「そこに居たかも知れない若き探偵 (私立探偵濱マイク)」

なんか凄い唐突なんだけど、90年代に映画三部作が公開され、さらに2002年にはTVシリーズも放映された「私立探偵濱マイク」シリーズについてちょっと語ろうかと思った次第。
横浜は黄金町を舞台に、永瀬正敏演じる濱マイクが探偵業を通して様々な人間模様を垣間見ていくヒューマンドラマ。元々林海象監督による作品で、かつてのにっかつ映画のような古い邦画に対するオマージュを込めた企画だったようです。

©For Life Records, Inc

私がこのシリーズに極めて思い入れが強いのは、やはり舞台が横浜だという点。長年横浜に住み続けている身としては、やはり馴染みの場所が舞台となる映画は観ていて嬉しい物があります。
まあ横浜を舞台にした映画やドラマは過去に幾つもありましたが、例えば私の記憶の中では「あぶない刑事」シリーズとかは有名でしょう。確かにこれも多少思い入れはあるんですが濱マイクほどではないですね。何故なら何といっても濱マイクの場合、ロケ地が黄金町だからなんですよ。実はココめっちゃ近所なんですよね。学生時代は通学のために黄金町駅は何度も通ったし、それ以降も良く通りましたからね。近くに伊勢佐木町があるのでそこは有名でしょうけど、黄金町があるのはそこのだいぶ末端部分に面してます。

そんな訳で、馴染みも馴染みな場所が舞台とあっちゃ、そりゃあ思い入れも強くなります。そこで今回は、そんな横浜地元民の視点から見た濱マイクシリーズを振り返って見ようかと思います。

などと大口叩いた側からなんですが、まあ幾ら地元民だからって横浜の隅々まで知ってる訳じゃあ無いんですけどね。正直他の地元民より遙かに知識浅いかと(爆)。まあそれでも、そもそも横浜の観光地である山下公園やみなとみらいからはだいぶ離れた位置にあり、普通だったら部外者は来るような場所じゃないので、少なくとも観光で来た人よりかは多少詳しいのかなー。まあそんな位の感覚ですね。


記念すべき濱マイクシリーズの第一弾映画「我が人生最悪の時」は古い映画のオマージュとしてモノクロで撮られました。なんで舞台を横浜の黄金町、しかも実在する横浜日劇の一室をまんま利用してマイクの探偵事務所としたのかと言うと、監督によれば、やはりこの場所が異空間だったからだそうで。当時から時間が止まったかのような古き良き佇まいが残っている街だったので、ここを舞台にして何か撮りたいというのは監督の欲求としてあったようです。つまり話ありきで舞台が決まった訳ではなくて、やはりこの舞台があったからこその映画だったという事なのでしょう。


確かに横浜日劇は独特な外観で異彩を放ってました。あそこだけ妙に異空間だった事に異論はないです。実際の映画でも、そのショットはとても90年代に撮られた風景には見えません。まさに監督の意図通りの絵図になったんだと思います。
ただこの映画、三部作の中では個人的にあまり気に入っていません。絵がモノクロなため、本当に風景が現代っぽくないように見える事が影響してるのか、せっかく横浜を舞台にしているのに、あまり横浜らしさが出ていないように感じるからです。馴染みの場所が出てるハズなのに、何か全然違う場所のように思えてしまってピンと来ない。監督の意図する古い映画のイメージとしては成功しているんですけど、その分、古い町並みなら横浜でなくとも、何処でも良かったのではないか、なんて疑念が生まれてしまいました。

話としては、マイクが台湾人のヤンと知り合い、彼から行方知れずとなった兄の捜索依頼を受けたは良いが、そのためにマフィア絡みの大きなトラブルに巻き込まれていく・・・という言わば人情や絆をテーマにしたお話。
探偵物とはいえ、基本的に濱マイク自身は事件解決に大きく貢献したり、大活躍したりするような事はありません。捜査の依頼を受けて半ば不本意に事件に巻き込まれ、複雑な人間模様を垣間見ていく役回りです。なのでハリウッド的カタルシスとかとは無縁なお話。マイクがまだ駆け出しの半人前という設定なので、若気のいたりで突っ走るんだけど、まだまだ未熟だねえ・・・といった感じで、彼の挫折や成長を見守るような映画ですね。


第二弾となった映画「遙かな時代の階段を」は前作から一転、鮮やかなカラー映画として登場しました。カラー映画になった事で、今回は随所に横浜らしさがようやくにじみ出たように思います。相変わらず古い日活映画みたいな雰囲気をイメージしたビジュアルは保たれてますが、前作よりずっと横浜を舞台にした意義が出ていました。夜に輝く横浜日劇のネオンサインはまさにそれを象徴しています。

濱マイクは、黄金町付近の商店街や路地、そしてそこで働いている人達がそのままエキストラで出たりとか、本当に横浜地域密着型の映画だったので、地元民なら「ああ、あそこね」というシーンが本当に多いです。カラーになった事でそれが凄く分かりやすくなりました。例えば左下画像は地元ならすぐに気付く「横浜橋商店街」。日劇の位置からまっすぐ行った所にあるアーケードで、ここまでの規模でしっかり雨風をしのぐことが出来る商店街は横浜でも珍しいと思います。

黄金町には大岡川という川がすぐ近くにあるので、橋が沢山あります。映画でも末吉橋とか良く出てきますしね。この大岡川にかかる桜並木が素晴らしい。川は汚いけど(笑)、春になると川沿いにず〜っと桜が咲くので、ここはちょっとした花見スポットです。夜になると屋台も出て、夜桜を楽しむ人達で溢れかえります。ライトアップされて相当綺麗ですよ。

ちなみに養父としてマイク達を引き取った、日劇の支配人役で福寿祁久雄さんという人が設定として書かれていますが、この人、本当の日劇のオーナーです。映画でもチラっと登場しています。彼は映画化に際して数々の助力をしてくれており、この作品の功労者です。こうした地元の人達の協力の下で制作されたおかげで、作品は極めてリアルと架空のあいまいなラインで存在する不思議な映画となったのです。
何しろ出てくる殆どのお店は実在する物をそのまま使っるので単純に演者が居ないだけの違い。黄金町に足を運べば、まんま濱マイクの世界が広がっているというのは、映画を観た人にとっては奇妙な感覚でしょう。しかもこの映画自体が日劇で上映されてた訳ですからね。完全にリアルと架空がごっちゃになりますよ。

ストーリーは、マイクの母親であるストリッパーのリリーが突然横浜に戻ってくるというお話。しかしマイク自身は自分と妹を捨てたリリーがどうしても許せず、冷たい態度を取ってしまう。そんな折、またしても厄介な事件に巻き込まれたマイクは、自分の家族にまつわる因縁的事実と向き合う羽目になり・・・。
相変わらず濱マイク映画のスタンスは変わってなくて、マイクの存在は所詮ちっぽけな物なんだけど、話自体は家族にまつわる物だけにかなり切なくて、なかなか良い話だと思います。まあ横浜らしさが出ている事もあって個人的にはこちらの方が好みです。しかし、みなとみらいのランドマークタワーとかがしっかり写ってるのに、本当に昭和位の年代の映画に見えますね。色使いが意図してそうなってるのかな。


第三弾「」では第二弾と同じくカラーフィルム作品ですが、ヒューマンドラマから一転、サイコ・サスペンスに突如巻き込まれるマイク。敵の罠にかかり、まんまと連続殺人事件の犯人に仕立て上げられてしまう。警察から逃げながら、真犯人を追うマイク達だったが・・というお話。
今回は第一弾でほのめかされていた恋人、百合子さんが登場、彼女も事件に巻き込まれてしまうため、マイクは命懸けで守ろうと必至に奔走。いっつも自分で解決出来ないマイクですが、今回ばかりは最後くらいビシッと決めてくれます。まあツメが甘いなーという感じではあるけど。

一応完結編という事で物語も最終回的なまとめに入ってましたね。ストーリー的にはそんなに凝った物でもない(大体オチは読める程度のもの)ので、ちょっと平凡な感は否めないけど、一人二役の永瀬氏の演技は迫力ありました。
ただ、今回は話を進めるのに重点を置いたようで、あんまり横浜的な風景が出てきません。物語的に暗闇や汚いボロ屋敷とかそんな場面が多かったので仕方ないですけど。なので横浜地元民としてはやはり第二弾がお気に入りですね。

しかしシリーズを通して、この濱マイクというキャラクターは中々愛すべき人間だと思いますね。なんか何処にでもいるような、少しお調子者でちょいとばかし格好つけたがる男。何をするにも取り敢えずはまず形から入って行くようなタイプなんで、ポリシーはあるが腕は半人前。ある意味ちょっとダメ人間。でも人柄が良く、気さくで人情味があるのでそこが取り柄。だから憎めない。普段は見せないけど、暗い過去を背負っているので時折その傷口たる一面が露わになる事がある。その影の部分もまた、彼のキャラクターの魅力に繋がっているように思えますね。

私も個人的にこういうちょっとお調子者のキャラクターって嫌いじゃなくて、知人でたまに居たりするんだけど、まあこういうタイプの人って友人は多いけど同時に「信用ならん」みたいに軽蔑されるきらいがある。でもそういう部分も含めて愛おしくて、自分には絶対にない要素を持った人達だし、場を和ませてくれるし、見てるだけで勇気づけられる。でも彼らだって本当は悩んでるしウラがあるかもしれない。そう思うとマイクと被るんだよね(笑)。

濱マイクは良く探偵物語や傷だらけの天使なんかに比較されるので、松田優作という巨人が常に立ちはだかってしまうため、どうしても割を食ってる感は否めないけど、まあ元々オマージュが出発点なので仕方ない感はありますね。私はこれらのドラマをマトモにみた事は無いのでどれくらい影響受けてるのかは判断しかねますが、永瀬氏はこのマイクというちょっとドジでキザな探偵をちゃんと好演出来ていると思います。


映画はヒットし、その影響もあってか、TVドラマ化される事になりました。でも放映されたのって2002年なので、映画から5、6年は経っているんですよね。しかしその内容がとんでもなくて、全12話1話完結で、各話撮る監督が全部違う。12人の監督が一話ずつ担当して作るという何とも贅沢な仕様。しかも当時非常に注目されていた新鋭の監督ばかりを起用し、各自好きなように撮ってもらうというスタンス。画質もフィルムだったので、TVドラマなのに雰囲気はほとんど映画並み、毎回ゲスト出演者も著名な顔ぶれが揃っているという豪華さでした。

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ところが、いざ放映が始まってみれば濱マイクの映画ファンからは大不評。視聴率もふるわなかったため、作品としては失敗に終わったと言っていいのかもしれません。明らかにお金かかってそうでしたからねえ・・・。
実は私は、濱マイクはTVシリーズから入ったクチです。なので映画から入ったファンの怒る気持ちがうまくくみ取れなかったのですが、後で映画版を見て、ああーそりゃ不満に思うわなー、と納得しました。

何しろTV版では、映画版で出ていた登場人物の殆どが出演していません。マイクを取り巻く友人達は全く別のキャラクターに取って変えられてしまっていますし、中でも一番衝撃なのがマイクの妹、茜ちゃん。彼女は数少ない映画版、TV版両方に出ている登場人物ですが、演じている女優さんが別、というだけならまだしも、映画では清楚な女子高生だったのに、TV版ではちょっとチャラチャラしたいかにもギャル系の女子に変貌。いやあ、これは映画から入った人は腰を抜かすでしょ(笑)。
ただし幸いだったのは、風貌こそガラリと変わってしまいましたが、中身の性格的部分はちゃんと映画版を踏襲している点でしょう。実は真面目でしっかりしていて喋り方も普通です。これは映画版と同じ。
なので私はまあ許容範囲かな、とは思います。でも映画の第三弾は無かったことになってますよね。彼女TV版ではまだ予備校生みたいなので。

まあそれだけでなく、元々映画版が古い日本映画のオマージュだったのですが、TV版ではその辺も一切考慮されていません。ビジュアルはより近代的でスタイリッシュ方面にシフトし、横浜という異空間を効果的に使用しているとは言え、映画版とはだいぶ絵柄からくるイメージは変わってしまいました。何しろ映画版を作った林海象監督はTV版を担当する12人には入っておらず、原作者としてクレジットに記載されるのみ。しかもその監督達が好き勝手に各話を作っていたので、他の監督のテイストや映画版に合わせるというような気配りは微塵も無く、どの回もその監督の個性と特徴が全面に押し出されていました。そのため結果的に「全然濱マイクっぽくない」という不評を買ってしまったという訳です。

ただ、そういった映画版との差異を抜きにすれば、毎回違うテイストの作品が拝めるわけで、実に興味深いTVシリーズだったと思います。言わばこれは12人の監督達が考える、その後の濱マイク像だったのかもしれません。昔、同じテーマから各監督達が思い思いに作ったオムニバス映画「アリア」とかありましたが、ノリはそれに近いですよね。お題だけ与えて、さあ各自自由に作って下さい、みたいな。あるいはオリジナル楽曲をDJ達がリミックスして仕上げた別バージョンか。おかげで千差万別のマイク像が浮かびあがる訳で。

では、TVシリーズを12話順を追って振り返ってみましょう。勿論、横浜地元民と言う視点も含めて。ところで、私はTV版から入ったとは言いましたが、当時リアルタイムで見ていたのはほんの人握りの数話だけだったんです。それでも強烈に印象に残ったって訳なんですが、なので最近になってDVDでようやく全話視聴したんですけど、既に見た部分について殆ど覚えてなかったことに驚愕でした(爆)。大丈夫か私の記憶力。

なお、グーグルマップで映画版も含めた濱マイクシリーズのロケ地マップを作成してみたので、興味ある方はどうぞ。このページで張られているリンク箇所はここから引っ張ってきた物です。まだ結構検証し切れてない部分も多いですが、いずれ自分でもちゃんと廻ってみたいですね。


「31→1の寓話」
記念すべき1話目。スペシャルで時間が長かったのでしょうか。DVDでは90分近くあり、殆ど映画ですね。実は1話目は当時全く観ていないので良く分かりません。監督は最近「死刑台のエレベーター」をリメイクしたりしている緒方明。
とある男から謎の手紙を受け取ったマイクは、期日までにその差出人たる男の居場所を捜さねばならなくなる、というお話。そんな中、ある銀行マンの自殺遺体が発見されるのだが・・・。

登場するゲストキャラが皆良い味を出していて、マイクもだいぶチャラッとした風貌になったものの割と映画版とキャラはブレて無い感じ。でも今回TVシリーズを通して、マイクは少し女グセが悪いというか、女ったらしな一面がクローズアップされているように思えます。映画版では恋人の百合子さん一筋だったのに、ここも映画ファンは引っかかる所かもしれませんね。でも映画版でも描かれてないだけで、マイクって元々女ったらしな所があるようなキャラだと私は思いましたけどね。つまりTV版ではまだ映画版のように本当の恋にマイクは恵まれてないって事でどうでしょう(笑)。

批評を見ると、とにかくこの1話目の評価が低い。これが最初に来ているからそもそも視聴者を獲得できなかったのでは、と散々書かれていますね。私は最近になって初めて見た訳ですけど、うーん、そんなに言うほど悪い話だろうか? 結構良くできたイイい話だと思ったんですけどね・・・。狭山とマイクのやりとりとか凄く味があって好きなんだけど。

ただこれがお茶の間に放映されたって事を考えると、確かに少々マニアックだったかも。ノリは濱マイクシリーズよろしくちょっと軽めのテイストだったんですが、絵柄から感じ取れる雰囲気はかなり重くじめっとした物だったので、戸惑った人も多かったのかもしれません。やっぱり撮り方も新鋭の監督らしく見せ方を重視した、凝った絵図でしたし、普段の通常のTVドラマとして観たら、えええ?って感じになってしまったのかも。
それと映画版では冒頭で探偵事務所が映画館の中にあり、そこで濱マイクが仕事をしている、という一連の日常風景を描くことで濱マイクのキャラクターや境遇を一気に説明していたんですが、そういうのすらなかったので、初見の人達はさらに困惑したのではないでしょうか。やっぱりそこは映画版と同じく、軽く依頼者とやりとりしている濱マイクのシーンくらいは必要だったのでは。

なお横浜地元民としては、あんまり黄金町付近の場面は出て来なくて、横浜がロケ地なのは変わらなくとも流石に見たこともないような場所が多く、その点ではあまり楽しめませんでした。


「歌姫」
ミュージシャンであるUAがゲスト出演、歌えなくなった元歌手という役。彼女は自分が何故歌えなくなったのか、その理由を捜して、という無茶苦茶な依頼をマイクにするのだが、その真相とは・・という話。
監督は前田良輔。うーん、この話、私は1話に比べるとあまりのめり込めなかったです。ちょっとUAのキャラの個性が強すぎて、マイクより目立っちゃってるし・・。そもそも依頼からして態度がふてぶてしい。なんか今思うと南海キャンディーズのしずちゃんみたいな雰囲気だよなあ(笑)。

しかもUAは関西弁喋るし、知人のおっちゃんも関西弁で喋るため、全然横浜っぽくない(笑)。その例の「中村橋のおっちゃん」ですが、中村橋って言うから思わず身を乗り出してしまったけど、何故なら中村橋もめっちゃ近所なもんで。ところがいざフタを開けてみればロケ地はそこから少し離れた八幡町の方でした。
うーん流石にそっちはあまり行った事ないから分からないなあ。どうりで知らない風景ばかりな訳だ。ちょっとガックリ来ちゃったじゃないのさ(笑)。


とりあえずこの回で私が気付いた馴染みの場所は、UAが公衆電話で電話をしているシーンで映り込んだゲーセンで、曙町の16号交差点付近。すぐ隣に伊勢佐木町商店街がある道で、横浜橋商店街へと続く道です。
ビリヤードと大きく描かれた老舗のゲームセンター。いやー良く見た光景だわココ(笑)。もう今は無くなっちゃいましたけどね。



「どこまでも遠くへ」
中身が空っぽのプレゼントが幾つもマイクの元に届く。そんなこんなでまたしても薬の密売という面倒に巻き込まれてしまうマイク。その張本人が十代の少女で実は・・・というお話。
監督は萩生田宏治。多分私はこれをリアルタイムで見たようなので、幾つかのシーンは憶えてます。つまりようやく第3話から見始めた訳ですね。でもそれ以降の話、結局全然見てないんですけど(爆)。うーんなんでこんなに当時非積極的だったんだろう。凄い気になってたハズなのに。

1、2話とかなり独特な映像と話が続いた中、今回は少し分かりやすい話だったかも。その代わりあんまり印象に残る回じゃなかった。今回マイクは危うく命を落としかけるけど、「俺としたことが・・」と何とか危機を脱します。でもアナタ、毎回ピンチに陥っちゃってますよね(笑)。まあTV版のマイクは映画版に比べると若干達者には見えるので少しは成長した、とういう事なのかな?

横浜地元民的には、娼婦のサリーさん(岸田今日子!)が出没した場所は大岡川の橋なので、見たことある風景が出てきてちょっとホッとしました。特にラストでサリーさんが歩いている黄金橋は大通りの太田橋から2ほどつ離れた位置にある橋で、私も良く通っていた場所なので嬉しかったですね。ところでこのサリーさんはやっぱり横浜メリーさんをイメージしたキャラクターでしょうか。


それとTV版では濱マイクの事務所は日劇の館内ではなく、その屋上に移転した事になってますが、ここは地元民ならああ、嘘だな、と分かってしまうポイントです。実際にはマイクの探偵事務所は関内の近くにあったストロングビルの屋上に作られて撮影されており、背景に思いっきり横浜スタジアムが写り込んじゃってます。
当然ながら黄金町を知っている人間なら日劇の側からスタジアムは絶対に見える訳がないと気付くハズなので、うーんもう少し配慮出来なかったのだろうか(笑)。まあ映画版のように日劇のままでは撮影のスケジュール的に色々難しい部分もあっただろうと察しますが。実際映画版では撮影時、劇場の営業に支障をきたすので撮る時間は限られてたみたいですからね。



「サクラサクヒ」
中国人のメイホアと、マイクの友達である丈治との、儚くも切ない恋物語がメイン。マイクはメイホアからある男を捜して手紙を渡して欲しいと依頼を受ける。実はその手紙はメイホアの母がその男に宛てた手紙だったのだが・・・というお話。
いや、この回は単純に話として凄く面白かったし良かったです。最初はなんか凄いコメディ色が強いなーと思ったけど、話自体は結構シリアスでグッと来ます。画面も別に奇をてらう感じもなく、非常にまっとうなドラマにまとまってました。

調べてみるとこれを撮った行定勲監督、映画版で助監を務めた経験があるんですね。それを聞いて少し納得。何故なら節々で映画版へのオマージュみたいな物を感じ取れたからです。マイクに食ってかかる刑事は明らかに中山刑事をモチーフにしているし、マイクがまだ若かった頃の回想シーンとかが出てくるんですけど、しっかり映画版の服装で登場させている辺りがニクイ。この話はリアルタイムでは見ておらず、映画を観た後からなので、その点は結構楽ませて貰いました。濱マイクファンもスンナリ楽しめるんじゃないでしょうか。
まあ丈治にスポットが当たっている話なのでマイクは縁の下の力持ちに終始しちゃってますけど、私はそんなマイク嫌いじゃないですけどね。
あとゲストで岸部一徳さんが出てますので、思わず「かんぼーちょ」・・・あ、いやなんでもないです。


この回では、日の出警察署というのが出てきますが勿論そんな警察署はないので架空の物です。でもそこのロケ現場が根岸駅のすぐ近くの場所だったんですね。初見では流石に気付かなかった。でも脇にある中学校の門が見切れて「あれ、なんか見覚えあるぞ?」みたいな。根岸駅も馴染みの場所なんで思い入れは強いですよ。まあ今となってはマンションが建っちゃいましたけどね。
そこの部分は嬉しかったんだけど、他には特に横浜らしい絵があんまりなくて寂しい回ではありました。お話や雰囲気自体は映画版に少し近いだけに惜しいですね。


ちなみに毎回登場するコーヒーマツモトは、横浜橋商店街の裏路地に面した所にひっそりとある実際に存在するお店です。
今でもあるのかは知りませんけど、場所的には日劇の近くにある訳ですので、マイク達が良く通ってるのは筋が通ります。でも正直言うと、ブラッと立ち寄る事が出来る程近くでは無いんですけどね(笑)。あ、車で行くなら近いか。



「花」
アパートの光熱費とか、そういう金銭面ではずっと妹の茜に世話になりっぱなしのマイク。しかし今回ばかりはちゃんとお金を払うために、バイトまでして義務を果たそうと奔走する。しかしまたもや事件に巻き込まれ、妹の茜までピンチに。さあどうするマイク。
前回でのまっとうなドラマから一転、再び新鋭監督らしい非常にトンがった演出が目立つ回でした。監督は須永秀明。

そもそもお話からして結構意味不明(笑)。要はマイクと妹の茜との絆を描いた回で、そういう部分では中々良い話なんですが、そこに行き着くまでの道のりがかなり唐突な物が多くて戸惑いました。
意味あるんだか無いんだかよく分からない神出鬼没のカウガール、マイク達を襲う偽マイクの登場も結局絆を深めるストーリーラインのために都合良く登場させたようにしか見えなかったし、それぞれのエピソードが必然性があって並んでるように見えなかったのは痛い。

それにライブハウスでかなり長い時間バンドの演奏シーンがあるんだけど、これもまあ色々訳あって入れてるとは思うものの、余計な蛇足感は否めませんでした。ハッキリ言って私はこんな感じの激しい曲苦手だから長く聴くのは苦痛なんだよ。UAの回でも思ったけど、音楽って実はそういう諸刃の剣的な部分あるから、よかれと思って長々と演奏シーン入れるのはどうかと思うんですよね。しかもコレ、DVDではメイキングでも延々ライブの様子が入ってたし、しかもビデオクリップと称してボーナスとして丸々この演奏シーンが収録されてました。アーもういい加減にしてくれ!!(笑)

それとこの回、映画版ではおなじみ南原清隆演じる星野君がチョイ役で出てたらしいんですが、何故かDVDではカットされてます。映画ファンとしてはかなり嬉しいリップサービスだったようなのになんで切ってしまったんでしょう。リアルタイムでは見てないので今となっては幻のシーンです。

唯一この回で楽しめたのは、黄金劇場でマイクがバイトするシーン。この古びたストリップ小屋は黄金町駅付近にあり京急からネオンサインがよく見えるので、ここを利用している地元民は少なからず見たことあるんじゃないですかね。あ、ネオンの事ですけど。私も強く印象に残ってますけど、まだ入った経験はありません(笑)

後、謎のカウガールが出現した、女性の絵が描いてある壁は伊勢佐木モールの裏にある福富町、老舗のグラタン専門店「ローザ」がかつてあった場所です。これは有名かな。なので少し邪道?


「名前のない森」
この回は色々物議を醸しそうな話ですね。演出や撮り方は前回ほど奇をてらった物ではないものの、監督の芸術性というか、文学的な香りが際だっていた回でした。何よりストーリーは極めて難解であり、説明不足のきらいも相まって一度見ただけでは何の事やらサッパリな展開に終始しています。監督は小説「ユリイカ」が有名な青山真治。
娘を連れ戻して欲しいという依頼を受けて、とある森の中の施設に潜入捜査するマイク。しかしそこは何とも異様な雰囲気でただならぬ気配が。自分探しという名目のこの施設に一体どんな秘密が隠されているのか・・・。

うーんでもやっぱり分かりにくい物語です。明らかに結末を明確にはしていないですし、おかげで最後にマイクの心情に何があったのかもよく分からずじまい。先生というあの存在も目的がイマイチ謎ですし、「マイクそっくりの木」というくだりもどこまで事実なのかハッキリせずモヤモヤします。あれは一体どんな意味が込められているのか。先生の存在自体も虚構とも幽霊とも思えるあいまいさに溢れていて、全体が霧のようでぼやけたままです。とにかく濱マイクシリーズの中でも一番の問題作と言っていいかもしれません。

マイクが単独で捜査する話なのでレギュラーメンバーも殆ど登場しないため、ストーリーの不気味さに一役買っているような気はしました。そんな中で唯一金融の山本が登場するシーンではちょっとホッとしましたね。しかしこの人何だかんだで毎回出てますね。第一話ではただの使い捨てのザコキャラみたいに見えたんですけど、今回ほど頼もしく見えた回はありませんでした(笑)。

単体の作品としてみれば、森や人物との不気味な関係や、構成など極めて映画的で見応えはあり、かなり尾を引く作品と思いますが、まあこれを「濱マイク」でやる必要がはたしてあるのかという疑問は出てしまいますよね。失敗とまでは言わないけど、本当に各監督、自由に作ってるなあ、という気はしました。そういう意味では、本当にこのTVシリーズは監督によって潔いほどカラーが全く違いますね。
今回は舞台が横浜ではないので、殆ど馴染みの場所が映らずションボリ。そういう観点からするとやっぱりこの回はあんまり楽しめませんでしたね。


「私生活」
前回のシリアス&ミステリーな話からまた一転、ちょっとすっとぼけたいつもの調子のマイク像が光る回。しかしこうも毎回ガラリと雰囲気が変わって視聴者ついていけたのか心配ですね.ああ、ついて行けなかったから視聴率悪かったのか。
今回は情報屋のサキをメインに据えたストーリーで、彼女が抱えている問題が浮き彫りに。マイクの元に浮気調査の依頼が舞い込むものの、この依頼主の男はサキの関わった事件と大きな繋がりを持っていたのだった。

今回は俳優業の方が有名な岩松了が監督。彼の撮り方は別に奇をてらってないので本シリーズでは全然分かりやすい部類に入るでしょう。いつものマイク節が戻ってきたという感じ。それにしてもマイクは人探しは得意だけど尾行は苦手そう。いやいやそんなやり方じゃ普通絶対バレるって(笑)。
ただし物語の顛末や、結局何が言いたかったのか、については少々分かりにくい部分が多かったです。ラストは唐突だったし、最後のサキの行動も、理由はなんとなく解るけどイマイチスッキリしないというか、それがハッキリ分かる前にスパッと切られてしまった感。病院で治療中の浩継さん、最後の方でサキさんと外に出てますけど、これ事実なのかどうかが疑わしいので謎。まあともかく複雑な人間模様を描いてますね。今回ばかりはマイクは傍観というか道化に終始してしまったかな。

そういえばサキ役のキョンキョンはこの当時永P氏とまだ夫婦だったはずで、共演が話題になってましたね。今となっては結構見るの複雑な気分ですけど・・・。

今回も黄金町付近の場所があんまり出て来ないので少々寂しい。映ってる病院が近所にある市立大学附属市民総合医療センターだという噂があるんですが、確かに窓から見える風景は似てるような気もするし違うような気もするし。まあ病院の風景なんて別に横浜じゃなくったっていいんですけどね。



「時よ止まれ、君は美しい」
あれ、急に漫画? というのが第一印象な今回(笑)。しかし難解なストーリーが続いていたので、アクション性が高くエンターテインメントに徹した演出は素直に見やすく、受け入れ易かったのではないでしょうか。とにかく話の規模も無駄にデカイし、乱闘シーンや銃撃戦も含んだアクション映画並みの展開です。

世間ではYESというネットゲームが大流行し、それにハマって廃人なった人々が集まって結成されたカルト集団グラン・クルスの規模が拡大し問題となっていた。そこから逃げ出してきた女をひょんな事から助けるマイクだったが、その女性は昔一度会った事があり、その弟はYESを世に出した天才プログラマー、グラン・クルスのカリスマだった。彼女は一体グラン・クルスから何を盗み出してきたのか・・・。巨大な勢力や謎のコスプレ軍団に追われるハメになったマイクの運命は・・。


まああらすじを読んでも分かると思いますが、人々を飲み込んだネットゲームにカルト集団、逃げる女、それを追う謎のコスプレ軍団に天才プログラマー・・・と、もうほとんど漫画みたいな展開です。でもテンポ良く話は進むし、展開も極めて分かりやすいので、受けは良い話かもしれませんね。
私個人としては、日本の大作映画の脚本がやらかしそうなデフォルメ展開だなーとちょっと辟易した感もあるんですが(笑)、事件に巻き込まれ窮地に追い込まれつつも自分のポリシーを曲げず突っ走るが、結局何も出来なくて・・・という映画版のマイクを髣髴とさせる話なんですよね。結末もうまくまとまってましたし。

プログラマーの弟とマイクが対峙するシーンは良かったですね。同じ境遇に居た2人なのに、片方は仮想の理想世界に逃げ込み、かたやもう片方は何度も挫折を味わいながらも逃げずにぶつかっていく人生を選んだ。結果片方は巨大な富と孤独、もう片方はギリギリの生活とかけがえのない仲間と居場所を得た。どっちがいいとか一概には言えないけど、マイクはマイクの生き方しか出来ないし、その不器用さが彼の力であり魅力なんだなーと気付かせてくれる良いシーンです。


監督は狂い咲きサンダーロードや五条霊戦記の石井聡互監督。確かにこの監督らしい荒々しい展開でしたね。そういえばこの監督はよく永瀬正敏を起用してますが、「ELECTRIC DRAGON 80000V」は見た事ある。永瀬さんは半お面をかぶった不思議な敵役をやってたなあ。

しかし今回はアクションシーンが多いせいか廃墟とか地下道とか野原とか、横浜もへったくれもない場所が多くてその点ではやはり面白くない。実際話の規模も横浜という土地柄の範疇越えちゃってるし、グラン・クルスの施設だって完全に合成だしなあ。惜しい、これで横浜の風景と密着してればお気に入りの回になったかもしれないのに残念。


「ミスター・ニッポン 21世紀の男」
前回に続いてエンタメ色の強い痛快な話が続きます。今回も負けず劣らずブッ飛んでる。ある意味ハチャメチャな内容です。それをスピーディなテンポで押し切った感じ。
「時よ止まれ〜」が漫画的大作映画系だったとするなら、こちらはもっと大人向けの深夜にやってそうなコメディドラマのノリ。しかしそれにしては画面構成や色彩は無茶苦茶凝っていて、カラフルな色調が目に焼き付きます。それらのドキツいカラー描写がこの破天荒な物語に実にうまくフィットしています。

とある女子高生から捜査を依頼されるマイク。その彼女が唯一ヒーローと認める「先生」を探し出して欲しいとの事だったが、その先生はとてもヒーローとは思えないド変態男だった。しかし何故かその男を巡って伝説の殺し屋達が付け狙う。マイクはその謎の抗争に巻き込まれていくのだが・・・。
この監督、今や「下妻物語」や「嫌われ松子の一生」で知られる中島哲也監督なんですね。そりゃ構成が見事な訳だ。この荒唐無稽なストーリーをよくぞここまで見事にまとめ上げたもんです。凝ったビジュアルとテンポ良く進むストーリーのサジ加減が絶妙。

しかしまあ、なんと言っても実名で登場する林屋ペー・パー師匠のインパクトが強すぎ。しかも殺し屋ってんだからもう開いた口が塞がらない(笑)。後半ではあの松方弘樹と一騎打ちをするんだからトンでもない展開ですね。ちょっとウケ狙いにしか思えない感はあるけど、深夜ドラマのノリならまあアリか。実際に放映してたの10時台だったけど(爆)。

とまあ話はムチャクチャだけど、その割には筋が通っているストーリーで最後まで楽しく見させて貰いました。それにしても先生役が勝村政信とは中々気付かなかった。役者ってスゲー(笑)。
ただまあ、濱マイクシリーズらしいかって言ったら、その辺は全く無い(笑)。シリーズ全体で見ても一番コメディ色が強いと思うし、何より今回はゲスト勢の個性が強すぎるせいでマイクが全然目立っていません。マイクが活躍できないのはいつもの事だけど、それにしてはゲスト出過ぎじゃないかな。濱マイクファンとしては不満に思うことでしょうね。
確かこの回はリアルタイムで後半から見た記憶がある。「濱マイク」ってこんな話だったけ?って呆然としたんじゃなかったけかな(笑)。

ただ横浜地元民としては、今回は馴染みの場所が多少映って嬉しかったです。野毛の近くの都橋付近、川沿いにある都橋商店街は映画のシリーズでも映ったことあるので見たことある方も多いのでは。
また、忠志が屋上で銃を撃つジェスチャーをやってた場所は、例の老舗のゲーセンがある曙町の16号交差点付近。ビリヤードの文字が小さくですが見えました。



「1分間700円」
今度は一転して、極めてシリアスな話。しかし前回のコメディタッチのノリとのギャップが凄すぎて、とても同シリーズとは思えません。何しろ今回はシリーズ中、一番緊張感漂う話だったので。これらが平然と並んでるのが凄い。この落差こそが本作品の魅力であり、特徴ではありますけど、気持ちの整理が中々つかないんじゃないかな。
監督はCMやビデオクリップで手腕を発揮している竹内スグル。撮っている映画の数は少ないですが、これはその数少ない作品のひとつです。

鑑別所時代に世話になった神父がマイクの元を訪ねてくる。彼は山崎という男が気がかりで、マイクに捜査して欲しいと依頼するが、この山崎という男は殺し屋をやっており、殺しの度に自分とのロシアンルーレットを強要する不気味な男だった。彼は証明写真機をざんげ室に見立て、殺しの後で毎回神に問いかける。「私はまだ許されていますか?」と。

浅野忠信との共演が話題を呼んだ本作。映画では何度も共演してますが、何しろ永瀬氏も浅野氏も滅多にテレビドラマに出ないので、異例中の異例でしょう。しかし今回は山崎役の浅野氏の演技が凄すぎる。狂気に満ちた山崎の心情を迫真の演技で再現しています。ていうかその狂気がメチャリアルで本当に怖い。素でやってるんじゃないかと錯覚を覚えるほど。「花」で窪塚洋介が偽マイクを演じてたけど、あのキレた演技が完全に嘘に見えてくる(笑)。

今回はあえて音楽は殆ど使用されず、まれに音響的なサウンドが添えられるだけです。しかしそれは極めて効果的で、この緊張感を極限にまで高めています。映像も凝っており、静かに、そして丁寧にこの物語を彩っていきます。
個人的にかなり気に入ってる回です。映像の見せ方、雰囲気、構成がどれも素晴らしい。正直話はメチャメチャ重くて見てるのが辛いのだけれども、常人には覗い知ることの出来ない若者の狂気を、切り刻んだような荒いカット映像で見せていく手法はグイグイ引き込まれる魅力があります。
全体の映像が古い映画フィルムのようなざらつきを持っており、奇しくも映画シリーズのような古風な雰囲気があるので、映画版のファンはこの回が一番画的にしっくりくるかもしれませんね。ストーリーも極めてハードボイルドですし。

しかし、オチも含めて解決したのかしなかったのかよく分からないまま終わってしまうので、かなり消化不良に思う人は多いでしょうね。まあ展開的にどうしたって普通の終わり方は出来ない事は分かりますから仕方ない感はあります。
ただ今回もマイクは何も出来ない役回り。彼の存在意義が薄く、物語にあまり貢献していないのは唯一の不満かも。まあ何でも強引に突っ走る事が取り柄のマイクにとっては、あまりに繊細過ぎて手に負えない相手ではありましたけどね。だから山崎との対峙シーンはかなり緊張感漂う場面で凄い見せ場ではありました。

話のラストで山崎が証明写真機から走り去るシーンがありますけど、これは私にとっては非常に見慣れた背景です。横浜地元民なら一度は見たことあるし通った事もあるんじゃないですかね。横浜駅西口のすぐ側にあるヨドバシカメラの脇に置いてある証明写真機です。ここは隣に大きなレンタルビデオ店もあるし、ビブレや東急ハンズへ通じる通りへ出るために良く使っていた道なので、私も嫌って程見てます。
今はこの位置に証明写真機は置いてませんが、雰囲気は当時と殆ど変わっていません。

この回は確か全部では無いけど後半部分は確かリアルタイムでみていたハズ。でもラストシーンしか覚えてなかったので多分本腰では見てなかったのかな。


「女と男 男と女」
今回監督を務めるのはなんとアレックス・コックス。「レポマン」「シド・アンド・ナンシー」でカルト的な人気を誇る個性派監督です。アレックス監督は一度永瀬正敏を起用した事があるのでその繋がりでしょうか。彼の映画は「レポマン」を見たことがありますけど、独特でパンキッシュな世界観を得意とする人ですね。この人がメガホンを握ったら絶対マトモな作品になるわけ無いと思ったけど、案の定極めて独特な話になりました。
暴力団に襲撃を受けるマイク。しかしその危機を救ったのは昔なじみの元殺し屋、カラスだった。そんな折、ノブさんが例の暴力団に拉致されてしまう。マイクはノブさんを助けるためにアジトを捜すのだが・・・。

映像自体は別に凝った撮り方はしてないけど話は完全にファンタジーです。明らかにマカロニ・ウェスタンをやりたかったと言うのは明白なので、それは良いとしても、まあ日本国内でこうドンパチはあり得ませんわな。しかも銃武装した暴力団は完全に西部劇を思わせる独特なファッション。ちょいと時計仕掛けのオレンジを髣髴とさせます。無論こんな連中は日本、というか世界にもいないでしょう(笑)。
それに対するはカラスこと田口トモロヲ。意外に様になってる。不気味な敵のボスを塚本晋也監督が演じているので、この2人の対決も見物です。こういう変な役、塚本監督は似合うなあ。

ともかく西部劇がベースで他は特に何もないので、結構話は薄っぺらいです。敵が何であんな格好していてやたらと好戦的なのかは特に理由なんて無いですし、何でマイクが巻き込まれたのかも説明なんてありません。そういう意味では全く中身が無いと言えなくもないけど、アレックス監督らしい世界観だわなーとは思います。そこを理解して楽しむのならば、結構アリなんじゃないでしょうか。何しろ横浜で西部劇なんてそんな画、これくらいのもんでしょう。

今回みるくの日常がようやく明かされて彼女の過去が紐解かれますが、唯一そこだけはちょっとグッときます。みるくって本当不思議なキャラクターですよね。市川実和子の存在感も大きいんですけど個人的にも凄い面白いキャラクターなんでその一面がようやく垣間見れて興味深かったです。

マイクとカラスが会うシーンでまたもや都橋商店街が出ていますが、これは2階のスナックが並ぶ有名な場所ですね。川沿いにスナックのネオンが密集する異様な絵は見たことある方も多いでしょう。やはり外国人としてはこのポイントは見逃せなかったかのかな。


「ビターズ・エンド」
テレビシリーズ最終回。監督は俳優としても活躍している利重剛。何か大きな秘密でも解き明かされるのかとも思いましたがそんな事もなく、まあある意味濱マイクシリーズらしい、普通に終わっていく感じでしたね。今回は何年も行方をくらましていたマイクの親友「B」が横浜に舞い戻ってくる話。マイクと違って未だ汚い仕事を続けている「B」はすぐに殺人を犯しかねない危険人物。取引を邪魔した相手が許せないBをなんとかなだめすかして事態を収拾しようとするマイクだったが、Bはそれを素直に待ってくれるのか・・・。

ラストで初めて至極普通のTVドラマの話に落ち着いたなあ、という感じ。最後を飾らなきゃならないし話をまとめなきゃいけない訳で、そんなに冒険も出来なかったでしょうが、ラストにしてはちょっとこじんまりとし過ぎた感もありますね。まあ他の監督作品が本当に自由奔放に撮っていた訳ですから、そういうのと比べるのは酷かもしれませんけど。

友人との絆、兄弟愛がテーマで、これは映画版でも扱われたテーマですし、他の監督作品でもしばしば描かれていますので今更感は否めないのですけど、相手を信じる事、というのがひとつのキーワードになっており、そこはちゃんと伝わったかな、と思います。話自体は分かりやすいしマイクとBの関係も切ないので良い話だと思うし、マイクの妹とBの妹での差は残酷だけど、それはやはり兄貴の生き方の違いによって生まれた結果な訳だから、そこの落差をちゃんと描いてくれて良かったと思いますね。

それにしても「B」役のSION、凄い存在感ですね。元々ミュージシャンであり俳優業はメインではないそうですが、もの凄い貫禄なのに行動は子供のままという不思議な役を見事に演じきっています。というか彼をどうしても出したくてそのために脚本を書いたらしいので、普段からあんな不思議なオーラを出している人なんでしょう。にしても永瀬正敏と互角に張り合ってました。

ちなみにヨシオの女が逃げていた橋はこれまた都橋商店街の側にある宮川橋。ここは伊勢佐木町から桜木町へ向かうルートとして、私が良く自転車で通っていた場所です。
んー今回はそんくらいですかね、最後にしてはイマイチ写りは多くなかった。

それと、今回日劇支配人の福寿さんがエキストラでちょっと登場しています。これは中々嬉しいサービス。福寿さんは今回のシリーズでも特別協力者として名を連ねていますね。


今回改めてテレビシリーズ版を見直してみて、色々スケジュール的な問題もあってか、映画版と比べ地域密着度が薄れてしまっていた感は否めませんでした。自分の記憶では凄く横浜のイメージが鮮烈に残ってたんですけど、後に見た映画版の方がよりその感覚が強かったため、ちょっとハードルが上がっちゃってたのかな。まあそれでも殆ど横浜市内でロケをされてますし、馴染みの場所も多く映り込むので、横浜地元民としてはハズせないシリーズのひとつには違いないでしょう。そもそも黄金町なんて近所の小さな街が全国ネットで流れたって事実は割と地元民的に大事件なんですよね。

それとTVシリーズ版は前代未聞の超個性派監督12人による作品という事で、映画陣、役者陣からは注目されていた作品なんだな、という感は受けました。DVD特典のメイキングで田中要次さんはチョイ役でもシリーズに出演出来たことが嬉しそうでしたし、塚本晋也監督は作品に出ると生で番組が見れなくなるから本末転倒、なんてな話をしてました。特にこれは映画撮ってる人達が注目せざるを得ない気持ちになるのは解るような気がします。ここまで撮る人によって出来る作品に違いが出るというのは、分かっていても極めて興味深い事実ですし。

ただ元々の映画版濱マイクシリーズの作風からして極めてマニアックだった事から、TVシリーズもあまり一般ウケしそうにないストーリーが大半を占めてしまったのは痛かったでしょう。「ただオサレなだけの作品」と揶揄されてしまったのは勿体ない。私はそこまで中身の無い作品だとは思ってないし、各監督の個性が見れて楽しかったし、作品性を重視しここまで自由に作られた作品は貴重でしょう。



ただ、もうあれから10年近くが経とうとしており、その舞台だった横浜日劇は取り壊されて今やマンションが建っちゃってますし、他の幾つかのロケ地も様変わりした箇所も少なくありません。 正直色々まとめ書く時期が遅くなりすぎた感がある。それが結構悔いですね。

日劇が無くなってしまった今となっては濱マイクシリーズの続編が作られることはもう永遠に無いでしょう。そういう意味では本当に地域に密着した映画だったと言えるかもしれません。地元で無くなれば映画でも無くなる。でも寂しいですね。私もかつて馬車道の横浜東宝会館という老舗の映画館でアルバイトしていた事があったけど、ココもシネマコンプレックス登場のあおりを受けて閉館に追い込まれており、長い歴史に終止符が打たれてしまった。
街が新しくなっていくことは決して悪いことでは無いけど、馴染みの場所が消える切なさを感じる事は、逆説的に地元の人間の持つ特権と言えるのでしょうか。