※このページは,2003/12/27,京都において中学生・高校生を対象として開催された上記タイトルの第56回 Super Science Seminarの講義用資料です(当日のPDF版テキスト,会場風景,旅の記録)。今後も生体分子学習の入門教材として適宜更新を続ける予定です。 なお,本コンテンツの多くは生体分子と水素結合 # などの本サイトの既存データを活用したもので,*印はその他のコンテンツです。 ★本コンテンツを用いた中・高校生対象の出張講座(Win+Chime+インターネット環境の整ったPC設備があるところで,受講者はPC操作ができることが条件),または県立新潟女子短期大学での土曜講座(1回の定員は7名またはPC1台に2名でよい場合は14名で,日程は相談)をご希望の方は,こちらをご覧ください。 |
生体内にも建築家がいる?
上左:DNA部分構造例,上右:tRNA関連データ例(1ml5のChain B・C;コドンと遺伝暗号表参照)
下左:GFPの例(1hcj),下右:イオンチャネルタンパク質の例(1bl8) #
※中央のサグラダ・ファミリアの画像は美学ホームページ* 主宰者から提供していただいた写真を加工したものです.
[TOPIC] 2003/10/04-12/14,東京都現代美術館で「ガウディ かたちの探求」展 開催(終了)
→ フジテレビの情報(展覧会のみどころ)*,Googleによるイメージ検索結果『Gaudi』*,YouTubeによる動画検索結果『Antoni Gaudi』*
[TOPIC] 2004/08/13,2004年アテネオリンピック*開会式でDNA登場
→ 参考コンテンツ例:The Left Handed DNA Hall of Fame*
上の図はある分子の構造の一部分である。上下二組の原子団の色の濃い部分は水素,炭素,窒素,酸素だけからできている。他の原子と結合するときの結合の手の数(原子価)はそれぞれ,1,4,3,2であり,炭素,窒素,酸素は下図のような結合の仕方をする。これをヒントにして上図の中央部分の原子に色をつけてみよう(●:炭素,●:窒素,●:酸素)。※関連コンテンツ:塗り絵による分子クイズ
塗り絵をしてもらったのは,遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)分子上に並んでいるA(アデニン),T(チミン),G(グリシン),C(シトシン)という4種類の塩基であり,この並ぶ順序が生物の遺伝情報そのものである。
2003年はDNAの二重らせん構造発見50周年 # にあたる。多くの研究者による努力の積み重ねを経て,ワトソンとクリックがその美しい構造を見出したものである。
この二重らせん構造を保持し,DNAの複製を可能にして遺伝情報を保存しているのは,AはTとだけ,GはCとだけ,それぞれ向かい合って結合するというとても簡単なルールである。
そのようにして保たれたDNAの遺伝情報にしたがって,数種類のRNA(リボ核酸)の仲介を経て生体内で重要な働きをする多数のタンパク質が合成されるという生命システムの関係はセントラルドグマ(中心命題)と呼ばれる。
DNAの二重らせん構造の美しさの中にその機能が隠されているように,タンパク質の働きもそれぞれ独自の3次元構造(立体構造)によって生み出される。例えば,タンパク質は熱などによってその構造が乱されるが,それを修復するタンパク質が存在するくらいである。
生体分子を建築物とみなすと,その構造はどのようにして保持されているのであろうか。Webブラウザ上で分子を自由に動かしたり様々な情報を表示させたりできるソフトウェアのChime(MDL社,http://www.mdlchime.com/*)を利用してその秘密を解き明かしてみよう。
ここで用いる教材はhttp://www.ecosci.jp/bond/hb02.html # に掲載されている。
巨大な生体分子も,原子が集まってできている。その原子は+の電荷を持った陽子と電荷を持たない中性子からなる原子核と,-の電荷を持った電子からできており,原子核と電子は,電磁気力という力で引き合っている。原子が集まって分子ができたり,分子と分子の間で相互作用が生じたりするのも,この電磁気力の働きである。自然界には電磁気力を含めて4種類の力が存在するが,通常の化学や生物では電磁気力だけを考えればよく,これは原子の構造を考えれば当然のことである。
原子(元素)の種類は陽子数(=電子数)で決まり約100種類あるが,以下に原子番号20までの周期表を電子配置とともに示す。生体分子や身の回りの物質の多くを構成する元素の大部分はこの中に含まれている。
周期表の電気陰性度は結合している原子が電子を引きつける強さの目安であり,これが分子の性質や分子と分子の相互作用を考える上で重要になってくる。
例えば,水分子H2O(折れ線形)は電気陰性度の大きい酸素の側に電子が引きつけられて分子内に電荷のかたよりが生じていて極性分子と呼ばれ,分子は小さいのにお互いの引力が大きいために室温でも液体で存在する。極性の大きい分子は親水性となる。他方,酸素O2のように電荷のかたよりがない分子,二酸化炭素CO2(直線形)やメタンCH4(正四面体形)のようにかたよりがあっても正電荷と負電荷の重心が一致している分子は無極性分子で,疎水性となる。この例のように分子の形(対称性)は分子の性質を決める大きな鍵となっている。
続いてDNAやタンパク質などの生体分子を見てみよう。DNAとRNAはC・H・N・O・Pという5種類の元素だけでできている。一方,タンパク質はC・H・N・O・Sの5種類の元素からなる20種類のアミノ酸(硫黄Sを含むのはこのうち2種類)が長くつながったものが主体となっており,その並ぶ順序を一次構造といい,これを決めているのがDNAなのである。
アミノ酸 | 特性基 R | hydropathy index |
log P | 酸性・塩基性 | 極性・非極性 | Cleftの分類 | 等電点 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
O | I | I/O | ||||||||||
Ile | I | イソロイシン | 80 | 0 | 0 | 4.5 | 5.2 | -1.70 | 中性 | 非極性(疎水性) | Aliphatic | 6.02 |
Leu | L | ロイシン | 70 | 0 | 0 | 3.8 | 4.9 | -1.52 | 中性 | 非極性(疎水性) | Aliphatic | 5.98 |
Val | V | バリン | 50 | 0 | 0 | 4.2 | 5.9 | -2.26 | 中性 | 非極性(疎水性) | Aliphatic | 5.96 |
Ala | A | アラニン | 20 | 0 | 0 | 1.8 | 8.1 | -2.85 | 中性 | 非極性(疎水性) | Aliphatic | 6.00 |
Phe | F | フェニルアラニン | 140 | 15 | 0.107 | 2.8 | 5.2 | -1.38 | 中性 | 非極性(疎水性) | Aromatic | 5.48 |
Pro | P | プロリン | 60 | 10 | 0.167 | -1.6 | 8.0 | -2.54 | 中性 | 非極性(疎水性) | Pro & Gly | 6.30 |
Met | M | メチオニン | 100 | 20 | 0.200 | 1.9 | 5.7 | -1.87 | 中性 | 非極性(疎水性) | Aliphatic | 5.74 |
Cys | C | システイン | 60 | 20 | 0.333 | 2.5 | 5.5 | -2.49 | 中性 | 極性(中性) | Cysteine | 5.07 |
Trp | W | トリプトファン | 180 | 130 | 0.722 | -0.9 | 5.4 | -1.05 | 中性 | 非極性(疎水性) | Aromatic | 5.89 |
Tyr | Y | チロシン | 140 | 115 | 0.821 | -1.3 | 6.2 | -2.26 | 中性 | 極性(中性) | Aromatic | 5.66 |
Lys | K | リシン | 80 | 70 | 0.875 | -3.9 | 11.3 | -3.05 | 塩基性 | 極性(塩基性) | Positive | 9.74 |
Gly | G | グリシン | 0 | 0 | - | -0.4 | 9.0 | -3.21 | 中性 | 非極性(疎水性) | Pro & Gly | 5.97 |
His | H | ヒスチジン | 80 | 152 | 1.900 | -3.2 | 10.4 | -3.32 | 塩基性 | 極性(塩基性) | Positive | 7.59 |
Arg | R | アルギニン | 80 | 190 | 2.375 | -4.5 | 10.5 | -4.20 | 塩基性 | 極性(塩基性) | Positive | 10.76 |
Thr | T | トレオニン | 40 | 100 | 2.500 | -0.7 | 8.6 | -2.94 | 中性 | 極性(中性) | Neutral | 6.16 |
Glu | E | グルタミン酸 | 60 | 150 | 2.500 | -3.5 | 12.3 | -3.69 | 酸性 | 極性(酸性) | Negative | 3.22 |
Gln | Q | グルタミン | 60 | 200 | 3.333 | -3.5 | 10.5 | -3.64 | 中性 | 極性(中性) | Neutral | 5.65 |
Asp | D | アスパラギン酸 | 40 | 150 | 3.750 | -3.5 | 13.0 | -3.89 | 酸性 | 極性(酸性) | Negative | 2.77 |
Ser | S | セリン | 20 | 100 | 5.000 | -0.8 | 9.2 | -3.07 | 中性 | 極性(中性) | Neutral | 5.68 |
Asn | N | アスパラギン | 40 | 200 | 5.000 | -3.5 | 11.6 | -3.82 | 中性 | 極性(中性) | Neutral | 5.41 |
表1のアミノ酸の親水性・疎水性等によるタンパク質の色分け例(エストロゲン受容体1ereのChain A)
《上》左から,二次構造(後述),疎水性インデックス順,log P値順表示
《下》左から, 酸性・中性〈芳香族〉・塩基性アミノ酸区別,極性・非極性区別,表示.等電点順表示
※PDBコード順データリスト #,PDBデータのLigand結合部位 # などで各表示可能
※任意のPDBデータについて同様の表示をするにはPDBデータを詳細に見るために # を参照
H2OやCO2などの低分子の形がその性質と結びついているのと同様に,極めて長大な分子であるDNAやタンパク質でも,DNAの塩基やタンパク質を構成するアミノ酸の並ぶ順序(一次構造という)だけでなく,その折れたたまれ方(二次構造と呼ぶ)などの立体構造が重要である。
その二次構造の維持に大きな役割を果たしているのが水素結合であり,これはN,O,Sなど電気陰性度の大きい原子が水素Hを介して形成されるものである。
DNAの各塩基に着目すると水素結合が可能な部位が複数存在するが,特定の組合せが選ばれて二重らせん構造が形成されている。
※参考:西村善文,『DNA二重らせん構造の歴史』,蛋白質 核酸 酵素,2003年5月号,p.710,共立出版
通常のDNAにおけるG-C間の水素結合と特殊なG-四重らせん構造(2a5rより)の例 → 今週の分子/連載95 #
※参考:新しい折りたたみ構造をとったDNA(Nature,2005/08);Abstract(Nature Chemical Biology)
DNAのA-T・G-C構造およびその川上モデルとBasePairPuzzle模型(A-T構造はモザイク処理;3Dプリンタ模型は何れもスタジオミダス製)
※BasePairPuzzleは2023年度の「第11回かわいい感性デザイン賞 優秀賞」および「第4回 東レ理科教育賞・企画賞」を受賞しています。
タンパク質の二次構造であるα-ヘリックス(左)とβ-シート(右;逆平行)における水素結合の例;演習1の6rsaデータより
10個のアミノ酸からなる最小のタンパク質シニョリン(1uao)データから作成したアニメーション(データ表示順はランダム)
※この構造安定には水素結合の寄与があるだろうか? → 世界最小のタンパク質シニョリン #
※データ引用:10個のアミノ酸からなる「最小のタンパク質」の創製に成功(産業技術総合研究所,2004/08/10)
上図のような条件(原子の種類,結合の角度と距離)がそろった時に水素結合ができることを理解した上で,最初に塗り絵をしたDNAの塩基の図に,水素結合ができると思われる場所を…で書き込んでみよう。
じつはワトソンとクリックは,これを針金のモデルを用いて試行錯誤して行い,DNAの二重らせん構造を発見したのである(イギリスBBCによる資料でビデオ教材参照可能)。
《参考》分子の親水性・疎水性とオクタノール-水系の分配係数 分子と分子の相互作用を調べる上で,それぞれの親水性・疎水性は第一に知らなければならないものと言える。その指標の一つとなっているのがオクタノール-水系の分配係数で,表1でもlog Pで示した。これは水とオクタノール(C8H17OH;疎水性)が二層になっているところに調べたい化合物を入れて溶解させ,各層における化合物濃度を測定して求められる。分子が親水性なら水層の方に,疎水性ならオクタノール層の方により多く溶けることを利用したもので,薬の活性や化学物質の毒性などを知る上でも重要な因子となっている。 ※参考資料例:http://www.ecosci.jp/chem9/interaction.html,http://www.ecosci.jp/rensai/cs_org.html 指示薬のメチルオレンジとメチルレッドを用いたオクタノール-水系の分層実験の例
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DNA・RNAやタンパク質の立体構造(全構成原子の座標)は世界中の研究者によってX線回折やNMRなどの手法で求められ,Protein Data Bank(PDB;http://www.rcsb.org/pdb/*)というデータベースに集積されて,共有財産として誰でも研究や教育に活用できるようになっている。
多くのソフトウェアでその構造を3次元モデルで表示したり様々な解析を行ったりすることができるが,広く使われているものに前出のChimeがある。p.3のDNAモデル例も,以下のタンパク質モデル例(6rsa;PDBのデータは4文字の数字とアルファベットで表記される)も,同ソフトで表示したものである。
タンパク質の二次構造で鍵になるのが,上図右のピンクで示されるα-ヘリックス(らせん)構造と黄色で示されるβ-シート(平板)構造であり,Chimeによりわかりやすく把握できるばかりでなく,水素結合表示により両構造が水素結合で保持されていることも容易に理解できる。また,DNAやタンパク質に結合している低分子(リガンドという),あるいはそれを囲むSITEと呼ばれる部分を下図のように周囲と区別して表示させることも可能である。
左:2fke(リガンドはFK-506)・1j4r(リガンドはFKB-001)と同じ下記アミノ酸配列ですべてα-helix構造にしたもの(MOLDA for Protein Modeling;http://www.molda.org/molda-p/download.html*で組立て)とSITE部位の強調表示
タンパク質では,離れているアミノ酸が協調作業をして機能を示す!(2fke・1j4rを例に)
GVQVETISPGDGRTFPKRGQTCVVHYTGMLEDGKKFDSSRDRNKPFKFMLGKQEVIRGWEEGVAQMSVGQRAKLTISPDYAYGATGHPGIIPPHATLVFDVELLKLE
中2つ:実際の2fkeとその活性部位(アミノ酸はすべてamino色表示)
右:2fkeの活性部位と同じ配列番号のアミノ酸をSITEとした1j4r
※参考:タンパク質の構築原理(理研ゲノム科学総合研究センター/タンパク質構造・機能研究グループ)*
※参考:PDBデータの内容例(2fkeの場合;PDBサイトの表示例)
※参考:PDB IDのわかっているオリジナルのChimeデータを直接表示するには,一旦ダミーデータの2fkeを表示して,最後の4文字のPDB idを表示したいものに書き直してEnterキーを押す。 → PDBデータを詳細に見るために #
※参考:アトピー新薬/タクロリムス(FK-506について) #
それでは,マニュアル # を参考にして,いろいろな生体分子を見ることにしよう。
※PDBデータのリガンド結合部位(コースウェア1) # の参考教材1~10で表示できる画像例
(1) エストロゲン受容体 ↑TOP
リガンドとその受容体タンパク質(レセプター)の関係は鍵と鍵穴の関係で説明される。以下にその例としてエストロゲン(女性ホルモンの一種)受容体を示す。これは現在研究が進められている環境ホルモン(内分泌撹乱物質)の問題でもしばしば取り上げられる。 → 川上モデル|鍵と鍵穴模型参照
(2) イオンチャネルタンパク質 ↑TOP※南京錠が受容体,鍵Aが本物のリガンド,Bが不要な反応を引き起こす偽分子,Cが必要な反応の邪魔をする偽分子である(色が薄い鍵は存在しないことを示す)。ここでは鍵を開けるということがホルモン作用の発現を示し,開かないのはそれが阻害されたことを示す。
鍵(リガンド)と鍵穴(受容体タンパク質)の関係の模式図
左:PDBデータ1bl8とそのKイオン近傍アミノ酸 http://www.ecosci.jp/chem10/weekmol038.html #
イオンチャネルタンパク質の例(PDBデータ1bl8より)
右:ノーベル財団による情報 http://www.nobel.se/chemistry/laureates/2003/public.html*
※細胞膜の内部は疎水性,表面は親水性であるため,それに入り込むタンパク質(膜貫通型という;他に視細胞中の視物質ロドプシンの例である1f88など)のアミノ酸配列(以下に1bl8のA~Dの4本鎖で共通の配列を緑字で表示;表1の1文字略号参照)は,それに対応したものになっている。PDBの“Sequence Details”で取得可能なアミノ酸配列を入れてそのことを確認できるサイトがSOSUI(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosui_submit.html*)である。
ALHWRAAGAATVLLVIVLLAGSYLAVLAERGAPGAQLITYPRALWWSVETATTVGYGDLYPVTLWGRCVAVVVMVAGITSFGLVTAALATWFVGREQ
(3) 緑色蛍光を発するタンパク質GFP(Green Fluorescent Protein) ↑TOP
年 | 病原微生物 | 種類 | 疾病 |
---|---|---|---|
1973 | ロタウイルス | ウイルス | 小児の下痢 |
1977 | エボラウイルス | ウイルス | エボラ出血熱 |
1977 | Legionella pneumophila | 細菌 | レジオネラ症(在郷軍人病) |
1977 | ハンタウイルス | ウイルス | 腎症候性出血熱 |
1980 | HTLV-1 | ウイルス | 成人T細胞白血病 |
1982 | 病原性大腸菌O157:H7 | 細菌 | 出血性大腸炎,溶血性尿毒症症侯群 |
1983 | HIV | ウイルス | エイズ |
1983 | Helicobacter pylori | 細菌 | 胃潰瘍 |
1988 | E型肝炎ウイルス | ウイルス | E型肝炎 |
1989 | C型肝炎ウイルス | ウイルス | C型肝炎 |
1992 | Vibrio cholerae O139 | 細菌 | コレラ |
1996 | 牛海綿状脳症プリオン | プリオン(タンパク質) | 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病 |
1997 | トリ型インフルエンザウイルス | ウイルス | インフルエンザ |
1998 | ニパウイルス | ウイルス | 脳炎 |
2002 | SARSコロナウイルス | ウイルス | 肺炎 |
2019 | 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2) | ウイルス | COVID-19 |
(6) タンパク質の立体構造を修復するシャペロニン ↑TOP
講義で用いたWebページはすべていつでも利用できるものである。その他のWeb教材と分子表示ソフトウェアChimeのダウンロード方法,参考文献を以下に列挙する。
●佐倉統,『何人ものレオナルド』(InterCommunication 41号,p.88,NTT出版)
しかし、エディターシップを発揮する専門家の養成は、現代社会において必要不可欠な作業である。それは、単に知識の生産と流通の仕組みが変わりつつあるからという理由だけに基づくものではない。環境問題や医療問題、教育問題、民族問題、経済問題、生命科学の爆発的な進展など、現実に対処しなければならない問題群の多くが、専門的知識とエディターシップとの両方を必要とする性質のものになっているからだ(ギボンズの「モード2科学論」を参照)。環境問題一つとっても、気侯や地質や生態系に関する理学的な情報から、工学的な対処技術の問題、国際政治としての側面、経済学の知識、さらには倫理学までが関係してくる。レオナルド・ダ・ヴィンチのような人間がいたとしても、対処することはむずかしい。それぞれの分野からレオナルドが登場することが必要だ。何人ものレオナルド─現代社会という、それ自体が化け物のような存在は、知識の生産と流通においても、それだけのヘヴィ・デューティを要求する。 |