ナルシスの転落 1・初めての体験(作:宮城耕一さん)


 僕は十八歳。大学に入学して夏休みの旅行を目当てにバイト。今僕は、三週
間の予定で気ままな旅に出かけたところだ。R市に下りた。何となくそこに来
てみたかっただけだった。僕はハーフ。髪の毛も目の色も茶色。父はいない。
母は父のことを語りたがらない。だから、白人であった父のことはほとんど知
らない。僕は珍しがられて育った。白人とのハーフというので近寄ってくる女
の子も随分いた。だけど、恥ずかしがり屋の僕は交際は苦手で、高校生の時は
彼女は出来なかった。大学に入学しての三カ月、結局彼女無し。
 けれど、女の子にはとっても言えない好みがあった。僕はひそかに古本屋な
どに置いてあるS・Mの写真集を見るのが好きだ。未成年だから、チラっと見
るだけ。頭に刻みつけて帰って、思い浮かべながらマスにふける。女の子を縛
ってみたいって、そんなこと言える訳がない。するとつきあい始めても急速に
興味が薄れてブチコワシが毎回だった。

 僕はR駅の駅前商店街の裏手にポルノ映画館を見つけた。僕はまだ入ったこ
とがなかった。「隷女・魔界への転落」というのがかかっている。S・Mもの
だ。時間は夕方だけど、これから見られる。スチール写真を見ながら、胸がド
キドキした。入ろうかやめておこうか、未成年ってわかって、入場できません
って断られるんじゃないかって、どうしようと思っていたら、ポンと肩をたた
かれた。

「ユー、見たいんだろ。一緒に見ようか」
「ええ、まあ、見たいことは見たいんですけど」
「日本語しゃべれるじゃん」
「僕、ハーフなんです」
「へえ、きれいな顔してるじゃん、髪の毛も天然パーマか」
「そうです」

 僕はたいてい、こういう会話から人と知り始める。相手が女の子でも男の子
でも大人でも。僕より五歳くらい上かなと思った。
 結局男と一緒に映画館に入り、初めてS・Mの映画を見た。映画はバーのホ
ステスをしている女がヤクザに目を付けられて帰宅途中に車でさらわれ、組の
事務所の地下に監禁されて調教を受け、縄奴隷として売春婦に仕立て上げられ
ていく話だ。救いがない。ああなってはおしまいだと思いながら、僕はとても
興奮した。女が後ろ手に縛られてオッパイに縄をかけられていくシーンになっ
たところで、隣に座っている男が僕の左手にそっとさわってきた。僕は映画の
シーンと自分が男に手を愛撫されていることで二重に混乱した気分になった。
僕は女が吊るされるところを見ながら、男の手が僕の股ぐらを撫で、ついで「
大きくなってるね」と左の耳にささやきながら、耳をねぶり、ジッパーを引き
下げていくのを、「やめて、やめて」とまるで女のように小さな声で男に懇願
するしかなかった。女が入れ墨の男に犯されている時には、僕はズボンのベル
トを外され、男の左手でチ○ポをしごかれながら、ティーシャツを上にずりあ
げられて、乳首や胸を舌で舐め回されていた。僕は心臓の動悸が早くなって、
思わず出る声を他の観客に気づかれはしまいかと、心配でならなかった。そん
な状態で映画が終わった。



 男は腹が減ったから一緒に食いに行こうと僕を誘った。僕は男に変態をされ
、しかも変な気分になってしまったことがとても恥ずかしくて、付いていくし
かなかった。居酒屋で飲みつけない酒を飲みながら、男はいろいろと聞いてき
た。僕は三週間の予定でどこという目的も無しに適当に旅行するつもりで出て
きたことや、泊まるところも行き当たりばったりで泊まるつもりだということ
もしゃべっていた。男は自分のマンンションに泊まれよと言った。無料だし、
おまえの好きなS・Mの写真集も雑誌も、他に見たことのないようなものも沢
山あるから見たいだけ見せてやるし、飽きるまで泊めてやるよと言った。僕は
さっきまで男にさわられていたことも忘れて、見たい誘惑に乗ってしまった。

 男のマンションに入ると、男は村井二郎と名乗った。その時まで名乗ってい
なかったのだ。やっと僕は、「正岡寛夫です」と言った。
「へえ、そんな日本人の名前より、お前はちょっとメイクすれば外人の女の子
に見えるから、マドレーヌって名前にしなよ」
「え? マドレーヌですか」
「そうだ、お菓子のようにおいしそうで、響きもきれいだろう。それに僕って
言わずに、ワタシって女言葉を使った方が可愛くなるよ」
「ワタシですか?」
「いやか?」
「まあ、そう、ウーン、いやでもないわけではないけれど」
「そうか。よし、決まった。ここにいる間はおまえはマドレーヌで、自分のこ
とをワタシと言うんだ」
「村井さんのことは?」
「ここにいる間は俺はおまえの家主だから、ご主人様と呼べ」
「はい、ご主人様」

 これで、二人の関係が決まってしまった。ご主人様は私にS・Mの写真集と
雑誌を数冊投げ出した。私は目を輝かせて写真集の縛られた女の写真を一枚一
枚見始めた。ご主人様は煙草を吸いながら酒を飲んでいる。しばらくすると彼
が側に寄ってきて肩をつかみ、愛撫をはじめた。私はS・Mの写真を見ていて
すでに興奮していた。彼は立ち上がって戸棚からバッグを取り出して、中を開
けて見せた。中には縄が入っていた。私は驚いた。胸がドキドキした。彼は私
の両腕を後ろに回し、後ろ手に縛った。縄を左の二の腕にかけ、右に回し、オ
ッパイの上下に縄をかけるように私を縛り上げた。

「きついわ。縄、ゆるくして」
「マドレーヌは縛られて犯されたかったんだろ。きつく縛られれば縛られたっ
ていうことで、犯されてもあきらめがつくってことよ」
 彼は私を突き飛ばし、私のズボンを脱がし始めた。縛られた手が腰のところ
にあって起き上がることが出来ない。ズボンを脱がされ、パンツも脱がされた
。靴下も脱がされた。下半身は丸裸になってしまった。彼は私のアソコをしゃ
ぶりはじめ、シャツもたくしあげ、あおむけにひっくり返して、お尻も撫で回
し、アヌスをなめはじめた。

「やめて、そんなところ、やめて」

 私はそんなきたいところをなめられるなど思いもしなかった。

「うるさい、奴隷め」

 と言いながら、縛った縄を解いてシャツも脱がせて、改めて全裸にして前と
同じように後ろ手に私を縛った。私は自分がとても興奮していることを認めな
いわけにはいかなかった。僕は女の子を縛りたかったが、自分が縛られること
を期待していたのだろうかと思った。アソコはとても興奮していた。彼の愛撫
はネチコチしていて、私は興奮したり、また興奮が冷めはじめたりして、何時
間たっているのかわからなかった。彼は油か何かを私のアヌスに塗り込めはじ
め、指を入れて次第にアヌスをほぐしていった。そして彼は後ろ手に縛り上げ
られた私の後ろからアヌスを犯した。激痛が走った。犯されたと思った。知り
合って、何時間もたっていない、どこの誰かわからない男に、私はアヌスを犯
された。誰にそういうことを言えるのか。自分が転落していくような気がした
。彼は何度も私のアヌスに入れては出し、また突き入れた。そしてとうとう私
のアヌスに射精した。アヌスの中で、彼のものが急に大きくなり、精液が私を
よごすのを感じた。私のセックスの初体験は何と男に全裸にされ、後ろ手に縛
られてアヌスを犯されるというものになってしまった。もうどうなってもいい
わと、心のどこかで私は思っていた。大学も何だか急に遠いものに思えた。そ
のまま、私は疲れて眠ってしまった。