第四章   いざ鎌倉へ(八雲一族の滅亡)


  八雲神社は文明年間(1469〜1487)に山ノ内・上杉憲房が武運長久と、疫病忌避を願って
創建されたもので以前は牛頭天王社と呼ばれていた。その後、八雲神社に名前を変えたよう
だ。阿部晴明の刻まれた石も昔から八雲神社に在ったわけではなく鎌倉街道拡張工事の際に
移設されたそうだ。それまでは北鎌倉駅の近くにある十王堂橋付近に置かれていてその付近
では祟りに纏わる話が数多くあるらしい。

裕紀と美佳の二人は北鎌倉駅を降り円覚寺口改札を大船に向かって歩きだした。北鎌倉は旅
行雑誌などにも取り上げられており円覚等や縁切り寺の異名を持つ東慶寺など女性に人気の
高いスポットも多い。きっと他の人が見たら裕紀と美佳を観光見物に来た女の子二人連れだ
と思うにちがいない。しかし裕紀はこれから明らかになるかもしれない彼自身の秘密がなん
であるのか不安と期待でいっぱいだった。

美佳の推測では安倍晴彦が言ってた事を考慮すると八雲一族は阿部一族との抗争に敗れてこ
の北鎌倉に逃れ、牛頭天王社に住居したのである。細々と隠れ住んでいたのだが阿部一族の
知るところとなりこの地で最後の決戦が行われたのではないかと言う。この地でも敗れた八
雲一族は霊力を奪われたが一族としての家系のみは続いていた。そしてなにかの要因で裕紀
に霊力が戻って来たらしい。「感じる?」美佳が立ち止まり裕紀に尋ねた。丁度十王堂橋の
辺りであった。霊力が付いて来た裕紀もなにやら異様なものを感じていたのだ。美佳は道路
から少しはずれて数cmの穴を指さした。
「ここから、なにか怨念的な霊気を感じるわ」
「あれ?裕紀!どうしたの?」
「・・・・・・」

裕紀の目の前から突然、美佳の姿が消えていた。変わりに何十匹の鬼が周りを囲んでいるの
だ。そう大学のキャンパスで阿部が出現させた鬼を一回り小さくした感じであるが、なんと
言っても数が多い。裕紀は救いを求めようと美佳を探すが影も形も見当たらない。足がガク
ガクして一歩も動けそうにもないのだ。女の子である裕紀だからそんな姿でも誰も見っとも
無いと軽蔑はしないと思うのだが、鬼には色気も通じそうにない。その時一匹の鬼が彼に向
かって飛びつくように迫って来た。「きゃ!」裕紀は腰を抜かしてその場に倒れてしまった。
もしかしたらおしっこもチビッてしまったかも・・・

しかし鬼は裕紀の体をすり抜けるとすぐ後ろで光と共に消滅した。
「あれ?」
消滅した鬼の向こうには60歳くらいの老人がこちらを睨んでいた。どうやら鬼や老人には
裕紀の姿が見えないらしい。すべての鬼はその老人を取り囲むように対峙していたのだ。は
じめの鬼が合図だったようで次々に鬼はその老人めがけて突進して行く。しかし、突進する
鬼は老人の放つ光を浴びて尽く消滅するのだ。しかし、数があまりにも多い、一匹の鬼が老
人に覆いかぶさると次々と鬼は老人に取り付きその姿は鬼に隠れて見えなくなってしまった。
それを待っていたかのように固まった鬼の間から一筋の閃光が溢れたと思うと数十匹の鬼は
一瞬の間に消滅した。そしてそこには老人の姿だけが残っていたのだ。

数十匹いた鬼の数は2、3匹に減っていた。しかし、老人も息を大きく弾ませている。今に
も膝をついてその場に倒れそうな状況だ。その時、後ろから声が聞こえた。
「さすがだな八雲耕起、これならどうだ?」
その男は3,4歳の幼い少年を小脇に抱え脇差しのような日本刀の刃を少年の喉仏の位置に
あてがっていたのだ。残りの鬼がその老人に飛び掛かるが今までの鬼と同じ運命を辿った。
「ふふっ。ならば・・・」
その男は子供を近くの井戸まで連れて行き、あろうことかその中に突き落としたのだ。
「裕久!」
はじめて老人が声を発した。老人は悔しそうな悲痛感を顔に浮かべたと思うと突然その場に
倒れた。その老人の身体から白い霊のようなものが湧き出たと思うと一個所に終結し井戸の
真上で停止した。一瞬、その白い霊魂は躊躇したようにも見えたが、すぐに勢いよく井戸底
に向かって降下した。

それを見ていた男は日本刀で印を切ると呪文を唱え出したのだ。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前・・・・」
すると周りの地面が動き出したと思うと水が流れるように井戸に向かって周りの土が流れ落
ち井戸を埋め尽くしてしまったのだ。その時後ろで「ボッ」という炎の燃え上がる音がした。
見ると老人の身体は大地に横たわったまま赤い炎を上げて燃えているのだ。しばらくすると
老人の身体は跡形もなく大地にその姿を消したのである。これで勝敗が決したとだれもが思
っただろう。その男もその場を立ち去ろうと振り向くやいなや左手の肩の部分から閃光が走
り小さな爆発を起こした。左手は根元の部分から引き千切られた形で大地に落ちた。
「うぐぅ!」
さすがにその男も苦痛に顔を歪めたが、すぐに反撃に出た。埋められた井戸の真上に浮遊し
ている白い霧のようなものがその元凶と察知した男は持っていた日本刀をそこに向かって投
げつけたのだ。投げつけられた日本刀は空中に漂う霧状の白い物体の中央で停止したのだ。
そして白い霧はその日本刀に吸い込まれるように消えていった。全てを吸い尽くした日本刀
は井戸のあった場所に落下し大地に突き刺さったのである。男は近くにあった大きな石を片
手で軽々と軽石を持つかのように掴み取ると井戸のあった場所まで行きなにやら文字を刻む
と先ほどと同じように印を結び呪文を唱えた。

裕紀はわけも判らず涙が出るのを止めることが出来なかった。すると男は彼の方を向き鋭い
目で睨みつけたのだ。
「おぬし、いつからそこにいる!」
背筋が凍る思いがして後ずさりしたがその男は裕紀に向かって近づいて来る。




「裕紀!!」遠くで裕紀を呼ぶ声が聞こえた。すると男は消え横には美佳がいた。鎌倉街道
を行き交う車の騒音も裕紀の頭に入り込んで来た。
「大丈夫?」
美佳は自分のハンカチをショルダーポーチから取り出すと裕紀に渡した。気が付くと止めど
も無く瞳から頬に涙が流れ落ちているのだ。
「今、・・・・」
裕紀が言葉に詰まっていると美佳が言葉を受け取る。
「裕紀を通して私も見たわ、霊力の上がっている裕紀はこの場に残る霊気をもとに過去を霊
  視したのだと思うわ。裕紀の祖先、あの老人は少年を助けようとしてここで阿部一族に敗
  れんだわ」
裕紀も美佳の言う通りだと思った。あの男の操っていた小さな鬼は阿部晴彦の出現させた鬼
とよく似ていたし、老人の顔は僕の祖父とも似ている気もする。阿部一族は何故、裕紀の祖
先を根絶やしにしようとしているんだろうか?神野一族も八雲一族と同じような運命を辿る
のだろうか?少年を囮にしてまでも戦いに勝とうとする阿部一族のやり方には我慢が出来な
い。神野一族と阿部一族の抗争の中、裕紀には何が出来るのか考えていた。

裕紀と美佳は、この場に花を供えると急いで八雲神社に向かった。参道を上り境内に入ると
そこには古びた神社があった、人々に忘れ去られた感じのする神社は寂しい思いがする。特
に裕紀となんらかの関係があるだろう神社が時代に忘れられている現実は裕紀の心を寂しい
ものとしていた。

「手がかりはなにもないわね」
といいながら美佳は小高い丘の上って行った。
「裕紀!!これさっきの石じゃない?」
美佳は生い茂った雑草に半ば埋もれた平たい石に手を触れ刻まれた文字を読もうとした。
「きゃー!」
美佳の髪の毛は逆立ち、霊気が石の中に吸い取られだした。
「早く、離れて!」
裕紀は叫んだが離れることが出来ないらしい。小高い丘を急いで上り美佳のところに辿り付
いた時彼女は白い目を見開き呼吸を止めていた。
「さーーーやーー・・・・」

「手がかりはなにもないわね」
と美佳は小高い丘に登ろうとしていた。(あれ?今、この光景)裕紀は思わず美佳を呼び止
めるが彼女は聞こえないかのように小高い登って行く。裕紀は美佳に向かって走った。
「裕紀!!これさっきの石じゃない?」
美佳は平たい石に刻まれた文字を読もうと手を触れた。
「危ない!」
裕紀は美佳を突き飛ばした。彼女は突然、彼に突き飛ばされ尻餅をついてしまった。
「なにするの!」
美佳は裕紀を睨みつけたがすぐに事情がわかったようだ。石のすぐ側に立っている裕紀の身
体から霊気が石の中に吸い取られていたのだ。
「裕紀早くそこを離れて!」
声は聞こえたのだが身体は金縛りにあったようにまったく動かない。霊気が底をついたのか
僕の身体から白い霧が出なくなると同時に気を失ってしまいその場に崩れ落ちてしまった。

「うっ、うぅぅ・・」
「大丈夫?気が付いた?」
在り来たりの言葉で裕紀を覗き込みながら美佳が話し掛ける。
「あぁ、多分」
「ありがとう、裕紀が突き飛ばしてくれたおかげで私はなんともなかったわ」
「でもどうしてわかったの?」
裕紀が直前に見た光景の話を彼女にすると肯くように彼女は話した。彼の霊力は相当成長し
ており、特に陰陽道でいうところの陰霊的な霊力が成長しているというのだ。簡単に言うと
防御系の霊力らしく鎌倉街道でおきた霊視や今のような予知能力がそれらに当たるらしい、
その外にもキズや体力を回復するヒーリング系のものもどちらかと言うと陰霊で女性の霊師
に多くみられるとのことだった。
「とにかく出直しましょう」
裕紀は美佳に手を取られ起きようとしたが目眩が襲って来た為に彼女の胸に倒れ込んでしま
った。
「すごい熱!」




やっとの思いで美佳の部屋まで帰り着いた。依然、裕紀の熱は高く節々の痛みが彼を襲って
いた。裕紀は彼女のベッドに寝かされやっと眠りについた。
目が覚めたのは日曜日の夜7時だった。丁度24時間寝ていたことになる。枕元では美佳が
ベットにもたれて居眠りをしている。付きっ切りで裕紀の看病をしていたのだ。そっと手を
出し彼女の小さい手を握った。裕紀の手は大きくて浅黒い手に戻っていた。布団の中を覗き
込むと彼の全裸がそこにあったがバストの膨らみは消えていた、その変わり股間には男性自
身が存在していたのだ。寝ている間に変態をはじめた裕紀を見て下着を脱がせたのだろう。
身体が汗でベト付いてないところをみると美佳は裕紀の全身を拭いてくれたと思われた。
「うーん・・・、あっ、お目覚め?元の身体に戻ったね。おめでとう」
美佳の推測では、あの石は八雲一族復活を恐れた阿部一族が霊力を封印する為に設置したも
のだそうだ。それが井戸のあった場所から今の八雲神社に移されてしまい封印力が弱まった
為に八雲一族である裕紀に時を経て霊力がよみがえったらしい。しかし、今日、再びあの石
に近づいた裕紀は霊力をすべて吸い取られてしまいった。阿部晴彦の術との相乗効果により
成り立っていた変態は彼の霊力が無くなることで形態を維持出来なくなり身体は元の男に戻
ったとのことだった。

「それじゃ、僕の霊力は失われてしまったのか?」美佳は肯く。
「代体は出来るのか?」
「たぶん、霊波は同じだから相性は変わらないわ。」
裕紀はしばらく考えた後に彼女に話した。
「変わっても良いよ。」
「今の僕じゃ、足でまといになるだけだし。女の子の体にされた時に後悔をしていたんだ」
「こんなことになるんだったら早く美佳にこの身体をあげておけば良かったって」
「そしてもし元に戻ることが出来たら美佳に進呈しようと心に決めていたんだ」
阿部晴彦が現れる前に・・・・と裕紀は美佳に告げた。
「ありがとう。」
「その前にもう一つお願いがあるの」
美佳は、突然、着ている服を脱ぎ捨てベットに入り込んで来たのだ。
「私もこの身体とはお別れしなきゃならないわ、最後に女としての喜びを味わいたいの」
美佳の気持ちを理解した裕紀は肯くと彼女の耳元に軽くキッスをした。


         青少年も読めるようにここは省略しました。(誠に残念なことです。笑)


何度かの絶頂を迎え最後の絶頂を彼女が迎えてた時入換えが起きた。「ぁあっ!」裕紀は思
わず美佳の変わりに声を出した。美佳の身体全体に余韻が残っており、ずっとこのままでい
たい気持ちで一杯だ。しかし、美佳の指はそれを許してくれない。ついさっきまで自分の身
体だった裕紀のことは全てを知りつくしているのだろぅ。次から次へと感じる部分を的確に
責めてくるのである。
「おねがい・・・・」
裕紀はどうにでも取れる言い方で美佳の行動に従った。彼女は裕紀の言葉を肯定的に取った
のか、彼を四つん這いにさせると後ろに回って腰にその大きな手を当てた。


         またまた、省略です。(これでは読者は欲求不満に?)


二人は全裸のまま、深い眠りに落ちて行ったのだった。