高知新聞記事から(1996年4月8日朝刊)
北欧のスウェーデンは、社会福祉の「モデル国家」という国際的な評価に満足することなく、人間がより豊かな生活を送るのには何が必要かを国民全体で追求、革新的なアイデアで常に「優しい社会づくり」に挑戦している。その新しい試みの一つが、世界でもユニ−クな障害者の「パーソナル・アシスタント(PA)」制度だ。
スウェーデンでは1995年1月から、新身体障害者法が実施され、障害者は自らが雇用主となって自分に適したアシスタントを国の負担で雇えるようになった。障害者に健常者と同様の生活ができる可能性を与え、積極的な社会参加を実現するというのが趣旨で、九五年には約六千八百人の障害者がPAを採用した。
首都ストックホルムに住むヘレーナ・カーンズトロームさん(34)もその一人だ。生まれつきの脊髄(せきずい)筋肉委縮症で、歩くことも手を上げることもできず、車いすの生活が続く。夫のマッツさん(39)との間に、四歳と五歳の子供がいる。
ヘレーナさんのPAは7人。1日24時間を交代で担当し、朝の洗顔からトイレ、食事、ふろ、子供の世話、ショッピングなど、ヘレーナさんの手足代わりとなって働いている。うち一人のPAが病気などで来ちれなくったときは、マッツさんが臨時PAとなる。もちろん、その時間の手当は国からマッツさんに支給される。
「以前はホームヘルパーに頼んでいたが、どのヘルパーになるかは自治体に権限があり、自分では決められなかった。今では自分に決定権がある。それが一審の大きな遺いです。自分のことはだれよりも私自身が知っているから」
へレーナさんが指摘するように、スウェーデンの降害者はPA制度によって、ただ介助されるのではなく、自分のイニシアチブで生活を送れるようになった。
PAの月給は週四十時間働いたとして、13,000クローナ(約19万5千円)。これはスウェーデンの労働者の平均賃金に相当する。九五年は、当初予算の25億クローナを大幅に上回る37億クローナがPA経費として支出された。
このため政府は95年12月、16歳以下の障書者にはPAを認めないなど、9百万クローナの削減を提案した。しかし、身体障害者やPAら約千人が政府庁舎前で抗護行勤を展開。反対の輪は全国に広がったため、結局、政府は提案撤回に追い込まれた。
身体障害者オンプズマンのインゲクラソン・ペストバリーさん(48)は「障害者が気持ちよく暮らせるシステムがあれば、国全体も気持ちよい社会になる」と強調する。優しい社会づくりに終わりはない。
(ストックホルム高橋功共同通信員)