※以下の文献を参考に作成(「今月の分子」2000年11月参照)
◎荻田 健,『講座:微生物と化学(3)/微生物に医薬を探る』,化学と教育,2000年11月号,p.740
ペニシリン骨格(上左;下はその一例,ペニシリンG)とD-アラニル-D-アラニンの構造(上右;下はR'がHの場合)の重ね合わせ。上図の緑色部分が類似している。
(上の構造式は原報図4を若干変えて作成;-COOを-COOHとして表記) ※以下の各分子モデルは実験で求められている安定構造ではありませんのでご注意ください(配座は適当に設定し,PM3計算)。
また重ね合わせモデルは模式的なもので,上記参考文献をもとにフィッティングさせたものです(上図参照)。回転可能な部分の配座を変更すれば,さらに重なりがよくなることが予想されます。
・色分け1(Chain):赤がペニシリンG,青がD-アラニル-D-アラニン |
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ペニシリンG |
D-アラニル-D-アラニン |
※以下の文献にも解説あり
◎山川浩司・金岡祐一・岩澤義郎,「メディシナルケミストリー 第4版」,pp.234-235,講談社(1998)
【補足】
引用文献によれば,ペニシリンは細菌の細胞壁のD-アラニル-D-アラニンを模することにより抗菌性を示すとされている。
抗生物質とは微生物によって産出されるもので,もともとは他細胞の発育を阻止する物質とされたが,現在は抗菌,抗ウイルス,酵素阻害,制がんなどの作用をもつ物質を幅広くさすようになった。現代の医学で抗生物質の果たしている役割はきわめて大きい。
最初に発見された抗生物質は,1928年(岩波・理化学辞典では1929年)にフレミングが青カビから見つけたペニシリンで,ブドウ球菌の培地に青カビが入り込んでその周囲のブドウ球菌が溶けていることから気づいたものである。なお,1957年には梅澤濱夫がカナマイシンを発見している。
抗生物質は一般に特定の菌にだけ作用するという選択毒性をもち,たとえばペニシリンは動物には無く細菌だけがもつ細胞壁に作用してその合成を阻害して死滅させるものである。他には細菌の細胞のタンパク質や核酸の合成を阻害したり,細胞膜質の機能を障害するなどの作用によるものがある。
ところが,抗生物質を使っているうちに,それに耐性をもつ菌が現れてくることがわかった。これを耐性菌(*)というが,さらに別な抗生物質を見出したり開発するなどして対応していくことが必要となっている。
現在は微生物由来のものと人工的に合成されたものを含めて100種類以上の抗生物質があるが,化学構造的にはβ-ラクタム系(ペニシリン類等),アミノグリコシド系(ストレプトマイシン,カナマイシン等)など10数種類に分類できる。
* 医療関係のニュースに時々登場するMRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の略で,抗生物質のメチシリン(ペニシリン系に属する)に対する耐性ができたものである。最近,医療施設内で抵抗力の下がっている患者や高齢者がさまざまな感染症にかかってしまう院内感染が問題になっているが,MRSAに感染して死亡した例もある。バンコマイシン耐性菌(VRE)の出現も脅威となっている。