ニューハーフヘルス


太田穂(みのる)は専門学校で知り合った友人の北島真二と新宿の待ちを歩い
ていた。二人で歩いていると一見恋人同士のように見えないでもなかった。
と言うのも、穂は165cmと身長が低い上に艶やかなロングヘアーをしていた
のだ。

中学、高校時代は規律の厳しい学校に通っていた為、髪や服装に対する欲求不
満が溜まっていた。その為か穂は東京に出て専門学校に通い出すやいなや髪の
毛を伸ばしだしたのである。

「さて、この辺りで別れようか」
「あぁ」

真二は気の無い返事をしたが、片手を上げて別れの合図をするとそのまま歩い
ていった。穂はその場に立ち止まると歩行者天国を道ゆく女性を物色しだした
のである。

数日前から二人はプロダクションの名刺を片手にスカウトマンのアルバイトを
始めたのであった。もっともプロダクションと言っても名ばかりで風俗で働く
女性を勧誘する怪しげな仕事なのである。スカウトした女性がどこでどのよう
な仕事をさせられているのかバイトの穂には判らなかったが一人スカウトする
と二万円が貰えるのである。完全な歩合制の為、一人もスカウト出来ないとま
ったく報酬も無しである。

穂はここ一週間の間に5人の女性をスカウトしていたが友人の真二は一人もゲ
ット出来ていなかったのである。

行き交う女性を眺めていた穂が突然足早に動いた。

「あの・・すみません」

女の子が振り向いて足を止めた。
どうみても風俗で働く女性を勧誘しているとは思えない風貌の穂が声を掛ける
ので、殆どの女の子は足を止めてくれるのだ。
それに比べ真二の場合は殆どの人が足を止めようともしないのである。

「なんでしょうか?」
好意的な目で穂を見る。
「あの・・こう言うものですが・・・」

申し訳なさそうに用意されていた名刺を渡す。女の子も気弱そうな穂から名刺
を受け取るのである。

「GirlsStaffプロダクション??」
「はい、女性の隠れた才能を引き出す仕事を紹介する会社です」
「へぇ〜」
「今の仕事に満足していますか?あなたの才能を十分生かせていますか?」
「・・・・」
「今のお仕事を続けながらアルバイトとして出来るお仕事も紹介しています」

女の子がその気になって来て事務所で細かい話しをと連れ込めればゲットの確
率はパチンコの確率変動モードとなったように上がるのである。

今日も穂は一人の女の子を勧誘したのである。行き先はSMクラブであった。
穂には女の子が警戒心を起こさせない何かがあるのであろうか、友達のように
話し始めると、相手が何に興味を持っているか穂にはわかって来るのだ。今日
の娘の場合はマゾの気があり、SMの話しを持ち出したのである。

もちろん、女の子にすれば穂との会話で一種の催眠状態に掛けられた状態であ
り目が覚めないうちに実績を作ってしまうのである。1時間前にOKをした女
の子は今頃、勤め先のクラブで衣装を充てがえられ仕事の為の教育を受けてい
るはずだった。



翌日は穂、一人で新宿に向かっていた。昨日も一人もゲット出来なかった真二
は才能の無さに見切りをつけて他のバイトを探し出したのである。

いつものように事務所に顔を出すとフロアーの中に緊張感が溢れていた。
明らかに暴力団と思われる男達が5、6人で社長を取り囲んでいるのである。
そして男達の向こうに見覚えのある女の子が一人立っていた。

「あっ、あの人よ」
女の子が穂に気が付くと彼を指差したのである。男達の顔が一斉に入り口の所
に立っていた穂に向けられた。少し後づ去りする穂をみると、2、3人の男が
勢いよく机を飛び越え穂に突進して来たのである。

「なにをするんですか!」
両脇を抱えられ穂は社長の前までひきづられたて行ったのである。

「こいつですか?」
「えぇ、間違え無いわ」

答えた女の子は穂が初めてゲットした女の子であった。彼は何があったのか理
解出来なかったがどうみても風体の悪い男達は穂に好意的ではないようである。

「すみません。住悪連合の関係者だとは知らなかったもので・・・」
社長の顔は真っ青になっていた。

「すみませんで済むと思っているのかぁ?」
「いえ。この償いはなんなりと・・・はい」
「お金なんかじゃ、済まないわよ。私は一週間も監禁されて屈辱的なことを
  させられたんだから」
「はい、申し訳ありません」

穂のゲットした女の子は暴力団関係者の女性だったようだった。監禁状態で奉
仕させられた女の子はやっとの思いで抜け出し組みに駆け込んだのであろう。
風俗店の方も別の暴力団の保護は受けているハズだがこうしてこの会社にも出
張って来たところをみると、目の前にいる組の方が力が強いことは穂にも想像
できた。

「取りあえず、今後はこんなことの無いように、家の組でしっかり管理してや
  るから。わかったな」
「はい」

暴力団は上納金を納めるように言っているのである。

「今回の落とし前だが・・・二人に指でも詰めて貰おうか」
「そんなぁ」
黙っていた穂であるが思わず声を出した。
「なに?不服だっていうのか!」
「だって・・僕は単なるバイトで・・・」
「だからなんだぁ?てめぇの為にお嬢さんは辛い目にあったんだぞ」
「それは申し訳なかったですが・・・僕は知らなかったんです」
「なにぃ?知らないで斡旋したのか!?・・それは無責任ってやつだぜ」
「・・・・・」
「私も指なんてつめてもらっても仕方ないわ」
「お嬢さん・・・そんな甘いこと言っちゃ。示しがつきません」
「それよりも・・同じ目にあってもらった方が気分がスッキリするわ」
「といいますと?」
女の子と恐い男はヒソヒソ話しを始めた。
「わはぁはははは、そりゃいい」
「・・・・・」

穂には何を言っているのかわからなかった。
「同じって・・・」
「うん?指を詰める方がいいか?」
「いいえ」
「よし、一緒に来て貰おうか」

穂は黒い大きな車の後部座席に押し込められ事務所を連れ出されてしまったの
であった。



「すみません・・・僕はどこに連れて行かれるんですか?」
「着けばわかる」
貫禄のある暴力団の男が答えた。
「私と同じ目にあってもらうのよ」
「同じ目って・・・僕は男だから・・・」
「そんなこと心配しなくても良いわ」
「まさか・・SMクラブかなんかで・・・降ろして下さい!」

穂は女の子の向こう側にある車のドアを開けようとした。
「きゃ・・やめて!」
「おい、何をする!!」

穂の顔面に男のパンチが入った。
「うぅ・・・」
「大丈夫よ。SMクラブなんて連れていかないから。笑」
「じゃ・・どこに」
「とにかく医者に行きましょう」
「大丈夫です。大したことないですから・・降ろして下さい」

穂の唇からは血が流れていた。
車の中では一斉に笑い声が起こっていた。

助手席の男が何やら携帯電話で話しをしていた。どうやら病院の予約をしてい
るようなのである。30分も車に乗っていただろうか、車が止まったところは
病院の前であった。

「ほんとうに大丈夫です」
「うるせぃ。黙って付いて来い」

「この人ですか?」
「あぁ」
「なるほど・・・」
白衣を着た医者は穂の身体を視線で嘗め回した。

「準備は出来ています。こちらに来て下さい」
「たいしたことないんです」
医者は穂の言葉を無視するように歩き出した。若い男に背中を押され穂も後に
続いたのである。

先生の入って行ったところは手術室であったのだ。
「準備は出来ているかね?」
「はい」
待ち構えていた看護婦が答えた。
「なんなんですか?ここは・・」
「上半身の衣類を全て脱いでそこのベットに仰向けになって」

穂が呆然としていると、男達が近づいて来た。
「先生の言ったことが聞こえなかったのか?早くしろ」
「・・・・・」
「手伝おうか?」
「いえ、自分で脱ぎます」

穂はどうにでもなれという気分になっていたのである。上半身の衣類を全て脱
ぎ終わると言われる通りベットの上で横になったのである。

「麻酔をするから手を出して」
「なにをするんですか?」
「豊胸術だよ」
「えっ??」

そばにいた女の子が続けて言った。
「あなたにはニューハーフヘルスで働いてもらうの、バストくらい大きくして
  おかないとニューハーフにならないでじょ?」
「そんな!馬鹿な!!」
「大丈夫よ。玉と竿はちゃんと残しておいてあげるから」
「心配しなくても簡単な手術だから安心しなさい」

穂はベットから起き上がり逃げようとしたが看護婦や若い男達に取り押さえら
れ麻酔を掛けられてしまったのである。穂は薄れる記憶の中で先生の持つメス
が近づいて来るのを見た。

実際、手術は一時間もかからないで終わった、脇の下をしわに沿って2cm程
切り、そこからシリコン制の生理食塩水を挿入したのである。