臨床実験 Action 1


何時間が経過したのだろうか?もしかしたら数日経過していたのかも知れない。
気が付くと拘束衣は脱がされており全裸でベットの上に寝ていたのだ。

僕はドアを目指してベットから起き上がろうとしたが、その場に倒れ込んでし
まった。全身虚脱感で足に力が入らなかったのである。それでも僕はベットに
手を掛けやっとの思いで立ち上がると、ヨロヨロとドアまで辿り着くことが出
来た。なんと部屋が広く感じたことであろうか。

「くそぅ!」

思ってはいたがドアには鍵が掛かっていた。僕は両手でガチャガチャとノブを
回したり引っ張ったりした。しかし、その扉はピクリとも動かないのである。
握りこぶしでドアを叩いた。

「お〜い!開けろ!!」

弾力性のある材質で作られたドアは叩き付けるこぶしの力を無情にも吸収して
しまうのだ。何回となくドアを殴り付けたが、ついに僕は息を切らせてしまい
その場にへたり込んでしまったのである。

「駄目・・か」

フッと部屋の中央に目をやるとベットの側の床に底の深いお皿が置いてあるで
はないか。

「食べ物?・・・」

きっと数日間は気を失っていたのであろう。空腹感が襲って来たのだ。しかし
僕は立ち上がる事も出来ず四つん這いでそのものに近づくと、それがスープで
あることを知った。近くにはメモ用紙がさり気なく置かれていた。

(このスープには女性になる為の新薬が混入されています。よろしければ、お
  飲みになって下さい)

「そんな・・・・」
「モルモットになるか餓死するかを選べと言うのか?」
「死んでやる」

再び空腹感が僕を襲った。しばらくすると、生きていればなんとかなると考え
るように気持ちも変化してきたのである。

(女になってしまうのがどうだって言うんだ。地球上の半分は女じゃないか)

僕の思考はすっかり空腹感に支配されていたのだ。僕はスープを全て飲み干し
てしまったのである。

少し力が蘇った。スープによって身体が暖まったようだ。しかし、それは大き
な間違えであった。微熱がしばらくすると高熱に変わり全身から汗がほとばし
ったのである。思考力が殆ど停止した頭で僕は今の状況を整理しようと試みた
のだが、何故か目からも汗のような涙が溢れてしまったのだ。

「なんで・・・涙が出てくるんだ?どうしてしまったんだろぅ」

感情が勝手に増幅をはじめたのである。涙が止まらなかった。涙が鼻に伝わり、
いつのまにか啜り泣きに変わってしまっていた。

「女々しいわね」

いつ部屋に入って来たのか女医さんが僕の顔を覗き込んでいた。僕は急いで涙
を拭うとベットの中から彼女を見上げた。

「今頃、隠しても遅いわよ、しっかりと拝見したわ。それにあそこのカメラか
  ら常時監視しているのよ」
彼女の指差す方を見上げると確かに部屋の隅に天井からぶら下がったカメラが
こちらを睨んでいたのです。

「泣いていたでしょ?」
「うるさい!」
「新薬の効果が出て来たようね」
「どう言う意味だよ」
「脳の構造が女性化して来たのね」
「・・・・・」
「この新薬の特徴は脳から変えてしまうことなの、生まれた時はみんな女の脳
  なのよ、アンドロゲンのシャワーによって男性化するんだけど、この薬は変
  化してしまった脳を基の姿に戻す効果があるの」
「・・・・・」
「脳梁ってしってるかな?左右の大脳半球を連絡する2億本もの神経繊維のな
  んだけど、これは視覚情報や言語情報を左右の大脳半球間で交換する繊維が
  通るところなの、この繊維も女性の方がずっと太いのよ。だから女性の場合
  は意識することなく細かいところに目が行き届くの。その代り情報量が多す
  ぎて脳がパニックになることもあるのね」
「・・・・・」
「だから、あなたも理性的な思考から感情的な思考が強くなるのよ。そして、
  男性の時よりもずっと環境にも敏感になるハズ」
「もう・・や・・め・・ろ・・・」
「あなたが好まなくても、脳から女になってしまってるのよ」
「やめてくれ・・こんなこと止めてくれ」

そう言うと同時に僕はドアのところまで走った。彼女が入って来たのだからド
アが開いていると思ったのだった。

「あら、まだ元気なようね。でも・・・ドアは自動ロックよ。笑」
彼女はそう言うとカードキーを僕にちらつかせたのである。僕は駄目だと解っ
ていてもドアを開けようと試みた。しかし、ロックされているドアが開くハズ
が無かった。

「そのキーを貸せ」
「駄目よ」
「じゃ、腕づくでも取る。痛い目を見ないうちにキーを渡せ」
「腕づくね・・・取れるものなら取ってみて」

僕は女医に近づくと衣服を掴んで締め上げようとした。しかし、彼女は僕の手
を取るといともたやすく逆に僕の腕を締め上げたのだ。

「うぅぅ」
「残念ね。握力も落ちてるでしょ。今のあなたに、私を犯した時の筋力は残っ
  て無いのよ」

彼女はベットに僕を押し倒した。振り向くと彼女はカードキーでドアを開けて
部屋から出て行くところであった。




ここに監禁されてから二週間が経過していた。正直、僕にはどれだけの日にち
が経過したのか、すでに判別できなくなっていた。昨日彼女が僕に食事を持っ
て来た時に二週間が経過したことを告げたのである。

数日前から彼女は食事と共に雑誌を差し入れてくれるようになった。女の子が
好んで読む写真の多い雑誌である。恋愛について、お化粧やファッションにつ
いて他愛もない雑誌であるが、暇を持て余していた僕はそれを眺めていた。

以前であれば見る気もしなかった雑誌である。しかし、眺めているだけで、い
つのまにか雑誌の内容を覚えてしまっているのである。いつのまにか奇麗なデ
ザインの服や化粧品を好んで見るようになっている自分がいた。また、雑誌そ
の物も男性雑誌と比べてオシャレで好感がもてるようになっていたのだ。

扉が開いて女医さんが入って来た。

「どう?調子は・・・」
「良いわけないでしょ。ここを出たら警察に訴えるから覚悟しておけよ」
「笑」
「なにがおかしいんだ!」
「だって・・あなた虚勢を張っているようよ」
「うるせい!」
「ほらまた、その言葉使い。無理に乱暴な言葉を使っているでしょ」
「・・・・・」
「そう言う言葉は、実が伴なってはじめて有効に相手を恫喝出来るのよ。今の
  あなたにはその力が無いでしょ?小犬がキャンキャン吠えてるように見える
  わよ」

事実であった。今の僕は筋力が衰え自分の身体を支えることもやっとの状態な
のである。

「それに・・自分でも、言葉使いに違和感を持っているでしょ?もともと、あ
  なたは粗野な方では無いし、薬の効果で脳も変化しているから乱暴な事は好
  まないようになっているハズだわ」
「・・・・・」
「いいわよ、一ヶ月もすると身体的な変化が起きて声質も女の子のものに変わ
  ってしまうから。そうしたら、そんな言葉は似合わなくなるわ」
「声が?変わる?」
「言ったでしょ?あなたは女に生まれ変わるのよ。当然、声も変わるわ」
「・・・・・・・」
「正確に言うと生まれた時の組織に戻りながら女として成長するの。一般的な
  女性ホルモンによる変化と違うのはそこね。体内に子宮も作られるハズよ」
「なんでこんなことをするんだ?」
「もちろん研究の成果を確認したいから・・・」
「それだけの為に僕にこんなことをしているのか?」
「それだけじゃないかな。あなたへの復讐もあるかもね」
「復讐?」
「そう・・あなたにも私と同じ恐怖を味あわせたくなったの。その為には身も
  心も完璧な女になってもらわないと」

彼女は僕が新薬の副作用で強姦した時の話しをしているのだった。

「・・・・しかし・・あれは・・・・」

彼女が僕の言葉を受け継いだ。
「そう、確かに私達の開発した新薬の副作用がそうさせたのかも知れない。で
  も理性では納得出来ないこともあるのよ。現にあなたは薬の副作用を理由に
  少しも私に対する謝罪や反省をしていないじゃない」

「わるかった。謝るから許してほしい」
「笑。とって付けたような謝罪ね」
「じゃ、僕はどうしたら良いんだ」
「本当に悪いと思っているなら、ひとつだけ方法があるわ」
「なんだい?僕に出来ることなら何でも言ってくれ。本当に悪いと思っている
  んだ」
「本当に悪いと思っているの?」
「あぁ」
「じゃ、私の臨床実験につきあって。そして女になって」
「そんな・・・」