随想  車椅子

田 中 恭 彦


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僕が出かけるときは様々な準備が要ります。まず、一人では出かけられませんから、一緒に行って下さる人を捜さなければなりません。次に車の確保です。普通の車でも乗れますが、乗り降りが大変なので、出来れば、車椅子のままで乗り降りできるリフトが付いた車を借ります。

 僕は色んな所に出掛けます。ある催し物に行ったときのことです。そこには、出店もでていたと思うけど、何処からか、見ず知らずのおばさんがやってきて「これで何かを買ってあげて」と言いながら、僕の手にお金を握らせたのです。僕は一瞬戸惑ったけれど、いっしょに行っていた人にそのお金を返してもらいました。ですが、なんだかおばさんは不服そうでした。この時おばさんは何の悪気もなく、ただの善意のつもりで僕にお金を渡したんだと思います。

 障害者のことを、かわいそうな人とか恵まれない人とか言う人がいます。そして、夏には24時間テレビがあり、年末には赤い羽根の共同募金があります。この時ばかりは善意のお金が集まって、社会の役に立っていると思うけれど、僕は嫌いです。

 かわいそうな人とか、恵まれない人って、いったいどんな人ですか? 食べる物がない人。病気の人。親のいない子供。仕事がない人。いわゆる弱者と呼ばれている人のことです。世の中では、弱者が弱者のままでいる時はいいのですが、生意気なこと、つまり、自らの権利を主張すると村八分にあいます。だから、平等な社会はなかなかできないんだと思います。

 僕がある時、帯屋町を歩いていたら、酔っ払いが、「お前みたいなのは、こんなところでうろうろするな」と言いました。その時は、しばらく立ち直れなかったけれど、たぶん、これが本音だと思う。

 車椅子があるので、今の社会で歩けないことは、それほど大きなハンディにならない。

問題なのは、車椅子でいけないところが、未だにたくさんあることです。もし車椅子で何処でも行けるようになれば、歩けないと言うことは、そんなに大きな問題にならなくなると思います。


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