『せたがやスタ研ニュース』23号【カード導入】

 三軒茶屋銀座振組

 スタンプ提案一蹴からポイントカード導入まで10年間
 ある若手リーダーの活動

 一つの事業、特に加盟店の負担を伴う事業を商店会で立ち上げるというのは大変なことだ。
 内部の会員が推進する場合は、いくら時間をかけても普通は経済的報酬はゼロ。バカになって動く人と協力者がいないとなかなか実現しない。
 昨年10月に印字式のポイントカードを立ち上げた三軒茶屋銀座振組の場合もそんな人たちがいた。その中心人物は、今年42歳の笠井敏晃氏。

■「まずポイントカードから」、診断勧告で2年間勉強

 笠井氏が、「スタンプ事業が一番」と思ったのは、10年以上前に烏山のスタンプ事業紹介記事を見て。すぐに、「うちの会でもやるべきだ」と提案したが、当時は30歳そこそこという年齢もあって、簡単に一蹴された。
 それから約10年。97年の商店街診断報告会で、「商圏内の人口減少と高齢化。東急ストアとサミットの進出などで人の流れが変わってきた。今、手を打たないと商店街はジリ貧になる。まず、ポイントカードをやっては」とコンサルタントの小谷喜八郎氏から提案があった。しかし、スタンプについては知っている組合員も少なくなかったが、ポイントカードのことを知っている組合員は少なかった。それで、振組理事を中心に勉強会を立ち上げることにした。しかし、先頭に立ってやろうという人はいない。
 それで、メンバーでは最年少だったが、当時は唯一とも言える積極論者だった笠井氏が勉強会の責任者に指名され、「やらざるを得ない」と腹を決めた。 以後約2年間、毎月2回程度、コンサルタントやカード業者らを招いての勉強会や説明会を何回も開いた。最初の頃12〜13人集まったが、途中から4〜5人に減り、「立ち上げられるか、とても不安だった」という。

■事前の意識調査で「必ず参加」が125店中16店

 それで笠井氏が力を入れたのは、広報活動。「ポイントカードの仕組み、メリットや負担」などについて組合員に説明するため、「ポイントカードニュース」を発行することにした。最初は遠藤さんというパソコンに堪能な役員が担当していたが、都合で、笠井さんが途中からやることになった。ところが笠井さんは、パソコンは全く未経験。 
 それでパソコンのイロハから勉強、最初の頃はA4紙1枚分を入力するのに1週間ぐらいかかったという。それでも、さじを投げずに続け、ワードというワープロソフトをマスターした。
 何度か、ポイントカードについての説明会や資料の配布を終えた段階で、組合員に、参加の意思についてアンケートをした。ところが、「必ず参加」は約125店中16店、「五分五分」が40店。「非商店約50社は除いても賛成が30店はあるだろう」と見ていた笠井氏はびっくりした。
 同振組で予定していたポイントカードシステムは、それほど費用のかからない簡易なもの。それでも、各店に1台は必要なカードリーダーや立ち上げ準備などで800万円ぐらいはかかる。組合に余裕はないし、加盟店にあまり負担はかけたくない。補助金を申請していた区と都からは、前向きの返事をもらっていたが、それも、振組の総会で承認されることが絶対条件。
 一方で、消費者アンケートでは、9割以上の回答者が、「商店会がポイントカードを実施することに賛成」という結果が出た。このデータは、笠井氏ら推進派にとって大きな励み、説得材料となった。

■理事長とともに、全店を2回以上回る

 立ち上げの目標を99年秋に設定、その年の総会(5月末)での承認とりつけに全力を投入した。理事は17名のうち12名が賛成していた。しかし、「もし、総会で強力な反対意見が出たら」という不安でいっぱいだった。
 そのあたりを、「うちの店にも悪くなさそうと思っていたし、若い人の熱意に押され」賛成していたタバコ店経営の白倉喜代子さんは、「笠井さんは、『総会で反対されたらポイントカードはできなくなる。どうしようかどうしようか』と心配していた。私は、『大丈夫よ。人数が少なくても始めましょうよ』と言っていました」と説明する。
 それでも心配だった笠井氏は、「親子ほど年代が違い、最初は意見の食い違いもあったが、最終的には積極論に転じた」加納好男理事長に頼み、一緒に商店街の全店を回った。多くは、「加盟店が増えるようなら考える」という消極的な反応だったが、それでも、総会では無事、承認を得た。
 結局、当初の加盟店は20店にとどまったが、回収だけは受け付ける協力店14店も加えて99年10月にスタートした。
 立ち上がりの資金として地元金融機関から800万円を借り、今年の3月には区・都の補助金500万円がおり、それを返済に回した。残りは毎月5万円ずつカード売り上げの中から返済する。

■開始後も、定着のため毎晩のように事務所に

 開始後も、カードの印字が薄いなど機械のトラブルが相次ぎ、メーカーと交渉して全部の機械を入れ替えてもらったり、なかなか消費者がカードを出してくれなかったり、イベントの企画運営に悩んだり、と苦労は絶えない。
 近くに競合店が出たため、飲食関係の店が新たに加盟するなど、徐々に浸透しつつあるが、定着するかどうかは今後の活動にかかっている。
 銀座だけでなく三軒茶屋地区全体のポイントカードにしたいという笠井氏は現在も毎晩のように組合事務所に出て作業に携わっている。

若く積極的な経営者はポイントサービスを評価
 
多くの組合員は、「売り上げの2%と毎月1000円を負担してまでは」と加盟しなかったが、積極的に加盟した人もいる。
 そういう人たちには共通した傾向がある。
 経営者が積極的な経営方針を持ち、気持ちが若いことだ。
 例えば、輸入食品店「キッチン・ガーデン」の堀川未知郎氏(33歳)。小売業を開業したくて脱サラ、時給700〜800円で数カ月間スーパーでアルバイト、実地の勉強をしながら都内各地を回って出店場所を研究、98年10月に同商店街に出店し、約50平米の売り場で、初年度から年商8000万円をあげている。
 「消費者の立場から考えると、ポイントを出すのは当たり前」と、独自で実施しようと考えていた。ただ、100万円以上かかる。どうするか、考えていた矢先に「売り上げの2%と月1000円の負担でできる」という商店会からの話があり、参加した。
 その堀川さん、実は今でも「店独自でポイントカードをやるのが理想」と言う。それは、「商店会共同のカードだと還元率などサービスが一律。もっと高い還元率で魅力のあるサービスをしたい」からだ。

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