化学物質のリスク(極めて単純な推定法の例)/問題編

資料:松崎早苗,「えんとろぴい」,1997年8月号,p.7,エントロピー学会

Q.以下の「ダイオキシンとのリスク比」の空欄を埋めてください.
  ◎ リスク=年間総排出量/ヒト毒性パラメータ としてダイオキシンの値との比を算出(概数で).
    ※毒性パラメータが小さいほど毒性は大きいので,リスクは毒性パラメータに反比例するとして計算.

化学物質 ヒト毒性パラメータ 年間総排出量 ダイオキシンとのリスク比 LD50(mg/kg,経口)
ダイオキシン 4×10-9 mg/kg・日 10 kg (1 と置く) 0.022;マウス
塩ビモノマー 3.5×10-3 mg/kg・日 3×106 kg   500;ラット
トルエン a 4.3×10-1 mg/kg・日 5.3×106 kg   5000;ラット
ベンゼン b 2.6×10-3 mg/kg・日 4.3×106 kg   3800;ラット
p -ジクロロベンゼン c 2×10-1 mg/kg・日 2.9×107 kg   2950;マウス
500;ラット
シマジン d 2×10-3 mg/kg・日 4.1×106 kg   5000;ラット
ベンゾエピン e 6×10-3 mg/kg・日 1.3×106 kg   43;ラット
フェノール f 6×10-2 mg/kg・日 2×105 kg   530;ラット
ジクロロエタン g 1.4×10-2 mg/kg・日 1.4×106 kg   770;ラット

a)ただし,工業的に生産しているところからの排出だけをみており,ガソリン等を燃した場合の発生量はまったく入れていない.自動車排ガスから出る最大の炭化水素はトルエンであるが,その総量はまだ計算されていない.
b)トルエンの場合と同様にここでは考慮していないが,自動車排ガスから2番目に多く出るのがベンゼンである.
c)この物質は防虫剤などとして最終的にすべて環境中に出てしまうと考えて生産量を排出量とした.この物質の使い方は閉じた室内で使用されることが多いので,実際の曝露量は桁違いに多いであろう.
d)農薬であるので,生産・輸入総量を排出量とした.
e)殺虫剤,生産・輸入総量を排出量とした.
f)合成原料,消毒剤
g)塩ビモノマー合成原料

◎毒性パラメータ;オランダCML・RIMV 著,松崎早苗 訳,「有害化学物質のLCA インパクト・アセスメント」,産業環境管理協会(1997)  《p.75付録BのADI(一日摂取許容量)またはTDI(耐容一日摂取量)の数値より》
◎国内生産量;化学工業日報社,「12,695の化学薬品」,1995


※上記は,回収・クローズドシステム利用などによる環境中への放出の制御や,環境中での分解・変化(さらに危険な化合物になる場合も考えられるが)などによる曝露量の変化などを考慮していない,ごく粗い計算である.


原報では 1×10-8 mg/kg・日(10 pg/kg・日).ダイオキシンの耐容1日摂取量(一生涯毎日摂取しても健康に悪影響を及ぼさないと考えられる量,TDI)は旧来1×10-8 mg/kg・日(10 pg/kg・日)であったが,WHOが 1〜4 pg/kg・日という指針を出したことから,国内でも1999/07/12に衆院本会議でTDIを 4×10-9 mg/kg・日(4pg TEQ/kg体重・日)とするダイオキシン対策特別措置法が成立したのを受けて(関係各省庁共通パンフレット『ダイオキシン類1999』参照),新しい値で計算することとする(環境ホルモン情報参照).また,ダイオキシン類にはコプラナーPCBも加えることが決まったため,環境中に放出されるダイオキシン類の量は上記の 10kgよりも多くなると考える必要がある(ダイオキシン類の毒性等価係数参照).
トルエン,ベンゼン,p -ジクロロベンゼンなどは最近問題になっている「化学物質過敏症」の原因物質とも考えられており,室内空気が高濃度で汚染されている場合が少なくないとされる(化学物質過敏症情報参照;分子表示プログラムのChemscapeChimeが必要).
大気中のベンゼン,トルエンについては上記のように,自動車の排気ガスからのものも無視できないが,横浜国立大学環境科学研究センター「今日の大気汚染」で大気中のベンゼン濃度実測値等を参照することができる.
詳細なリスク計算については例えば,横浜国立大学大学院講義「環境リスクマネージメント」中西準子さん )参照.
LD50 は,ページ作者(本間)が付記した.同じ物質でも動物の種類によって毒性が異なることに注意する必要がある(環境省の資料例参照).


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