ナルシスの転落 24・裏ビデオ(作:宮城耕一さん)


 あたしの初売りは二週間くらいだった。マスターに明日から夕食まではビデ
オで、夜は客を取るように言われた。
 昼食が終るとインターホンが鳴って迎えをよこすと言ってきた。ガーターに
ヒールだけの姿で、四階の入ったことのない部屋に入れられた。天井から幾つ
もチェーンがぶら下がっていて、木馬のようなものと石の板が何枚か重ねられ
てあった。そろばん板のような凹凸のある石もあった。そこにはこの前の撮影
隊がいて、三人ほど人が増えていた。ビデオカメラが三脚つきの大きいのと小
型と二台あった。
「久しぶりだな、ソフィー。この部屋で四本か五本、ビデオ撮るからな。特に
セリフはない。自然体でいい。コスチュームでなにかわかるから。短時間で撮
らねばならないから、打ち合わせなしでどんどん行くからな。それになった気
分になるんだよ。服を着てお化粧している間にだ。最初は懐かしのセーラー服
からだ」
「はい、わかりました。よろしくお願いいたします」
 あたしはまずお化粧を全部落として、ガーターとヒールを取り、懐かしのセ
ーラー服に着替えた。トイレに行こうとしたら、口ひげがトイレは禁止だ、撮
影中にさせるからと言った。初めて見る顔が二人寄ってきた。
「ビデオの場合は素顔じゃよく写らないから、メイクは俺がするよ」
 あたしは眉毛を細く剃刀で剃られ、男がファウンデーションを塗りはじめた
。もう一人が髪をブラッシングして櫛で真ん中から二つに分け、器用に三つ編
みをして前に垂らした。髪の毛は肩の前に二、三センチかかっていた。元々長
髪だったけど、さらわれてから二年か少しでここまで髪が伸びたんだわ。その
間にチークをされ、アイブロウとアイラインを引かれ、ビューラーで睫毛を曲
げられて、マスカラをされた。人にお化粧されるのは初めてだったので、落ち
着かなかった。明るい赤の口紅をされてアイシャドウは無しだった。「終わり
ました」とメイクが叫んだ。
 口ひげはあたしに部屋の隅に移動しろと言った。照明機が三台点灯し、三脚
の大型カメラと小型の携帯ビデオがそれぞれ、「スタンバイしました」と言っ
た。 突然後ろから突かれて前のめりによろめいた。さらに突かれて床に倒れ
た。誰かがあたしのお尻にのっかかってきた。不意だったので、「ヤメテ、ナ
ニスンノヨ」と叫んだ。小型ビデオが寄ってきてあたしを写している。あたし
は左手をつかまれて後ろに回され、右手もつかまれて後ろに回され、両手首を
ガッシリつかまれた。一瞬離されて腕を内側にドンと押された。ギュッと痛く
て「イタイワ、ヤメテ」と叫んだ。縄の感触がしてくるっと両腕に巻かれ絞め
られてそのまま胸の上に縄が通され、後ろに回って引き上げられ、くくられた
ところと縄のかかっている両腕が縄で締まるのを感じた。今度は右側から胸の
下に縄を通され、ようやく抱き起こされた。カメラがあたしを狙っていて、口
ひげがあたしを見てる。両脇を縄止めされくくられたと思った瞬間、目の前に
赤いボールが見えて、あっと言う間もなくボール・ギャグされて思いっきり絞
められ、あたしは仰向けに転がされた。見ると相手役のヤクザがあたしを襲っ
たので、演技も何もない。ヤクザはセーラー服からオッパイをつかみ出してし
ゃぶり、パンティを引き抜いてクニリングスした。あたしはイッタ。スカート
をはがされて犯された。真珠入りのヤクザのものはすっごく感じた。狂いそう
。ピストン運動で二回イカサレタ後、全裸にされて縛り直され首縄された。M
字開脚にされ、顔をたたかれて、オシッコするんだと怒鳴られた。ヤクザの差
し出した洗面器に、あたしはオシッコをした。五本浣腸されてビニール袋に排
泄した。
 ヤクザが足の縄をほどいて、あたしを木馬のところに運び上げまたがらせた
。木馬は三角形の柱が渡されていて、少し丸みはあるが尖っていた。木馬の意
味がようやくわかって恐怖の叫びを上げた。無視されてまたがらされた。オマ
○コがまともに木馬の尖ったところをくわえて痛い。天井のチェーンのカギに
後ろ手の縄がつながれて引き上げられ、両足に錘がつけられた。痛くて涙を流
した。それだけですまず、前から後ろから鞭が飛んできた。あたしの露出して
いる手とオッパイに集中的に鞭打たれ、もう一本、鞭が増えて太股や脛を鞭打
たれた。あたしは首を振り回し、おめくばかりだった。
 その後、抱き起こされてそろばん板に正座された。猛烈に痛い。脛に尖った
ところが食
い込み骨が砕けると思った。最初見て、どうして木馬やそろばん板あたしの拷
問用に用意されていると思わなかったのだろう。太股の上に石の板が一枚、二
枚、三枚と置かれていった。ギャーギャー叫んで、あたしは大泣きに泣いた。
脛にそろばん板の尖ったところが食い込んで、脛の骨は砕けるに違いない。あ
たしは役立たずの膝から下を切断されるか、もう用なしの役立たずになったと
して、生きたままドラム缶に入れられてコンクリを注がれて固められ、海の底
に沈められるんだわ。ひたすら泣きわめいた。泣きわめくしかなかった。後ろ
からも前からも鞭が飛んできて、泣き叫ぶしかなかった。あたしは江戸時代の
囚人がこんな格好で拷問を受けている絵を思い出した。無慈悲だった。
 ようやく拷問から解放されてヤクザに犯された。脛が痛くてもう感じない。
もう一人、照明の眼鏡があたしにまたがり、チ○ポを口に突っ込んだ。あたし
は二人の精液にけがされて撮影が終わった。
 写真の時のような一緒に煙草を吸ったり缶ビール飲んだりなんてなかった。
写真が終わった時、次のビデオの時も彼らとおしゃべりしながら食事したり、
缶ビール飲んだり、煙草を吸うんだと思っていて、裏ビデオだけれども、あた
しにはそれが楽しみだった。でも、首縄されて口とオマ○コとから精液を垂ら
している状態であたしをほったらかして、彼らは出て行った。
 ひげが来て、精液をぬぐい、ガーターとヒールを持って、あたしを抱き起こ
し、縛られたまま、地下の部屋に戻した。縄をほどいて脛に薬を塗った後、監
禁した。しばらく泣いた後、でも生き抜かなくちゃと思い直し、夕食をとった
。その夜は八人、客を取らされた。お客はみんなあたしの脛を見て、「ひどい
ことされとるな」とは言ったけれど、お金を支払った分、いや出来ればそれ以
上にあたしの体を楽しむつもりだから、手荒に扱って痛がってもお構いも無し
に縛ったり、浣腸したり、吊るしたり、鞭打ったりして、夜明けまで犯し続け
た。アヌスと口とオマ○コに。
 二日目は看護婦だった。部屋の中央に病院のベッドがあった。看護婦姿だっ
たけど、青いアイシャドウにピンクのマニキュアをされた。後ろ手に胸縄、ボ
ール・ギャグに折り畳み椅子に両足を広げて縛りつけられた状態で、撮影が始
まった。ヤクザがガラの悪い半袖であたしに近づき、あたしの首筋をなめなが
ら看護婦の服のボタンをはずしていき、縄の間から服を両脇にずらして、上半
身をベージュのスリップとブラジャーだけにし、今度はあたしの目蓋を指で引
き上げて、あたしの目玉をペロペロした。目玉をなめられるなんて予想もして
いなかった。何しろ、あたしは甘いのだわ。スリップとブラジャーの肩紐がナ
イフで切断され、スリップはさらに横の部分を切断されて、スリップとブラジ
ャーを取り去られた。ヤクザは露出したオッパイを数回鞭打ち、看護婦の服の
下のボタンをはずして、白いパンスト姿を露出させ、パンストをナイフで切り
裂き、パンティも切り裂いた。椅子に縛られている縄をほどいて床にうつ伏せ
にさせ、後ろから服をまくり上げられてあたしは犯された。照明のおとなしい
のがチ○ポを突きつけてギャグをはずしてくわえさせ、後ろからヤクザに、前
から照明に突っ込まれて、えんえんとピストン運動を受けて、同時に精液を注
がれた。
 ナース・キャップと看護婦のはく白いゴム底の靴だけがあたしに残った。縄
をほどかれて後ろ手に胸縄、首縄をされて、天井から吊られた。数センチ床か
ら離れていた。左膝を縛られて上に引き上げられ、裸になった口ひげがあたし
のオッパイをもみ、クニリングスして、後ろに回って女のところに突き入れて
ピストン運動した。もうあたしは全然、感じなかった。口ひげは勝手にイッテ
、精液をあたしの心の底に注いだ。大型カメラが次に、右膝を吊る格好に変え
られたあたしを同じように後ろから突き入れて、勝手にイッタ。精液であたし
はどんどん体も心も魂も真っ黒によごされ、そのよごれが深く深くあたしを底
無しの地獄に落としていってるんだわと感じた。
 その夜はお客は六人だったけど、あたしの反応が鈍いとマスターに文句をつ
けた客がいたようだった。最後のお客の後、あたしは吊るし部屋に連れて行か
れ、後ろ手に胸縄で縛られて天井から逆さに吊るされ、六十男と新人にかわる
がわる鞭打たれ、叫び続け、頭に血が下がってきて、気を失った。
 三日目はスチュワーデスだった。あたしは痛くないところがどこもない有り
様だった。でも、許してはくれないのだわ。あたしは文字通り、肉奴隷、縄奴
隷、セックス奴隷。使えなくなったらすぐに生きたままコンクリに固められて
、ドラム缶ごと海に沈められる身。どうしてこんなことになってしまったか。
あたしにはわからない。
 あたしは黒のガーターベルトに黒のピンヒール、空色のスチュワーデスのよ
うに見える制服。クリーム色の帽子。白い網の手袋をされた。マニキュアとペ
ディキュアは真っ赤。化粧は昨日よりはるかに濃く塗られた。紫のアイシャド
ウ。目蓋にべったりと言っても言いほど。眉毛の下には塗られなかった。
 口ひげが、「クタクタだろ。どの女もビデオの三日目にはソフィーのような
状態になってるよ。夜は夜で六、七人客を取らされているんだろ。あきらめて
自分の運命を呪うんだな」と言った。
 あたしにはどう答えていいのかわからないわ。あたし、女として生まれたん
だと思うの。男の子だったってことは夢の中のお話のよう。男の子の時の思い
出はほとんど残っていない。大人の女にいたずらされたり、痴漢されたりした
ことを除いては。高校の親友も思い出せない。初恋の女の子も思い出せない。
古本屋でチラチラ盗み見たS・M写真集の思い出と、村井のマンションでの輪
姦。
 あたしはギャグ無しでいつものように縛られ、左膝を縛られて吊るされてい
る場面から撮影が始まった。ヤクザが上半身ハダカで入れ墨をカメラにさらし
て、あたしのスカートをまくり上げ、黒のビキニパンティとガーターをさらし
、露出している太股とパンティの回りをなめ、パンティの上からクリトリスを
刺激した。あたしは演技をしなければならないんだと思った。このビデオを見
て、孤独な男たちはマスをかくんだ。あたしがさらわれず大学生のままだった
ら、裏ビデオが手に入らなくてもビデオ屋でアダルトビデオを借りて、母が寝
てしまってから、きっとビデオでマスを必死にかいているに違いないのだ。お
母さん、許して。
 あたしは感じもしないのにあえぎ声を出した。ヤクザがパンティから指を入
れて、女のあそこをかきまわした。一層あえぎ声を出した。ヤクザはナイフで
パンティを切り裂いてオマ○コ全開にし、大人のおもちゃを突っ込んでスイッ
チを入れた。あえぎ声を出していたら、あたしはその声に引き出されるように
感じはじめ、おもちゃのクリトリスにあたる刺激に髪を振り乱して、イッテシ
マッタ。その後、後ろに回ったヤクザがあそこに突き入れ、数回ピストン運動
をして、引き抜いた。
 あたしは帽子とブラジャーとガーターベルトとストッキング、ヒールで縛り
直され、腰を高く上げさせられて浣腸を五本され、ダッコされて噴出する様子
を撮られた。その後、ヤクザがあたしのアヌスを貫き、大型カメラがオマ○コ
を貫き、サンドイッチされた。あたしは狂うと思った。何が何やらもうわから
ない。照明のもう一人が口にチ○ポを突っ込んできて、三人に使える穴全部使
われて、精液を注がれた。
 夜、あたしは七人の客を取った。毎回の食事に紅茶の缶やコーヒー、ジュー
スを支給され、雑誌も三冊支給され、それだけでもいいのだわと思った。あた
しを抱きに来る客は興奮してイキタガッテイル。あたしが生きるってことは、
イキタガッテルお客をイカセテ、あたしの体に満足をおぼえさせることしかな
いんだわ。あたしは懸命に感じなくても感じているふりをし、いかなくても「
イク」と叫んだ。
 四日目はOL、念願のティバックをはいた。お化粧は娼婦スタイルでいいか
ら自分でしろと言われ、藍色の銀が混ざっているマニキュアとペデキュアをし
、深い紅色の口紅をした。口ひげは、「マレッタはこれだけけがされているの
に、どこか清純なところが見えて、不思議な女だな」と言った。「ありがとう
ございます」とつい、お礼を言ってしまった。でも、「清純なところが見える
」という言葉にあたしは慰められていた。
 この日も五日目目もOL。同じパターンといえばいえる。木馬とそろばん板
が復活した。でも短かった。あたしは懸命に演技しイッタふりをし、撮影の合
間に、スタッフから「がんばれよ」と言われた。でも、口ひげも含めて、あた
しは撮影隊の全員に犯されたのだ。