「シナジーの最終兵器"鉄人"」

もう私はとっくの昔にコンシューマ(ゲーム機)によるゲームから卒業してしまって、もっぱらPCゲームをやる人間になっているので、過去のゲーム機に対する思い入れとか未練とかはあまり無いっちゃ無いんですが、そんな中でも私なりに印象深かったというか、これは忘れられん、という伝説のゲーム機があって、それが何を隠そう、松下がゲーム業界に参入してもろくも崩れ去ったあの「3DO」なのですよ。
何しろ、いまだに我が家の3DOは現役で、いつでも電源が入るようにスタンバっているんですよ。まあそうは言っても今となってはこれにCD-ROMが入る事はホント滅多にないんですけどね。

当然ながら3DOは早々とゲーム競争から身を引かざるを得なくなった「敗北者」。ヒット作に恵まれず、先を見越せなかった中途半端なスペックのせいで開発者からもそっぽを向かれた悲運のゲーム機。
やはり最大の要因はキラーソフトの不足があったのですが、そのかわりに何故かほとんど誰も見向きもしないような、超カルト系どマイナーゲームが大量にリリースされ、まあ元々海外ゲーム機という事もあって洋ゲー移植が多かったという背景もあり、他のゲーム機とは明らかにカラーの違うラインナップになっていました。
変わり者の私は勿論こういった洋ゲーが好きだったので、これはまさにうってつけのゲーム機だったんですが、まあこれでは売れませんわな(笑)。
ただ面白いことに、国産ゲームメーカーも3DOに関してはかなりマニアックな内容のソフトを結構出していたのです。恐らく「次世代ゲーム機」と言われた数あるゲーム機の中で先陣を斬った形となる3DOでしたから、開発していたゲームメーカーも皆、手探り状態だったのかもしれません。

その中でも特に異彩を放っていたのが、シナジー幾何学によるFPSゲーム「鉄人」でした。
ゲームソフトハウスというよりは、デジタルアート集団という方がしっくりいったこの会社、しかしそのマニアックな観点とこだわりが理解されず、もろくも倒産してしまいますが、私はこのシナジーの作り出す雰囲気と世界観が好きで、少なからず影響を受けているかもしれません。

冒頭に出るシナジーのロゴ。
カッコエエ
タイトル画面。
リベットだらけ。このゲームでの
こだわりの部分です


ポリゴンゲームがまだ息吹を上げたばかりという時期に、早々にFPSタイプのゲームを取り上げたという点でもかなりチャレンジングなゲームだったのですが、恐らくシナジーとしてはゲーム機初参入となるこのソフト、かなり力を入れて制作されていたかと思われます。
しかし、この作品全体を漂う雰囲気が、明らかに通常のゲームとは逸脱したような感じを思わせ、完全に独自路線を突っ走っています。いかにもアート集団というか、インディー系のアートフィルムのようなざらざらした存在感が非常に印象に残ると同時に、絶対万人受けしないようなマニアックな雰囲気が全体を覆っていました。

ゲームは近未来が舞台。ふとしたことでゲームの主人公はマッドサイエンティストに拘束されてしまう。機械と人間の意識を一体化させるという「同化プロセス」の実験体にされ、鋼鉄の塊である最終兵器「鉄人」へと生まれ変わる。
鉄人は言われるがままに、博士の待つ巨大なビルの最上階に向かって前進していく事になるが、このビルには博士が実験で放棄したジャンクロボットが徘徊しており、これらを倒しつつ前へ進む事になる。 が、途中放棄されたロボットからコンタクトを受け、博士の危険な計画に使われないで欲しいと忠告される。
それでも前に進むしかない鉄人は自らの運命を確かめるかの如く、博士に会うためにひたすら最上階に向かって歩き続ける・・・。

実写とCGを合成したムービーを流し、マッドサイエンティスト役に「帝都物語」で有名な嶋田久作を起用。もうこれが圧倒的なオーラを放っていて、さすが怪優と言わしめた演技を披露し、この作品の重要なファクターを担っている事は間違いありません。
他のゲーム制作者と確実にアプローチが違うな、と思わせるのが冒頭のオープニングムービーで、主人公が捕まり、同化プロセスを実行されるシーンが流れるのですが、普通だったらベットに横たわった男が配線でがんじがらみにされてマシンが目まぐるしく動いているシーンとかを描きそうな物なんですが、これが非常に概念的で抽象的な演出になっていて、あえてSF的な演出を省いた幻想的な方法を使っているのです。この辺はいかにもシナジーらしいというか、アート集団っぽい発想の仕方だと思います。

オープニングより。光に包まれて鉄人へと生まれ変わる主人公。
CGの出来はさすがにシナジーだけあって相当なクオリティです。嶋田さんの演技渋すぎ。


では肝心のゲームの方なんですが、前述したとおり、まだ当時としては珍しいFPS(1人称)タイプのゲームです。ただし、3DOがポリゴン表示をあまり得意とはしていなかった事、初めての試みでまだ不慣れだった事等が災いし、ゲームとしての出来は正直結構厳しいと言わざるを得ません。
移動のスクローリングはトロトロと鈍いうえにカクカク気味だし、出てくる敵キャラも、取ってつけたようなガラクタ気味のそっけないロボットばかり。技術的な問題や操作性のシンプル化に伴い、高低差の概念は無いので基本的にマップは平坦な迷路に統一されています。

それでも一応、サポートしてくれるアンドロイドとの通信や、節々でムービーを流して少しづつ話の全貌を明らかにしていくやり方で何とかゲームに緩急をつけているのですが、ゲームの大半部分を占めるビルダンジョン内の移動は基本的に迷路を進んでいくというシンプルな物であり、操作性の悪さもあって到底スピーディなゲーム展開にはほど遠く、ずっしり、のっしりという重々しい雰囲気があって、さすがにこれでは一般ゲームユーザーにはアプローチ出来ない内容だなあ、と当時プレイしていて思ったものです。
同じ時期に出ていた「呪われた館」というホラーFPSゲームでは、スムーズでスピーディなスクロールが出来ていたのでますますこの点が残念でなりません。

この「鉄人」の紹介記事を載せた「3DOマガシン」では、シンプルな展開を敢えてやってプレイヤーの感覚を鈍化させ、一種のトランス状態(言わばゲームにどっぷりと感情移入する)にさせようとしているのか? と苦しい(笑)勘繰りをいれたりしてフォローしていましたが、実のところ、そんなに間違った意見ではないのかも、と思ったりして。何故なら私はこの操作性の悪さにイライラしつつも、結局熱中してプレイし、エンディングまでやってしまったクチですから。

鉄人のゲーム画面。
ちなみに音楽もインダストリアル系な
アンビエントサウンドで独特です
敵キャラは皆ロボットですが
結構やっつけデザインが
多いです(苦笑)
時折通信してくるアンドロイド。
実はストーリー上重要な鍵を
握っているキャラです

まあこの辺は、恐らく私がゲームを楽しむ際、内容うんぬんよりもゲーム全体を覆っている雰囲気などを楽しむ傾向がある、というのも深く関係しているのかもしれません。そうじゃなかったらとっくにサジを投げていそうな感もありますねえ。
少なくとも、これ程までに独特の雰囲気を持ったゲームも珍しいです。バカゲー的なぶっ飛びさとも違う、クールな飛びさ加減がまさにシナジー的とも言えます。



さて、意外と好評だったのか、それともやり足りない事が山程あったのか定かではありませんが、なんと一年後に続編がリリースされます。「Tetsujin Returns」がそれで、ストーリー的にもきちんと繋がった純粋な続編となっています。
続編では、主人公が自らの体を放棄、鉄人と共に永遠の眠りについていたのですが、世界ではあの博士の作り上げた「同化プロセス」が一般化し、SCRなる国際組織がそれを利用して全世界を統括。そんな中、失われたはずの鉄人が発見され、新たに選ばれた主人公がSCRによって無理矢理同化させられるハメに。
しかし、SCRには裏があるとレジスタンスに説得され、鉄人は反旗をひるがえしたものの、そこに新たな勢力が現れて事態は思わぬ方向へ・・・・。

「Tetsujin Returns」オープニングより。今回は地上に空に宇宙にと目まぐるしく舞台がチェンジ。
CGのクオリティもさらにスケールアップしてます。


前回で色々問題点があったことは重々分かっていたのでしょう、「Returns」ではそういった問題点がほとんど解消されています。
スクロールはだいぶスムーズになりましたし、武器持ち替えやマップチェックも簡単に出来るようになりました。
ほとんどやっつけ的だったゲーム画面やキャラクターもだいぶ細かく描きこまれていますし、やっとゲームらしい画面になった印象です。しかし、ゲームとしてはやはりシンプルなFPSゲームであるという事は前回と同じで、その事を考慮してか、途中でレーシングゲームのような障害避けや、空中を漂う標的を撃つシューティングのような言わば「ミニゲーム」的な要素をはさみ込み、中弛みしないような配慮がされています。勿論、合間合間にシナジーお得意のムービーが流れ、相変わらずの高クオリティなCGを見せてくれます。

Returnsのゲーム画面。
ゴツゴツしたインターフェイスは
相変わらずです。
敵ロボットもきちんと
描きこまれたデザインに。
障害物を避けて進む
ミニゲーム的な要素も。


前作に比べ、はるかにゲームとして成立している、きちんと作り込まれた良作ゲームになっている事は間違いありません。
しかし、あちらを立てればこちらが立たずとは良く言ったもので、確かにこの続編は誰でもスンナリ楽しめるゲームになっていると思うのですが、その分、前作にあったあの独特の雰囲気というか、アート的な側面がだいぶ引っ込んでしまった印象で、インパクトという面においてはかなり後退してしまった感は否めません。
流れるムービーも前回とは打って変わって非常に状況説明的な演出となり、分かりやすい反面、心に残るようなムービーでは無くなってしまいました。嶋田さんみたいなインパクトのある演者さんが出てこなかったというのも意外と大きいポイントだったのかもしれません。今回はその代わりとしてSCR総帥というのが出てくるんですが、百歩譲っても嶋田さんの存在感の前ではかすんでしまいます。

ゲームとしては充分楽しめた「Returns」でしたが、やっぱり印象に残ったのは前作「鉄人」の方です。こればかりは、ゲームとして評価するか、作品として評価するかによって全く異なる意見になってしまうため難しいですね。
ただあの「Returns」でさえ、世間一般的な尺度で捉えたら結構マニアックな部類に入るでしょうから、大衆的には厳しい評価が下されたのかなあと。事実この後シナジーは倒産へと追い込まれてしまいますし、アートとゲームの両立がいかに難しいかをたたきつけられた感じです。

結果、シナジーの行ってきた事はどれも中途半端に終わってしまった感がありますが、ひとつのこだわりを貫いた制作方針にはいたく感銘する所があります。しかし、それが商業的には非常に無謀であることが証明されてしまった訳ですから、今後、こういった独自路線を貫いた作品を出す事が難しいと思うと、結構寂しいですねえ。
シナジーのメインデザイナーだった庄野氏や日下部氏は今でも細々とクリエイション活動をしておられるようですが、完全カムバックを期待したいところ。しかしはたしてそんな夢のような事はあるのか? それとも3DOと同じく、少数派はただ消えるしかないのでしょうか?

©SYNERGY inc.

ちなみに、庄野氏は映画「キャシャーン」にてCGを担当しており、思いっきりシナジー節が炸裂しているらしい。目茶苦茶気になるぞっ(笑)












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