重らせん構造発見から五十周年にあたる今年、ヒトゲノム(人間の遺伝子情報)の完全解読がなされました。その99%がチンパンジーと共通していると報告されましたが(解析・計算方法で値はかなり異なります)*1、残りの1%がいろいろな文化を発達させた人間を特徴付けるものなのかもしれません。 今世紀、私たち人間ばかりでなく、多くの生物をも苦しめている多様な環境問題を生み出してきたのも、その1%である可能性が大きいですし、その解決の責任を担っているのもその1%なのだといえます。 多くの生物は自分に必要なものを入手して危険なものを避ける仕組みを持っており、特に脳・神経系を高度に発達させた生物では「情報」を活用することでその仕組みを洗練させており、例えばサルが薬草を利用していることなども知られています。どのような時にどう(How)行動すべきかという側面は「知恵」という見方ができるでしょう。 ところが人間は、なぜ(Why)そのようなことが起こるかを解明した上で対処する「知識」とそれに必要な「技術」を蓄えてきました。薬に関して言えば、薬草から薬効成分を見つけ出してその働きを解明し、今では人工合成やコンピューターによる薬剤設計も実現しています。 例えば今年大きな問題となっている新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)に対しても、コロナウイルスが原因であることやその遺伝子情報解読と公開、診断・治療方法に関する世界規模での情報共有や協力態勢など、数年前には考えられないスピードで対応が進められました。 また、そこにおいてインターネットやコンピューターによる計算科学なども大きな役割を果たしました。コンピューターもウィルスの存在を実証した顕微鏡も、人間だけが作り出すことのできた高度な道具で、脳・神経系を人工的に進歩させたものにあたり、それがなければ被害はもっと大きなものになっていた可能性があります。 現代において「知識」の中で大きな比重を占める「科学」の発達については、例えば地球が球体で太陽の周りを回っていることは今では小学生でも知っていますし、水がH2Oで二酸化炭素がCO2という分子というものでできていることは中学校で習うなど、本当に身近なものになっています。 冒頭のDNAは高校の実験でも取り上げられたりします。理科離れが話題になっていますが、以上のようなことを見出してきた科学の歴史を振り返ってみるととても興味深いものがあると思います。 それらのミクロからマクロまでの知識に基づいて、現在の複雑な環境問題の原因を体系的に整理してみることが、解決への前提として必要になるでしょう。図にその一例を示しました。これからこのシリーズで取り上げるいくつかの問題の全体像をまず概観してもらいたいからです。 なお階層図は大まかなもので、分子を構成する原子(放射能とも関連)以下、あるいは分子と細胞の中間に位置するウイルス(SARSや温暖化とも関連する西ナイルウイルスなど)は省いてあります。例えば、SARSは人体の呼吸器系に作用して場合によっては死に至り、細菌を攻撃対象とする抗生物質は本質的には役立たないことなどがこの図を用いて説明できます。 この連載で取り上げる個々の環境問題についても、前述のWhyの部分を明らかにした上で解決へのヒントを探っていきたいと考えています。 *1 2004/05/27の毎日新聞には,『遺伝子:チンパンジーとヒト、違い8割以上』とする理化学研究所などによる研究結果(理研プレスリリース)が紹介されました。
![]() 図1 環境問題の概観図(紙面掲載のものと若干異なります) ※参考:より詳しい概観図(旧版),“食の危機”についての概観図(講演で使用) ※放射線についてはDNA修復参照
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![]() 図2 物質世界の大きさくらべ ※参考:『分子は目には見えないけれど』 |
★ちょっと科学史(#印クリックでGoogleの日本語情報検索結果へ) 1665年 フックによる細胞の発見(フックの顕微鏡) # 1674年 レーウェンフックの単レンズ式顕微鏡 # 1803年 ドルトンの原子説 # 1811年 アボガドロの分子説 # 1827年 ブラウンがブラウン運動発見 # 1931年 ルスカによる電子顕微鏡の発明 # 1935年 スタンリーがタバコモザイクウイルスを結晶化 # 1970年 複数の研究者が電子顕微鏡で原子像撮影 |
【注】新潟日報掲載のタイトルが『合成化学物質』となっていたのは『合成物質』の間違いです。またカットの説明書きが欠落していましたのでお知らせいたします(2003/10/28の新潟日報に訂正記事が掲載されました)。新潟日報掲載のカットの説明:身の回りの物質も生物も分子でできている。①水、②二酸化炭素、③メタン、④DDT、⑤ディルドリンなお,有機化合物とは炭素を骨格とした化合物の総称ですが(③が代表例で④,⑤も含まれる),炭素の酸化物(②の二酸化炭素など)や金属の炭酸塩(炭酸カルシウムCaCO3など)等は除きます. |
図6 図5で2位のトリクロロエチレンの大気中濃度マップ
※製品評価技術基盤機構/PRTR大気中濃度マップの表示画面例
(他に,トルエン,キシレン,ジクロロメタン,テトラクロロエチレン,ホルムアルデヒド,エチレングリコール,DMF,p-ジクロロベンゼンのデータ掲載)
2 原料はなるべく無駄にしない形の合成をする。 3 人体と環境に害の少ない反応物・生成物にする。 4 機能が同じなら、毒性のなるべく小さい物質をつくる。 5 補助物質はなるべく減らし、使うにしても無害なものを。 6 環境と経費への負荷を考え、省エネを心がける。 7 原料は、枯渇性資源ではなく再生可能な資源から得る。 8 途中の修飾反応はできるだけ避ける。 9 できるかぎり触媒反応を目指す。 10 使用後に環境中で分解するような製品を目指す。 11 プロセス計測を導入する。 12 化学事故につながりにくい物質を使う。 |
【PRTRについて補足】本連載も第3回になりました.ここで今回の内容に関係する筆者のサイトのコンテンツを少し紹介させていただきます.筆者の研究室では従来から学生の協力を得ながら環境問題に関係する多くの情報を発信しており,例えばPRTRについても本年度の情報関係の演習科目で,受講者に図5に登場する分子モデルを組み立ててもらったり,PRTR啓蒙のためのポスターを製作してもらったりしています.以下をご参照くだされば幸いです.
Webページ ![]() |
図7 女性ホルモン受容体(タンパク質)の例と「鍵と鍵穴」のイメージ
●第5回:シックハウス(2004/01/19掲載) → 別解説
文部科学省が先月公表した高校3年生を対象とした教育課程実施状況調査(学力テスト)の結果から,理数科目での学力不足が話題になりました。図の①はそこで出た原子の構造についての問題と同様のものですが,電子・陽子・中性子の数の関係で電子数=陽子数(すべての原子で)という正解を書いたのが45.6%と半数に達しませんでした。
![]() 図14 原子の構造例とインフルエンザウイルスの構造(図14~16については鳥インフルエンザ情報 ![]() ①ある原子の構造:生体分子のかたちの不思議参照 ※参考:平成14年度高等学校教育課程実施状況調査,科目別分析状況(中間整理)・化学IB ②インフルエンザウイルスの構造;サブタイプ『H?N?』を決めるのがヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA) ※2004年の鳥インフルエンザはH5N1,1918年のスペイン風邪はH1N1 ※インフルエンザウイルス Q&A-特徴と性状-(東京都立衛生研究所)などを参考に作図 ※参考:Googleイメージ検索による“haemagglutinin OR hemagglutinin”検索結果,同“neuraminidase” ③ヘマグルチニン分子の3本鎖の例(1kenのChain A-F;異なった方向から見た2例) ※「分子レベルで見た薬の働き」(平山令明,講談社ブルーバックス),pp.198-209参照
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表1 1970年代以降に出現した主な新興感染症
※以下の文献から主要部分を抜粋して加筆
◎竹田美文・岡部信彦,「SARSは何を警告しているのか」,岩波ブックレット(2003)
年 | 病原微生物 | 種類 | 疾病 |
---|---|---|---|
1973 | ロタウイルス | ウイルス | 小児の下痢 |
1977 | エボラウイルス | ウイルス | エボラ出血熱 |
1977 | Legionella pneumophila | 細菌 | レジオネラ症(在郷軍人病) |
1977 | ハンタウイルス | ウイルス | 腎症候性出血熱 |
1980 | HTLV-1 | ウイルス | 成人T細胞白血病 |
1982 | 病原性大腸菌O157:H7 | 細菌 | 出血性大腸炎,溶血性尿毒症症侯群 |
1983 | HIV | ウイルス | エイズ |
1983 | Helicobacter pylori | 細菌 | 胃潰瘍 |
1988 | E型肝炎ウイルス | ウイルス | E型肝炎 |
1989 | C型肝炎ウイルス | ウイルス | C型肝炎 |
1992 | Vibrio cholerae O139 | 細菌 | コレラ |
1996 | 牛海綿状脳症プリオン | プリオン(タンパク質)→ 参考ページ | 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病 |
1997 | トリ型インフルエンザウイルス〔香港〕 | ウイルス〔H5N1型〕 | インフルエンザ |
1998 | ニパウイルス | ウイルス | 脳炎 |
2002 | SARSコロナウイルス | ウイルス | 肺炎 |
2004 | トリ型インフルエンザウイルス〔アジアなど世界各地〕 | ウイルス〔H5N1型ほか〕 | インフルエンザ |
図17 異常プリオンと正常プリオンの構造例(異常型に多い黄色の部分で集合すると考えられている)
★新聞掲載のカットの元データ(国立がんセンター)
新潟アルビレックスが昇格したJ1開幕や五輪予選突破など,サッカーの話題が盛り上がりを見せています。
★三大栄養素:タンパク質,脂質,糖質(炭水化物)
表1 米,牛肉,甘エビの栄養成分
※ビタミンについては水溶性ビタミンと脂溶性ビタミン ![]()
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【注】記事中では2001年度の温室効果ガス排出量を取り上げましたが,2004/05/18に2002年度(環境省資料),2005/05/26には2003年度のデータ(環境省資料)が公開され,引き続いて排出量が増加していることがわかりました。以下の図24は2003年度に更新しましたが,2002年度の図24は近々修正します。※参考記事:03年度の日本の温室効果ガス総排出量、90年比8.3%増に(EICネット,2005/05/26),
温室効果ガス:増加の一途 03年度は90年比8.3%増(毎日新聞,2005/05/26)
図24 温室効果ガス総排出量の推移とその分子モデル(温室効果ガス ) [UPDATE!]
排出量データ引用:我が国の温室効果ガス排出量(環境省),温室効果ガス排出量・吸収量データベース(国立環境研究所)
図25 1人当たりのC02排出量による都市類型(1993-97年の平均)
※データ引用:石井孝明,「京都議定書は実現できるのか CO2規制社会のゆくえ」,p.111,平凡社新書(2004)
(オリジナルデータは東北芸術工科大学環境デザイン学科助教授・三浦秀一氏による)
表2 図25の数値データ(■は各都市での最大排出源)
※上記文献では各類型とも3都市ずつピックアップ,計は筆者計算
区分/代表都市例
照明
コンセント給湯
コンロ暖房
冷房
自家用車
公共交通
計
A類型/山口市
全用途中自家用車が最大の都市369
343
252
31
635
34
1664
B類型/金沢市
照明コンセントに次いで自家用車が多い都市415
371
332
23
399
38
1578
C類型/福島市
A,B類型以外で暖房よりも自家用車のほうが多い都市376
449
314
11
381
35
1566
D類型/新潟市
自家用車より暖房のほうが多い都市393
391
446
20
401
51
1702
E類型/東京区部
自家用車が冷房に次いで少ない都市401
311
184
36
134
62
1128
図27 電気は本当に足りないのだろうか? ─宇宙から見た夜の地球─(NASA,2000/11/27;2002/08/11)
★ 夏至の日にデンキを消して、静かな夜を。「CO2削減・百万人の環」キャンペーン(環境省「環の暮らし」) ★
★ 1000000人のキャンドルナイト ★
★ ライトダウン・2004 -ブラックイルミネーション-(新潟県) ★
★ 熱っちぃ地球を冷ますんだっ。(モーニング娘。文化祭) ★
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図28 紫外線によって生成するチミンダイマーの例(DNAの脆弱性と強靭性 )。→が正常なチミン,→が二量化体。塩基はATGCで色分け。
※参考:電磁波(光)の波長とエネルギー,太陽光の放射エネルギースペクトル,紫外線(UV)によるチミン二量体の生成,UVカット商品の例
※参考:発ガンの仕組み(Chem-Station)
原子力資料情報室を創設するなど原子力問題に取り組まれた故・高木仁三郎さんの「市民科学者として生きる」(岩波新書)の中に,地球の放射能汚染の実態に触れた部分があります。
その2 生活者自身のための科学・技術のあり方を問いなおそう その3 学問の垣根をこえたアプローチをしよう その4 科学の専門家と市民のネットワークを確立しよう その5 楽しいサイエンスの学び方を探っていこう
*1 高木仁三郎,「市民科学者として生きる」,pp.94-100,岩波新書(1999) |
図29 原発の「リスク(危険)とベネフィット(利益)」
※新聞では同図をリライトしたものを掲載しました。
私が環境問題に関心を持ったのは,学生時代の講義で,アセスメント(評価)という語を聞いたのも一因です。もの作りが基本の工学部で,環境への配慮の必要性を教えられたのは新鮮な印象でした。最近は前回取り上げたリスク(危険)と組み合わせたリスクアセスメントという語が多用され環境省にもページがありますが,テクノロジーアセスメント(技術評価)という語が初めて公式に用いられたのは,1966年のアメリカ上院の科学・技術・開発庁委員会においてでした(岩波書店「現代科学技術と地球環境学」*1)。
![]() 図30 我が家にゴミを入れない,新潟県にゴミを入れない,日本にゴミを入れない,…… ※参考:我が国の物質収支(環境省「平成13年版 循環白書」) ※Googleによる検索例:ゴミ OR ごみ エントロピー | マテリアルフロー | NIMBY(イメージ検索)
*9 ナノチューブと五角形 |
図31 環境キーワード(背景はフラーレン分子 ;球は炭素原子)
※キーワードの位置は概念的なもので,同じキーワードでも異なる位置になる場合があることに注意。
※新聞では同図をリライトしたものを掲載しました。
■ 筆者サイトの環境問題等に関するコンテンツ例
※上記記事中にも適宜上げてあります(印ページは無料の分子モデル表示用ソフトChimeが必要)
■ 検索コーナー(サーチエンジンのGoogleによる)
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