ナルシスの転落 18・モデルのお仕事(作:宮城耕一さん)


 私は元の部屋に戻った。コートとブラウス、ミニスカートをはぎ取って、二
人は出て行って、鍵をかけた。あたしはみじめだった。シャワーもトイレもつ
いていないコンクリむき出しの狭い部屋。おまるにしゃがんでオシッコをして
トイレットペーパーを小さくやぶって拭き、おまるにふたをした。あたしはフ
ェラチオで稼いであたしのものになったと思っていたものを返してほしかった
。涙が頬を流れた。奪われ続けるあたし。化粧台の前に座って泣きながらお化
粧を落とした。紫のマニキュアとペディキュアがはげていないのを確認して、
ベッドに入った。明日から女の道具を使ってお客を取るのだわと思うと、寝づ
らかった。寝にくい、寝にくいと思っているうちに眠ってしまった。
 あたしは真っ暗な闇の中で後ろ手に縛られて吊るされていた。ボール・ギャ
グからよだれが垂れていた。足元が明るくなって下を見ると、ヒールの足も縛
られていた。下の明かりがだんだん近づいてきて熱くなってきた。炎だった。
足が焼けるように思って必死に足を曲げて上に上げた。すぐに疲れて両足を下
ろすと、猛烈に熱くて必死に両足を上に上げて炎を避けようとした。焼き殺さ
れる! 焦熱地獄にあたしは落とされた。
 目が覚めた。ぐっしょり汗をかいていた。まだ夜なんだろう。夢の続きを見
たくないから、起き上がって水道の水を飲んだ。ジュースとか、コーラとか、
コーヒーとか紅茶、随分飲んでいないわ。本も新聞も音楽も、みんななくなっ
た。あたし、煙草が吸いたいわ。無性に吸ってみたい。気持ちが落ち着くと、
再びベッドに入った。
 目が覚めた。天井にはつけっぱなしの蛍光灯。スイッチは部屋にはない。化
粧台のは消せるけど、消したことがなかった。朝食をとっておまるを使った。
二段か三段、地獄に転落した気分。鏡の顔を眺めた。お部屋で見るものは鏡の
自分の顔しかない。今日があたしの女としての初売りの日なんだわ。性転換さ
れてからお尻に一度も注射されていない。でも小さくなってはいないわ。あた
しはオッパイを両手で持ち上げて自分でオッパイをなめた。乳首には舌は届か
なかった。
 オッパイが少し膨らんで女としては小さめのといえる頃に初売りされた。初
日、三人の客を取ったわ。あたし、初めて客を取らされる女なんだわ。かわい
そうなマレッタ。あたしは昨日のお化粧を落として顔をきれいに洗った。紫の
マニキュアとペディキュアを落として真珠色のマニキュアだけした。ペディキ
ュアは塗らなかった。乾いてからブラッシングして肩にかぶさってきた髪の毛
が内側にカールするようにさせた。ファウンデーションは白っぽいもので薄く
つけた。チークも目立たない程度にし、目の回りも控えめにした。口紅はピン
クを塗った。
 インターホンが鳴ったのは昼食後だった。意外にもお化粧は全部落として待
っておけという。ガーターやヒール、ピアスは言われなかったからそのままに
して、マニキュアもお化粧も全部取った。なぜ素顔で待っておけと言ったのか
、意味があたしにはわからない。あたし、さらわれてからお化粧なしでいた日
なんか一日もなかったわ。フェラチオ調教だけの時も、お化粧はさせられたわ
。あたしが素顔でいるということがとても不安定にさせた。何があたしの身に
起こるの。予想もしていないことを強いられるのだわ。もう一度顔を洗って歯
を磨き直した。 入ってきたのはギラギラだった。
「マレッタ、一段ときれいになったな」
 ギラギラがあたしにまっすぐ近づいてきたので、ドギマギした。ギラギラは
ぐいと抱き寄せて荒々しくキスをした。ギラギラの舌が口を割って入り、あた
しの舌をまさぐった。あたしはジーンとしてギラギラの背中に両腕を回し抱き
しめた。ギラギラがあたしから離れて背後に回った。あたしは呆然としていた
。カチャと音がして後ろ手錠された。それで衝撃を受けた。あたしはギラギラ
にもてあそばれたのだ。次に縛られなかったのも衝撃だった。ボール・ギャグ
もしてくれない。首輪もしてくれない。あたしはブラウスやミニスカートをは
ぎ取られ、余分にあったピアスもガーターもヒールもはぎ取られ、コートもは
ぎ取られ、シャワーもトイレも取り上げられ、今度は縄もギャグも首輪もお化
粧も、すべてはぎ取られたんだわ。地獄へ五段か六段落とされた感じがした。
 一方で体のしびれはおさまらなかった。激しく動悸していた。女の道具が濡
れてきているのがわかった。あたしはギラギラが猛烈にほしくなった。この部
屋にはビデオがないわ。今すぐここであたしを押し倒して入れてほしかった。
押し倒さなくてもいいの。足を広げさせて、後ろから女のところに突き入れて
ちょうだい!
 ギラギラはドアを開けて、「出ろ」と言った。「おまえが先に上がれ。この
上の階だ」
 あたしが首輪で引っ張られないで先に上がるなんて変な気分だ。ギラギラが
地下一階の入り口のドアを開け、調教室のドアを開けた。調教台の上にはピン
ヒールにガーターストッキングの足を広げさせられて縛りつけられ、真っ赤な
マニキュアの女が後ろ手に縛られて浣腸されているところだった。白のガータ
ーに白のヒールは違うけれど、以前のあたしとそっくりだ。意味不明の叫びを
上げている。どうせボール・ギャグされているんだわ。そして床によだれをし
たたらせているんだわ。ギラギラが隣の吊るし部屋のドアを開けた。女が二人
吊るされていた、ギャグからよだれを垂らしながら、体がゆっくり回り、また
逆方向に回っていた。見たこともない顔だった。
 女たちを見ながら奥に進み、次の部屋のドアを開けられて、「入れ」と言わ
れた。まだ入ったことがない部屋だ。床には大きな赤い布が敷かれていた。回
りに大きな照明機が三つあり、男が六人椅子に座っていた。一人、カメラを二
台首にぶら下げていた。ここでまたいやらしい写真を撮られるのだわ。カメラ
を見るとニコンF3だった。ウアオ! 大学の友達が持っていてさんざんその
マニュアルのカメラがどれだけ素晴らしいかって聞かされたカメラの名器と言
われる、すっごく高いカメラだ。あれであたしを撮るんだわ。あたしはここで
縛られて新品のオマ○コつきの記念写真をプロのカメラマンに撮られて、その
写真がお得意に配られて、一番高額の金額を出したお客があたしの初回の客に
なるんだわ。あのシーメイルの初回の客、はげ男なのかしら。