ナルシスの転落 16・私の股間(作:宮城耕一さん)
一週間目の深夜に医者のところに連れて行かれた。もちろん、黒い布で目隠
しされ、後ろ手錠でだ。医者はそのままで私の股間を調べ、「まあ、一カ月も
しないうちに使えるだろう。適当な時に連絡して連れて来てくれ。それからお
まえ、今日から包帯はないが、オナニーするなよ。まだ出来上がっていないか
ら、オナニーでせっかくの道具が壊れて再手術だぞ。しないと約束するか」と
怖い声で言った。「しません、約束します」と見えない医者に答えた。再手術
なんて絶対いやだわ。そこを出る時はノーパンだった。風がミニスカートから
スースー入った。パンティの支給はあるのかしら。
フェラの部屋に戻された。眠たかったが、私がどんな道具をつけられたのか
見てから寝ようと思った。化粧台の前に座って両足を広げて椅子の端に置き、
見下ろした陰毛はほんの少しあるだけだ。いや少し伸びはじめているところな
のだ。手鏡で股間をうつした。大きなびらびらも中の小さなびらびらもある。
クリトリスもちゃんとある。尿道口もある。オマ○コもつけてある。三人の泥
棒女と一緒だ。ここは男のものを入れられるだけでなく、舐められてもすごく
感じるのだわ。特にクリトリスは。オナニー絶対禁止と誓わされた。あの医者
、どういう顔なんだろう。でも、少しさわってみたい。そっとなら壊れないわ
よね。右手の人指し指で大きなびらびらからさわりはじめた。そして小さなび
らびらも。オマ○コの中に指をつばで濡らしてそっと入れた。中はザラザラし
ていて縦縞もあるようだ。女のオマ○コの中はこうなっているのだろうか。違
うのだろうか。それ以上、指を突っ込むのは怖くてやめた。最後にクリトリス
にさわってみた。感じる、一番。少し早く指を動かした。すごく感じる。オナ
ニーしたい。でもだめ、壊れてしまうかもしれないって、怖い声で医者が言っ
ていたわ。私は大きなため息をついて服を脱ぎはじめた。あたしは自分の女の
道具を見て興奮している。男がほしいわ。もう一度縛ってほしいわ。アヌスで
なくあそこを犯して! セックス奴隷にされたいの!
翌日になった。パンティの支給はなかった。がっくりして落ち込んだ。古本
屋や村井の部屋で見せられたS・M写真集。ああ、シーメイルの姿を大勢のな
じみ客に撮られた写真はどうなっているんだろう。ネットでばらまかれている
のは確実だわ。あの写真は焼き付けをして、それぞれの客に返されただけなん
だろうか。それとも村井のマンションで撮られた写真がグラビア写真集として
印刷されたように、やっぱり外国で印刷されて秘密出版されているのだろうか
。
あの写真集を泥棒女に全ページ見せられた。最初の男の子としての写真はス
トロボだけのだったので全体に暗かったが、僕の怯えた顔や絶望した顔、泣い
た顔、アヌスを犯されて苦痛にゆがんだ顔、ずいぶんよく撮れていたわ。女の
子の格好の写真は照明されて撮られたので色も格段によく、私の悶えはいっそ
うエスカレートしていて、あれが自分のでなかったら飛びついて買って、写真
集を見ながらマスかいていたに違いないわ。
カメラは細面だったかな。ひげは私を犯す方だった。あんな写真ばっかり撮
っているんだろう。誰かが娼婦にされる時に、顔とオマ○コを並べて写真を撮
られる。最初に女が連れ込まれた時にはビデオとカメラと照明がスタンバイし
ていて、女は撮影されながら服をはぎ取られ、レイプされる場面を克明にビデ
オとカメラで撮影されるのだ。終わった後で、記念写真として顔とオマ○コを
並べての写真が撮られる。いや、連れ込まれたら押さえ込まれて後ろ手に縛り
上げられ、下着を取られてオッパイをむき出しにされて男のものが深々と女の
ものに突っ込まれているところを、女の顔つきで撮られるのだわ。あたしも突
っ込まれていた時に、後ろから村井があたしの顔をカメラに向くように押さえ
つけて、肛門性交の顔写真つきを撮られたんだわ。それから女はあたしがされ
たように全裸にされて、ビデオやカメラ、照明に次々回され、観念させられる
。自分から体を売らない種類の女は、いつもこうして娼婦に落とされるんだわ
。
以前、心斎橋のソニータワーの前で深夜女の子が友達といて、友達が少しい
なくなって戻ってきたら、その女の子がいなくなっていた事件があった。大分
して、福岡の港に沈んでいる車があって、その座席にその女の子のイヤリング
が片方あったと新聞で見たことがあるわ。あの子は船で外国に売られたんだろ
うって話を聞いたわ。道を歩いていたら突然車にさらわれ、中でサラ金に数百
万借りたとか、借金返すために身を売りますとかを書かされて売春業者に引き
渡された女の子がいた。でもその子はすごかった。あたしと大違い。売春業者
に人違いだと説得し、業者もそれを本当と思って解放された。結局さらった男
たちはつかまっていた。主婦でさらわれたのもいたわ。確か温泉地の売春宿で
半年客を取らされて、見張りの目を盗んで脱出したって聞いたわ。そんな女も
いるのだ。友達から聞いた話だ。中学生が突然いなくなって、数年後に家に戻
ってきたって。あれは家出か連れ去られて売春さされていたのか、どっちと思
う? て聞かれた。あたし、じゃない、あの時は僕だった。僕は家出の可能性
もあるけど、数年は長すぎるからさらわれたんじゃないかなって答えたっけ。
あれは大学に入学してすぐの頃の会話だ。その時の友人の名前?顔? 思い出
せない。
パンティがほしい。ああ、S・Mの写真集だった。いろいろなパンティをは
いていたな。無しがほとんどだけど、素敵なパンティもたくさんあったわ。ガ
ーターにハイヒールは多かったな。神様、あたしにティーパックのパンティを
お恵みください。
何て馬鹿なことをお願いしているの。吊るし部屋で見た女でパンティをして
いる女は一人もいなかった。ガーターとヒールだけ。ピアスはみんなつけてい
たな。あたしのピアスは三つ目。金と銀の鎖のもの。ずっとつけている。神様
にお願いするのなら、あたしがちゃんとした人間なら、旅の初めの日に時間を
戻して貰い、R市以外の駅に下車して、男としての人生をやり直させてくださ
い、そうお祈りすべきなんだわ。そんなこと、そんなこと、神様がしてくださ
るはずがないわ。 誰かが言ったわ。天の定めって。あの時も私は観念した。
観念ばかりさせられてきた。売春業者を説得した女、半年後に売春宿を脱出し
た主婦、数年後に自宅に逃げ戻った元中学生。彼女らにはそういう神の恵みが
あったのだ。けれどあたしの天の定め、ああ泥棒女だったわ。ベージュか黒か
ピンクか、わからないわ。肉奴隷って、縄奴隷って、マゾ奴隷って、何しろ奴
隷って言葉だったわ。普通の売春婦は体を売ってお金をもらうけど、あんたら
は客を取らされてもお金をもらうことなく、服もアクセサリーも買ってもらう
こともなく、組織に骨までしゃぶりつくされるセックス奴隷、この言葉だった
わ、それが天の定めだって、言われたのだわ。天の定めか。あたしはいっそう
落ち込み、ベッドでしくしく泣き続けた。しくしく泣き続けるあたしの姿は無
力な少女そのままの姿だ。私は十九才。
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