臨床実験 prologue


僕がこの部屋に監禁されてからどれだけの月日が経ったのだろうか。薄いピン
クで統一された部屋の中央には比較的大きな白いベットが主のように居座って
いる。一つだけある窓には鉄格子が嵌められ、そこから脱出することは出来そ
うになかった。もっとも、天井の隅に備え付けられた監視カメラが四六時中、
全裸の僕を監視しているのだ。

数ヶ月もの間、この格好で生活している僕は全裸にはすっかり慣れてしまった
が、著しい身体の変化は僕を不安に駆立てていた。

僕は以前から男性として色の白い方だったが、今は透き通るような白い肌にな
っているのだ。狭い部屋に閉じ込められ筋肉を使わないからだろうか腕もすっ
かり細くなってしまっている。しかし、それでいて全体は丸みを帯びた柔らか
い身体へと変貌しているのである。もっとも胸の膨らみと骨盤の広がりがそう
感じさせているのかも知れない。

ここ数日、新たな変化が始まった。身長が明らかに縮んでいるようなのだ。正
確に何cm縮んだかは解らないが、少なくとも監禁された当初は手の届いた窓の
カーテンレールにも背伸びをして、やっと手の届く状態となってしまったのだ。




6ヶ月前・・・・

僕は大学入試に失敗し花の浪人生として北海道から東京に上京していた。
昨年、両親と死に別れた僕はひとり親戚の家に預けられていた。しかし、居心
地は当然のこと良くはなく、大学には落ちてしまったものの予備校に通うと言
う名目で上京、一人暮らしをはじめたのだった。もちろん自分勝手に上京した
のだから親戚からの送金は殆ど期待出来るはずもなく。僕はアルバイトを生活
の糧としていた。

しかし、長引く不況は弱者である僕たちバイト学生を真っ先に地獄へと突き落
とした。今日の食べ物にも困ってしまった僕はすぐに次のバイト口を探したの
だったが、この不景気に条件の良いアルバイトなんてあるはずが無かった。
その時、目に入ったのがホストクラブの募集広告だったのである。容姿には少
し自信があった僕は求人広告を片手に新宿のお店に出かけたのだった。

「君の身長はいくつかな?」
「165cmです」
「そうだろうね・・・もう少し身長があれば採用してもよかったんだが」
「駄目ですか?」
「残念だけど・・それに君のマスクは女顔だな。最近はワイルドな方が人気あ
  るんだよ」
「・・・・・・」

田舎では女の子に人気のあった僕は少しショックを受けてしまった。

「どちらかと言うとニューハーフ系のお店の方が良いんじゃないか?」
「そんな・・・僕にはそんな趣味ありません」
「もっとも、そっち系のお店も最近は不況だから募集は控えてるみたいだな」
「・・・・・・そうですか」
「悪いね。他を当たってくれるかな」
「そうですか・・・失礼しました」

僕が雇ってもらうことを諦めて席を立とうとすると店長は思い出したように話
しを続けたのだった。

「あっ・・・そうだ・・・」
「はい?」
「このお店に来るお客さんなんだがね」
「・・・」
「女医さんなんだが・・30歳を少し回ったくらいの美人でね」
「その女医さんが?」
「アルバイトを探していたな」
「??なんのバイトですか?」
「なんだか新しい薬の実験台らしいんだが、良いお金になるらしいぞ」

僕も話しだけは聞いたことがあった。新薬を開発した時、最終段階で人間を使
った臨床実験をする為、アルバイトの人間をよく使うらしいのである。店長の
話しはきっとこの事に違いないと確信していた。

「長期のバイトにはならないと思うが、その気があるなら連絡先を教えてあげ
  ようか?」
「はい、是非」

僕はワラをも掴む思いで教えられた番号に電話を掛けたのだった。




そこはテレビCMでも良く見かける有名な薬剤メーカーだった。待合室で30
分も待たされただろうか、しばらくすると白衣を着た女性が僕の前に現れた。
吸い込まれそう大きな目が印象的で薄い唇が知的な雰囲気を漂わせている。

「電話を頂いた篠原さん?」
「はい」
「じゃ、こっちに来て」

ホストクラブの店長さんが言っていた通りの美人だった。こんな美人がホスト
クラブに行くのか、などと考えながら僕は女医さんの後に続いた。

「どうぞ入って」
「はい」

僕と美人の女医さんは診察室に入った。
「そこの椅子に掛けて」
「はい」
「私は伊藤です。篠原さんは臨床テストへの協力者と考えていいのかしら?」
「はい・・でも、内容や条件を確認してから・・・・」
「もちろんよ。笑」

伊藤と名乗った女医さんの言うには、新しいタイプのバイアグラのようなもの
を開発したらしく、すでに50名の臨床実験で80%の人が性的能力を回復し
たとの事だった。

「でも、性的能力保有者が服用した場合のテストはまだなの」
「そうなんですか」
「あなた生殖能力はあるわね」
「・・と思いますが・・・・」
「報酬は12万円。本日、薬を投与しますから6ヶ月間、月に一度検査に通院
  して下さい。性交は駄目!我慢出来ますか?」
「はい」
「じゃ、これを良く読んで、ここにサインをして下さい」

僕は急かされるように渡された用紙にサインをして女医さに返した。

「OK、薬を投与する前にあなたが健康な状態かどうか検査をさせてね」

身長、体重、血液検査や尿検査、心電図やレントゲンなど一通りの検査が手際
良く進められた。

「これに精液を取って下さい」
「・・・・ここでですか?」
「なに言ってるの、トイレで出して来てください」
「あっ・・はい」
「私が出してあげましょうか?」
「えっ?」
「冗談よ。早く取って来て」

検査結果が出るまで二時間も待たされただろうか、あたりはすっかり暗くなっ
てしまったのである。

「篠原さん、お待たせ。」
「あっ、検査結果・・どうでした?」
「健康そのもの。どこにも異常はないわ」
「よかった」
「じゃ、薬を投与しますので診察室に戻りましょう」
「はい」

「そこに座って、腕まくりをして下さい」

そう言いながら女医さんはガラス貼りの薬ケースから番号の付いた薬を取り出
したと思うと用意していた注射器でその液体を吸い取った。透明な注射器の中
に液体が入ると注射器は紫色に変わっていた。

「少し痛いけど我慢してね」
「はい」

思ったほど痛くは無かった。しかし、紫の液体が自分の体の中に入ることへの
恐怖が僕の顔を引きつらせていたのである。

「どう?気分、悪いかしら?」
「いえ、特に・・・問題ありません」
「そう?それじゃ、そちらのベットでしばらく横になっていてね」
「はい」

言われるままに僕はベットの上で仰向けになった。そして・・いつのまにか寝
てしまったのだった。




気が付くと僕の目の前には異常な光景が広がっていた。僕はベットの横に立ち
尽くし、女医さんはベットに横たわっていたのである。しかも、白衣は床に脱
ぎ捨てられ、白衣の下に着ていた女医さんの衣服はズタズタに切り裂かれてい
るのである。しかも、豊満なバストが千切れたブラジャーから飛び出し僕の目
の前で露になっているではないか。スカートも腰までたくしあげられており、
パンストとパンティーが女医さんの足首に絡み付いていた。

「これは・・・・いったい・・・」
「正気に戻ったようね」

女医さんは自分の頬を伝う涙を拭うとベットから起き上がった。彼女の陰部は
流血で朱に染まり太股へと流れていた。

「なにがあったんですか?」

僕は何も覚えていなかったのである。女医さんは自分の陰部に脱脂綿を当て止
血をしていた。

「あなたも早くパンツとズボンを穿きなさい」
彼女に言われて初めて自分が下半身丸出しになっていることに気がついたので
ある。その上、僕のペニスは固くそそり立っているではないか。

「もしかして・・・僕が・・・・」
「そうよ。突然、あなたは私を襲ってきたの。そして強引に私を・・・・」
「そんな!僕はなにも覚えていません」
「意識があったら犯罪だわ」
「すみません」

「・・・・・」
「僕はどうなってしまったんですか?」
「わからないわ。たぶん薬の副作用だと思うけど」

「たぶん?そんなんじゃ困るんだよ!」
自分でも驚くような乱暴な言葉を発していた。
「そう言われても・・・・検査をしてみないと」

僕の中で何かが再び動き出していたのである。
「その前に女医さんのアソコを僕が検査してあげるよ・・・・・」
「どうしたの?篠原さん!」
「血が出ているじゃないか・・・見せてごらん」


「なにするの?離しなさい」
「静かにしろよ」

僕は女医さんの首を締めていた。

「やめ・・・て・・・」
「しかたないよ。薬の副作用なんだ」
「う・・そ・・」

彼女は全身から力が抜けたように、その場にしゃがみ込んでしまった。僕は近
くにあった包帯を彼女の首に巻くと再び立ったまま彼女の首を締め上げたので
ある。彼女は苦しさから逃れようと再び顔を上げた。

「ほう、そんなに僕のペニスがほしいのか?」
「うぐぅ」

彼女が僕のペニスの前に顔をあげた時、少し締め上げる手の力を緩めた。
「早く咥えろよ」
「・・・・・・」

僕は再び包帯を持つ手に力を入れた。彼女は急いで僕のペニスを咥えたのであ
る。

「うぐぅぅ」
「上手じゃないか。笑」

彼女は僕の命令通り、舌を使って僕のペニスを愛撫しだしたのである。

「おぉぉ」

ペニスをしゃぶる音が僕の耳にも届く。彼女は懸命に僕のペニスに奉仕し続け
た。そして・・・僕の全身から力が抜けて行った。彼女の可愛い唇からは白い
液体が溢れていた。

「・・・・・」
「どう?正気に戻った?」
「あっ・・はい」

僕が正気に戻ったのを察すると彼女は素早く注射器を取り出し僕に近づいて来
た。

「早く、腕を捲くって」
「なんですか?それ・・・」
「説明は後よ。早く」
僕は言われるままに腕まくりをした。一瞬、注射器の痛みが僕の腕に走った。

「大丈夫?」
「はい」

あれから10分を経過しているが、先程のような性欲は沸いて来なかったので
ある。

「治まったみたいです。さっきの注射は何だったんですか?」
「あれはペラニンデポー・プロギノンデポーという卵胞ホルモン製剤よ」
「なんですか?その・・・ペラ・・・」
「ペラニンデポー・プロギノンデポー。一種の女性ホルモン」

彼女の言うには新薬で過剰となった男性ホルモンを中和させる為に、女性ホル
モンを投与したとのことであった。副作用の抑制にどこまで効果があるかは定
かで無いらしいが今のところ効果はあるようであった。

「とにかく篠原さんに理性が残っているうちに拘束衣を着て頂くわ。いいでし
  ょ?」
「・・・はい」

僕は頷くしかなかったのである。ひとつ間違えると僕は殺人者にもなり兼ねな
いと考えたのである。一度目はすっかり記憶が欠如していただが、先程の事は
鮮明に覚えているのである。分かっていても自分の行動を止めることが出来な
かったのだ。




一時間後・・・・・

僕は拘束衣を着せられたまま、伊藤先生の自宅に居た。先生の自宅は東京の郊
外にあり僕から見れば別世界の豪邸であった。再びひとりで玄関まで辿り着け
るかどうか不安なくらいだ。

彼女が言うには会社で事が発覚すると問題になるとのことで、僕達は彼女の家
に移動したのである。僕も彼女に対しては負い目もあったので指示に従うこと
にしたのだ。

通された部屋は中央にベットがあるだけの殺風景な部屋であった。

「この部屋は?」
「以前、精神病の女の子を治療する為に作った部屋なの」
「だから鉄格子が?」
「ええ、自殺も出来ないように安全設計になっているのよ。凶器となるものは
  何もないし、壁も弾力材で出来てるのよ。防音効果もあるわ」
「そうなんですか・・・」

「とりあえず、もう一度検査をさせて」

彼女は再び僕の血液を採取すると部屋から出て行ってしまった。僕は拘束衣の
ままベットに横たわり待つ事にしたのである。

しばらくすると再び彼女が姿を現したが、あきらかに憂鬱な表情をしていた。

「どうでした?」
僕は恐る恐る血液検査の結果を尋ねたのである。

「やっぱりテストステロンと言う男性ホルモンが増加しているわ」
「なんですか?それ」
「副作用が継続しているってこと」
「じゃ、また僕は・・・・・・・」
「そうね。いつ豹変するかわからないわ」
「そんなぁ。なんとかしてください」
「・・・・・・」

「先生!」
「わかったわ、その変わり・・・しばらくここからは出られないわよ」
「はい、外に出て犯罪者にはなりたくないですから」




一週間後・・・・

「どうでした?」

一週間のあいだ僕は女医さんの家から、いや部屋から一歩も出ることを許され
ず治療を受けていた。治療と言っても、朝、昼、晩、そして夜の4回のホルモ
ン摂取と血液の採取だけであるから、いい加減この状況に飽きが来ていたので
ある。

「もう大丈夫なようね」
「じゃ、ここから出れるんですね?いい加減、外の空気を吸いたくって」
「それは駄目かなぁ」
「えっ?どうしてですか?」
「副作用を抑える為に、あなたに投与している薬。これも新薬なのよ」
「新薬?」
「そう、男性ホルモンを抑制して女性ホルモンを自然に発生させる薬」
「どう言うことですか・・」
「これは新薬の臨床実験でもあるのよ」
「そんな!僕はもう降ります。お金もいりませんから・・・帰して下さい」
「大丈夫よ、モルモットやウサギでは雄が完全な雌になったから」
「完全な雌?」
「そう、あなたには完全な女性になって頂くのよ」
「馬鹿な!あなたは狂ったんじゃないですか?」
「やっぱり狂ってるかなぁ?あなたの為に女性としての機能を無くしてしまっ
  たのよ。そのショックで狂ったのかも知れないわね」
「??」
「一週間前、あなたが私を襲った時、私の子宮は使い物にならないモノとなっ
  てしまったのよ。あなたには私の代わりに子供を産める身体になってもらう
  わ」
「僕が女になる?子供を産む?冗談じゃない!この拘束衣を早く外してくれ!」
「嫌なの?女の身体になること」
「当たり前だろ。さぁ早く・・この拘束衣を外してくれ」
「残念だわ」

そう言うと彼女は拘束衣を着た僕の首にピストルのようなもので何かを注入し
た。目の焦点が定まらなくなり僕は自分の意志に反してベットの上に横たわっ
たのである。