ナルシスの転落 15・フェラチオの日々(作:宮城耕一さん)
車から下ろされた。上から布をかぶせられ両脇を抱えられて歩かされた。ド
アが開いて中に入れられ、すぐに階段を降りさせられた。また地下室に監禁さ
れるのだわ。八階に監禁なんてあるのかしら。地下二階だった。またしても。
部屋に入れられて後ろ手錠をはずされ、目隠しを取ってくれた。あたりを見回
した。同じような部屋だ。コンクリむき出しの殺風景な部屋。女の子を監禁す
るような部屋じゃないわ。きれいな壁紙ぐらい貼ってほしかったわ。ドアの下
には差し入れ口はなかった。ビデオカメラがあった。目の前にシャワーとトイ
レもあった。前よりはいいわと、ちょっと安心した。
「おまえはしばらくここで働くんだ。起きたら化粧をして身支度して待ってお
け。くわしいことは明日店長が説明する」
二人は出て行った。カギの音が三回した。どうせ開くはずがないわと思いな
がらドアのノブをまわして引いたり押したりした。逃げられるところも一応探
した。あるはずもなかった。
ショッキングピンクの大きな胸あきのブラウス、赤のブラジャー、ミニスカ
ート、ガーター、ハイヒールがあった。赤づくめだ。明日からブラウスとスカ
ートをはけるのだ。裸じゃない。私はオシッコのための垂れ下がった管を見た
。包帯された股間も見た。でも、服を着られるということで、地獄から一段上
に上がれた気がした。わかりきっているわ。私はそう思い込みたいのよ。
食事はドアを開けてボーイが運んできた。お昼過ぎに店長が現れ、ついて来
いと言われた。暗い階段を四階まで上がらされた。四階に上がると店の裏側に
直結していた。狭いスペースに入れられ店長は消えた。スペースは私が座るく
らいしかない。折り畳みの椅子に腰を下ろして待った。前には腰の高さくらい
のへっきりがあり、五十センチくらいの空間が開いていて、上に透明なアクリ
ル樹脂の板が天井まで続いていた。仕切りの向こうにソファーと灰皿、ティッ
シュの箱が一つあった。店長が仕切りの向こうのドアから現れた。
「お客が来たら、にっこりいらっしゃいませと言うんだよ。ブスっとするな。
愛想良くしろよ。ブラウスは脱いでブラジャーでフェラチオするんだ。下は要
求されても脱ぐんじゃない。オッパイはサービスでさわらせていいが、ここは
本番する店と違うからな。フェラチオ専門店だ。そういうことで許可を取って
ある。時間は三十分。入ってきたらそこにあるタイマーをセットしろ。料金は
レジで徴収してある。タイマーが鳴ったら、お客に延長なさいますか? 追加
料金かかりますがと言うんだ。追加料金もレジが扱うから。客も滅多に仕切り
を踏み越えてこない。金をあげるからと言われても禁止だぞ、カメラで見てい
るからな。マレッタ、おまえからねだるなよ。ゴムがそこにあるだろう。それ
をかぶせてしゃぶれ、いいか」
一端部屋に戻されてかなりしてからドアを開けられ、スペースに入った。お
客さんが来た。学生風の男だった。料金は安いんだろうなあ。私がお金をもら
えるわけでもないのに、惨めな気分がした。私はブラウスを脱いで膝まづいた
。学生は下半身裸になってあれを仕切りから差し入れた。
「立派なものねえ。きれいわ」自然にほめ言葉が出た。さらわれてから私はほ
とんど話らしいものをしたことがなかったが、低劣なフェラチオ専門の風俗嬢
として男と会話をするようになったのだ。縄奴隷のほうがランクが高い? ま
た馬鹿なことを考えている。でも、でも、娼婦にランクがあるのは昔から事実
だ。遊廓の太夫は最高で、ゴザを持って橋の下で客を取っていた娼婦は最低ラ
ンクだ。街娼は寒くても雨が降っても外でお客を待っているから最低ランクだ
。私は・・・
「何してるの? 一言言ったきり黙ってしまって」
「あ、ごめんなさい。お客さんが初めてなのでとまどってしまったの」
あわててゴムを取って袋を破いた。まだやわらかい短い学生のものをしゃぶ
りはじめ、片手でそっとしごきながら早く固くならないかなと思った。もう少
し長く伸びて固くならなかったらゴムをかぶせられない。今までは全部ナマだ
った。お客もあそこの人達もゴムを使わなかった。でも、女たちにはゴムを使
ったんだろう。アヌスと口に射精されても妊娠しない。でもエイズや性病をう
つされる可能性は高い。ゴムを使わせてくれるのはありがたいことなんだわ。
ようやく、手頃な長さに伸びてきて、中に芯があるように感じられる状態に
なった。
「かぶせるわよ。学生さん」
「え? 学生ってわかったの」
「そんな感じしたから」
私は先っちょからそろそろかぶせていった。根元の陰毛にかぶさらないよう
に気をつけながら。私のあそこは手術の時に全部剃られてしまったのだろう。
両手でしごきながら、ゴムをくわえた。ゼリーが塗ってあるので不快感がした
が、すぐに口の中に溶けてしまった。左手で睾丸を握ったり離したりし、右手
で竿をしごいた。
「君、きれいな。日本語もうまいな。映画女優にでもなれる顔してるよ。どう
してこんなところにいるの?」
そんなこと聞くな! て馬鹿野郎! 心の中で毒ずいて、くわえていた口を
離して見上げて言った。
「これをしゃぶってみたくて志願したの。おしゃべりしてたら時間超過するわ
よ」
「わかったよ。早く出してくれ」
私の仕事なんだわ。シュパシュパ音を立てて出し入れした。学生はハーハー
いいながら腰を振り出した。
「オッパイ見せて!」
必死の声に私は気をよくした。シュパシュパを続けながら両手を背中にまわ
してホックをはずしてブラジャーを床に捨てた。学生はオッパイを見ながら、
アアっと声を上げて腰を大きくバウンドし、出したようだ。
「よかった?」
「すごく。オッパイさわらせて」
「だーめ。何回も私のところに来るんなら、そのうちに気が変わってよ」
学生のゴムがぬけた。先に乳白色のものがたまっている。いつも飲まされて
いたものだ。もれないようにゴムの真ん中を縛ってごみ箱に捨てた。学生はベ
ルトをつけ終わっていた。
「名前、マレッタって言うんだね」
「そうよ、知っていたの?」
「え? 知らないの? ここ、写真で選ぶんだ」
「そうなの。今日が初めてだから、そこまで聞かなかったもの。あなたが正真
正銘のはじめてのお客さんなのよ」
「うれしいな。また来るからね」
一体、どの写真だ? ブラジャーとブラウスを身につけながら考えた。思い
当たった。シーメイルお別れ撮影会の写真だ。最初にギャグをかまされていな
い顔を撮影され、それから縛られたオッパイから上の写真、というふうに撮ら
れていったっけ。一番最初の顔だけの写真がここで引き延ばされてパネルにな
っているのか、それとも普通のL判で、下に「マレッタ」って名前がワープロ
されたのをアルバムに入れられてあるのかしら。もしかしたらこのお店、私の
顔をインターネットのホーページに貼り付けてあるのかしら。もしかしたら、
私のいろいろな恥ずかしい写真がネットで全部ばらまかれてしまっているのじ
ゃないかしら。私は外を歩くことがもはや出来ないんだ。もし外を歩いたら、
ネットで私の顔を覚えている男が近寄ってきて、私にセックスを迫るに決まっ
ている。迫られたらいつも私は逃げることが出来なくてもてあそばれてしまう
のだ。私は今は縛られていないけれど、すでに緊縛された身なのだわ。
椅子に腰を下ろした。隣にはいくつか同じような部屋が並んでいて、女の子
たちがフェラ嬢をしているのだ。私と違って通勤し、バイト気分でやっている
のだ。お客からは私は普通の風俗嬢だ。しかし私は専用の入り口をスペースの
後ろに作られ、四階のスペースと地下二階の少しましなお部屋との往復を許さ
れているだけだ。部屋にビデオカメラがあって私を監視している。
本当は電源が入っていず、見せかけだけなのかもしれない。ここでは縛られ
たりギャグも浣腸も吊るしも鞭打ちもない。お客のいない時は服を着ていられ
る。お客が来てもブラウスを脱ぐだけ。時にはブラジャーもはずすけど、あそ
こに比べたら天国のようだ。もう下に降りてもいいのかしら? ノブをまわし
たら鍵がかかっていた。次のお客が来るまでここで待機なのだわ。
お客が入ってきた。貧相ななりだ。
「いらっしゃいませ」
「うん」
お客はそれだけしか言わなかった。上着を脱いで床に投げ、ズボンとパンツ
をずり下げてあれをパネルに差し入れた。私はゴムを出して片手でしごきはじ
めた。鼻をものに近づけるといやな匂いがした。不潔だ。ゴムをかぶらせてか
らしゃぶろう。なかなか大きくならないので、両手でもみあげた。だんだん長
く伸びてきた。
「外人の姉ちゃん。うまいわ。俺、なかなか感じんけど感じてきたわ。早く出
してくれ」
ゴムをゆっくりかぶせていった。まだ慣れていないもの。早く追っ払いたか
った。オシッコがしたくなってきている。私は舌とのどを使ってピストン運動
をした。ぐんぐん固くなってきた。私はあそこでは手を使ってのフェラチオは
したことがなかった。つい、その調子が出た。私の両手は男の腰をつかんでい
た。口だけでフェラチオしていた。男のものが膨らんだ感じがした。男は声を
上げた。イッタのだ。ゴムを始末した。男はまた来るよと言って出て行った。
ブラウスを脱ぐのを忘れていた。まあ、いいか。オシッコがしたくてたまらな
い。それからの時間は長かった。
後ろで鍵の音がして、ボーイが部屋で休憩だ、待機しておけと言い、私を部
屋に戻した。部屋は鍵が開いていて食事のトレーが来ていた。私はトイレに走
り、ミニスカートを上げて管を便器に垂らし、細々と流れ出すオシッコを見て
いた。鍵の音がした。三回。お呼びがあるまでここで監禁される。まだオシッ
コは流れ続けていた。ずいぶん長かった。包帯はじきに取れるだろう。でもあ
そこはすぐには使えないわ、きっと。それまでここでフェラ専門の風俗嬢とし
て働かされるのだ。
休憩は長かった。私は退屈して化粧を落とし、手と足のマニキュアも落とし
て、黒のマニキュアを手と足に塗った。乾く間、私の顔をぼんやり見つめてい
た。目蓋を上げて斜めに鏡を見た。光線の具合で、薄い茶色の虹彩が緑のよう
な青のようにも見えた。へえっと思った。ひげの言った通りだ。私自身、今ま
で気がつかなかった。
母はどうしているのだろう。お百度参りしたり易者や占いのところに行って
、私が生きているのか、帰ってくるのか、生きていたらお祈りで帰ってくるよ
うにとお賽銭を入れて、神社で鈴を鳴らしているのかしら。涙が沸いた。
それからヘヤーバンドをはずして何回もブラッシングをし、ムースを塗って
、ヘヤピンを使い、ヘヤーバンドをした。ファウンデーションを濃いめにし、
チークも濃い色を選んでつけ、アイブローを塗ってアイラインを引き、目蓋に
青色のアイシャドウをべったりつけ眉毛の下には薄いめにつけた。ビューラー
で睫毛を曲げて、マスカラを塗った。口紅の下地クリームを塗って、少しオレ
ンジがかっている色の口紅を輪郭を描いて中心部に塗り込み、グロスを筆で何
回か唇に塗った。香水があったらなあ。
上に上がらされた。深夜までスペースにいた。四人のものをくわえて部屋に
戻った。結構、疲れていた。初日で六人客を取った。私の仕事ってこんなもの
かと思った。明日から退屈だろう。お化粧で楽しむしかない。フェラチオなん
て刺激がないわ。燃え上がりたいわ。やっぱり後ろ手に縛られたいわ。ボール
・ギャグされたいわ。されるのがいいの。
でも四、五日もすると、男を話であおったりフェラでいかせることが、まる
で男をもてあそんでいるような錯覚を覚え、楽しみはじめた。心も風俗嬢にな
ってきているのだ。フェラ嬢に染められていっているんだわ。
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