memo 斎藤芽生 |
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先日木場の美術館のミュージアムショップで過去のカタログをみていたら、色鮮やかで奇妙な花輪の絵が目に留まり、さらに団地の窓がさまざまに象徴的に描かれた「晒野団地入居案内」というシリーズとそのタイトルにも非常に魅かれるものがあったので、その「傾く小屋」という企画展示の図録を買って帰った。
公式サイトも美しい。 この人の書く文章も、単に筆が立つというだけでなくその思考の深さを知ることができて興味深い。 どれだけ質の高い虚構の世界を持ちその中に遊べるか、同時にその虚構から覚醒しているかは、作家の資質として欠かせぬ一つの条件だ。 (略) 芸術家が虚構を通じて現実世界に提案することは政治的煽動とも社会運動とも違う。社会現象と自分の創造性を混同した作品や、影響力を試す装置のような作品は多いが、作品の虚構性とは作家の調合した良質の美しい毒であるべきで、細菌のような伝染力をさすのではない。 その量を加減する腕も必要とされる。 現実と虚構の区別がつかぬことを当然の前提とする感覚の中でいたずらな遊びはすぐに伝染し、その伝染力は、一人の人間が不器用に引きずってきた人生の「質」を呆気なく無化する恐さを持つ。 裏に適切な個人の現実の隠れている虚構を静かに味わいたいものだ。 |