『せたがやスタ研ニュース』32号【特集】

 特集

 イベント研究川崎市多摩区登戸東通り商店街のナイトバザール

  子供ターゲット・地域密着・経費節約
 「久しぶりに気分のいいイベントだった」


 多くの商店会では、定番のイベントや売り出しがある。しかし、定番であるがゆえにマンネリ化する場合も少なくない。そこで、商店街を活気づけるため、新たなイベントを始める──言うだけなら簡単だが、現実にはいろいろな問題もある。どういう問題があり、それをいかにクリアーするか。
 そこで、昨年6月から年4回の予定で始め、家族連れや子供たちの動員に成功、飲食店など売り上げ増に成果をあげた店も少なくなく新年度も継続することにした、という川崎市多摩区・登戸東通り商店街の「ナイトバザール」を紹介しよう。

*なお、同商店街のイベント実施にあたっては、当スタ研事務局の岩切淳子さんが、00年度は川崎商工会所、01年度は川崎市からコンサルタントとして派遣され、いろいろアドバイスにあたってきた。その関係で、昨年11月のスタ研集中セミナーには、3人の役員さんにおいでいただき、説明していただいている。

■ナイトバザール開始のいきさつ

販促事業は全て低迷
 登戸東通り商店街では朝市、盆暮れの売り出し、そしてスタンプと3つの共同販促事業を実施しているが、いずれも大きく落ち込んでいる。
 例えば朝市。20数年前から毎月第3日曜日に開催しており、最初の数年は、2時間程度で10万円以上売る店はざら、中には100万以上売る店も出るほど賑わった。売れた主因は特価販売だが、近年は、わざわざ月1度の朝市に行かなくてもいつでも安く買えるスーパーや安売り店が近隣に増えたこと、より強烈な朝市を実施するようになったスーパーが増えたこと、そして車社会の進展などで、朝市目指して来るお客は大幅に減少。ピーク時は40店あった参加店も、最近では17〜18店に激減、毎回3000円徴収していた参加費も現在はゼロにしている。
 特に問題なのは来街者の高齢化。従来のお客が高齢化して商店街に来られなくなっても、若い来街者が増えていけばいいが、40代以下の消費者の多くはスーパーやコンビニなどで買い物をする習慣が根付き、商店街を殆ど利用しない。「このままでは、商店街の衰退は避けられない」ということで、若い世代にアピールすることをしたいが、商店の経営者や家族も高齢化が進んでいるので、店づくりや品揃えを急激に変えることはできない。

「子供が楽しめる」をコンセプトに
 そこで、「まずは子供たちに遊んでもらうイベントをやろう。そうすれば、親や家族も来るだろう。そうなると夜、それも金曜か土曜」ということで、秩父・宮側商店街などで実施されているナイトバザールの検討を始めた。一昨年(00年)の12月のことだった。そして01年3月、「この5月から始め、年間4回程度実施」と決定した。
 愛称は、「のぼりと・わくわくナイトバザール」。時間は午後6時から8時の2時間(冬場は繰り上げ)。
 内容は、ゲームコーナー・模擬店・加盟店のタイムサービス・ストリートライブなど。
 これらの多彩なイベントを1カ所でやるのではなく、商店街を4ブロックに分け、全体をイベント会場とした。幸い、これまでは雨に降られたことはないが、雨天でも決行することにした。
 そして01年度は、6月(当初は5月予定だったが、準備の関係で約1カ月遅れた)、7月、10月、2月と予定通り4回実施した。
 参加店は45店中40店。

■ナイトバザールの特徴

 同商店街のナイトバザールの特徴を商店会役員さんらの話をもとにまとめてみると、次のようになるだろう。

おじさん世代が推進力に 5人の中年役員が企画から運営まで
 5人の役員が中心になって企画運営している(スタ研集中セミナーにもそのうちの3人の役員の方々がきて説明してくれた)。この5人が、チラシ作成からのぼりの設置に至るまで殆ど全ての作業をこなす。
 2月のナイトバザールを視察した、中里通り振組の徳世さんは「集中セミナーにきていただいた役員さんがいたので挨拶をしようと思ったが、交通整理など忙しそうに動いていたので、声をかけずに帰った」と感心する。
 イベントに関しては、この5人が全てを任されている。細かいことまで役員会で諮ると時間ばかり経過し、なかなか決まらないので、5人のメンバーで進めることを認めてもらったのだという。
 この5人は、年代は50歳から55歳と近く、長年一緒に商店街の売り出しなどを担当してきたこともあってチームワークもよく、商店街活動に時間をさくこともいとわないような方々ばかり。 こういう人材をどう発掘し、気持ちよく動いてもらうかも商店街運営には大きなポイントだろう。

地域の団体や個人も参加 子供会や障害者団体なども出店
 イベントにバラエティーをもたせ、しかも商店会だけの行事ではないことをアピールする上で、貢献しているのが各種地域団体や個人の参加。
 子供会による焼きそば販売、地元の障害者団体メンバーの手作り木工品販売、さつき名人のさつき展示と即売、市児童館OBらの風船を使った大道芸、JAの植木市、そして若者バンドによるライブ演奏等など。
 子供会の焼きそば販売の場合、第1回は資材や材料は商店会で揃え、調理と販売を担当してもらい、その手間代として2万円を商店会から支払うことにした。1人前150円だったが、大好評で、30〜40分で用意した400食分が売り切れ。そこで2回目からは、「売れ残ったら商店会で買うから、独立採算とし、200円で販売しては」と提案して、そうなった。
 中には、自分から「私の盆栽を展示したい」と役員に申し出た町内会の人もいた。役員さんたちの人脈と告知活動が功を奏した例と言える。
 毎回3、4カ所で実施するゲームの運営は、弁当とジュース程度の謝礼で子供たちに任せた。
 担当する子供たちは中学生や小学校の高学年の10数人。子供会などを通じて申し込んでくる。当日少し早めに集まってもらい役員が要領を説明をする。それほど難しい作業ではないので、小学生でもしっかり対応できる。子供たち同士でやりとりすることでかえって評判がいいという。
 こうした姿勢が認められてか、登戸子供会がこのイベントの協賛団体となった。

地元のJリーグ、フロンターレ川崎の協力を得て、サッカーボールをボードに書かれた数字に蹴り込む【サッカーゲーム】。景品に本物のユニフォームなどが用意された

毎回、3〜4種類のゲームを開催、運営は子供たちに任せ、うまくいったという

【輪投げ】は毎回のように実施。その都度人気

回を重ねるごとに充実 「売れる」と模擬店出店者も増加
 これまで4回実施しているが、回を重ねるごとにいろいろなノウハウも蓄積され、出店する人も増えている。
 例えば交通整理。車進入禁止は警察から認められなかった。「果たして無事にできるか?」。悩んだが、会員で手分けして交通整理にあたり、乗り入れる車には協力を依頼し、全店に笛(呼子)を渡し、車が来たら笛を鳴らしてもらい、来街者の注意を引くということで実施した。それで、時にはあちこちで、「ピーピー」と警笛音が鳴り、それがイベントの雰囲気を盛り上げる効果ももたらした。
 2回目からは、「ただいま、ナイトバザール中です。混雑のため、なるべく迂回してください」と大書した看板をつくり、車の侵入口に設置した。これでドライバーの協力が得やすくなった。
 模擬店は手間がかかるが、飲食店はそれなりの道具は持っており、彼らが同調すればいろいろなことができる。 それで3回目の時は、「売れ残ったら会で責任をとるから」と役員が飲食店を中心に会員に声をかけた結果、それまで6店だった模擬店が、第3回は12店、第4回は13店と急増した。

告知に効果あげるかわら版 幟、ポスター、プライスカードの3点セットも
 ナイトバザールの宣伝の中心は、「登戸宿かわら版」と銘打った情報紙。
 記事の大半はバザールの告知なのだが、タウン紙の形態をとり、登戸の歴史や老舗、バザールに参加するバンドの紹介など、楽しく読ませる記事も毎回掲載している。A3判2面、1色で、大きな見出し、写真やイラストをたくさん使っている。ゲームなどの無料券も毎回3枚つけている。
 記事を書き、レイアウトをするのも役員さんたち(会員でもある地元の印刷所が協力)。
 1万2000枚(半径500メートル以内の世帯)を新聞折り込み。
 ほかに8つの子供会に計700枚、子供文化センター(学童保育施設)に100枚を配布した。
 また、手渡し用チラシも軽印刷機で印刷、各店から来店客に配布した。
 ポスター、のぼり、プライスカードの「3点セット」も効果的という。
 ポスターはパソコンで原稿をつくり、カラーコピーしたものを各店で1週間前から掲示する。
 のぼりは40本を2〜3日前から街路灯などに設置する。
 そして各店が使う大きめのプライスカード。
 いずれも黄色で、すぐにナイトバザールとわかるようにしている。

告知の柱として、毎回タウン紙風のチラシ「登戸宿かわら版」を役員で手分けしてつくり、1万2000世帯に折り込んだ。
個店の商品広告は入れず、地域の歴史や老舗の紹介など、読ませる記事も盛り込んだ

経費は年間164万円 役員らの尽力と地域密着で節約
 収支はどうなっているのか?
 年間4回のバザールでかかった商店会の経費は164万円。このうち約70万円が「かわら版」(4回分)。ほかには手渡しチラシやポスター、のぼりや景品代。ゲーム用の長テーブルや照明設備などの備品も購入した。
 役員をはじめとする会員の労力奉仕、地域の団体や個人の参加、独立採算の模擬店などで、意外に少ない経費で済んでいる。
 無料参加の抽選会も実施しているが、当たりでもカップラーメンとか納豆、缶ビール6本など、はずれはキャンデー2つと景品はたいしたことはない。それでも無料のせいか多くの人が参加する。
 収入は参加店の出店料が約16万円(1回1000円、4回、40店)。市からのイベント補助金が30万円、その他、バザールでの商店会直営ゲーム売り上げや協賛金なども多少あるが、100万円強は商店会の一般会計からの持ち出しということになる。

■ナイトバザールの結果

商店街の認知度アップには大きな成果 今後の課題は個店の販促
 このイベントの結果について、5人の役員の1人、江藤文雄副会長(婦人服店)は、「こんなに人がいたのかと商店街のみんなが驚くほどの人出。特に子供たちの集まりがすごかった。これで多くの方々に商店街に親近感を持っていただけたと思う。朝市や福引きなどいくらテコ入れしても年々衰退する一方で、おもしろくなかったが、今回のナイトバザールは、久しぶりに気分がよくなる事業だった」と言う。
 同じく細埜隆巳副会長(酒店)と野村稔イベント部長(鮮魚店)も、「最近の若い人の多くは商店街をよく知らない。そういう人たちに、『商店街って結構おもしろいね』、『こんなところにこんな店があったんだ』と少しは思ってもらえたと思う」と評価する。
 また、従来、売り出しなどの商店街事業にあまり参加しなかった飲食店が「売れる」ということで参加し、実績を残したことも今後の商店街活動にプラスとなりそうだ。
 子供会や障害者施設など地域の団体とのつながりを深めたのも大きい。
 ただし、3人ともこれで満足しているわけではない。
 「ふだんの来街者をいかに増やし、個店の売り上げにどうつなげていくかという問題がある。難しい問題だが、みんなで考えていきたい。それと1商店街だけでなく、向ヶ丘遊園駅北口にある商店街全体の合同イベントにしていくこと」を今後の課題としている。

【商店街の概要】
 登戸東通り商店街は、小田急線向ケ丘遊園駅北口から徒歩数分ほどの場所にある。津久井道(狛江からは世田谷通りと呼ぶ)沿いに形成され歴史は古く、創業100年を超す老舗も数店ある。商店は比較的密集しているが、人通りはそれほど多くない。メインの通りでも道幅は6〜7メートルと狭く、車は一方通行となっている。長さは200メートル余り。加盟店は45店。食料品など最寄り品が多い。商店会費は月4000円。

ふだんの人通りはそれほど多くない登戸東通り商店街。イベントの盛り上がりをどうふだんの来街者増、各店の売り上げ増につなげていくかが大きなテーマ

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