Psychic TVの中のITN? |
GooGleなんかでIn the nurseryを検索すると、他にまぎらわしい物も多数出てきます。まあ一番多いのは純粋に子供部屋という所で引っかかってしまう場合なんですが、中には同じミュージシャンで引っかかるという事も。
例えばLegendというヘビメタバンドが、「Death in the nursery」なんてなんともいかがわしいタイトル(笑)のアルバムをリリースしているんで、良く出てきて困ります(爆)。しかもITNのデビューした年にリリースデビューしてるし。まあジャンルがまるで別なのでお互いとやかく言う筋合いはありません。
後、良くでてくるのがPsychic TV。元スロッピン・グリッスルのメンバーが設立したインダストリアルバンド。彼らのセカンドアルバムにズバリ「In
the nursery」という曲が収録されているため、検索で良く引っかかります。リリースが83年なのでITNのデビューより後ですが、まあ単なる偶然でしょう。
しかしお互いにイギリスのバンドで同じ時期に活動し、同じくオルタナ系のバンド。実はそんなに無関係じゃないのかもしれなかったり。
当時オルタナ系のサウンドを追いかけていた私は当然このPaychic TVも気にかけていましたよ。でもどちらかというとオルタナバンドの中ではメジャーな存在だった事も災いして、まあ無理に注目する事はないかな、と私はそんなに真剣には追いかけてはいませんでした。
でもまあ何枚かアルバムは持ってますよ。この「In the nursery」が入った「Dreams
less sweet」とか。後ハウスミュージック化してしまった頃のも一枚あったような気がしたけど売ってしまったかも。
この「Dreams less sweet」というアルバム、世界でも珍しいフォロニクス・システムという録音技術を使ってレコーディングされたというのがウリでした。このフォロニクス・システムというのはイタリアのズッカレリ博士があみだした音響を3次元録音するというシステム。つまり音が上下左右に自在に動くという、3Dサウンドを実現したもの。非常に優れたシステムなのにも関らず、技術を公開することなくその後誰にも貸し出さなくなってしまったため、これで録音された音源はわずかしか残っていません。
この「Dreams less sweet」はその技術を全面的に使った非常に貴重なアルバム。確かに聞いてみると音が立体的に聞こえ、かなりの臨場感です。
ただ、さすがに今聴くとさほど衝撃度は高くないというか、最近の他の3Dサウンドと大差ない感じにはなってしまったと思います。しかしこれが80年代初頭での録音と思うと確かに驚異的な音だと言えましょう。
このアルバム、彼らのスタンスに忠実な、ノイジーで陰湿きまわりない曲もあるかと思えば妙にポップだったり、ミニマルサウンドな曲もあったりと結構バラエティに富んでいます。フォロニックスサウンドを活かしてFX的なトラックも多く、新しい技術の機械を目の前にして無邪気に試し遊んでいる姿が目に浮かびます(笑)
ちなみに「In the nursery」はアルバム中最も陰湿で不気味なノイジートラック(爆)。あと地味にあのAndrew
poppy(!)が参加していたりします。
Psychic TV / Dreams less sweet |
まあそれはともかくPsychic TVの話を。スロッピン・グリッスルを生み出し、Psychic
TVのリーダーでもあるジェネシス・P・オリッジ。インダストリアルミュージックの生みの親とも言える、ノイズ・インダストリアルの重鎮といえる人物ですが、とにかく奇行が多いことでも有名で、それ故に誤解を招き、一時は国外追放になった事もあるほど。狂人チャールズ・マンソンにシンパシーを感じ、自らも宗教団体を作ってしまうし、でも言ってる事は結構マトモだったりする。よく分からない人物。
ただ当時のインダストリアルやオルタネイティヴといったジャンルのトータル・イメージを決定づけた事は間違いないでしょう。パンクの精神を受け継ぎ、反骨精神と社会に対する不満をぶちまけ、疑問と怒りを投げかける。いわゆる芸術のテロリズムというヤツで、今までの常識を全て否定して何か新しい事をする、という鼻息荒さが特徴でした。
このただならぬ雰囲気に惹かれて一時はこういったオルタナ・ミュージックを追いかけていた私ですが、その後急激に興味を失っていきます。これは、ほとんどのオルタナバンドがその後方向性を変え、守備範囲外に行ってしまった事や、活動を停止してしまったりした背景も少なからずあるんですが、やはり自分自身がオルタナミュージックの放つ独特の雰囲気についていけなくなってしまったのが最大の要因。
私が特に熱心に聴いていたのはIn the nurseryは勿論のこと、Testdept、Laibach、元Psychic
TVのメンバーによるCoil、Dead can dance、Front242、有名なE. Neubauten、Klinik、Edward
ka-spelなどなど。まあどちらかというとオルタナの中では有名どころが多かったですかな。結構最近まで追いかけていたのもありますが、もうほとんどは追いかけていないか、バンド自体が消息してしまったかです。
Psychic TVやスロッピン・グリッスルが持っていた背徳的で暴力的なネガティヴイメージは、当時としては受け入れられたんでしょうが、さて個人的に今見ると、もうどうにも古臭く感じる上、反社会的なアプローチが逆にうそ臭く思えるようになってしまいました。元々そういった暴力的表現が好きだった訳ではないので、年を追うごとに違和感が増していったのでしょう。
いまだに反キリスト的イメージとかをひけらかすようなアーティストを見ると、「ああ、そうですか・・・・良かったですね・・・」といった位の感想しか持てません(笑)。もうなんだかワザと悪ぶってるようにしか見えんのですわ。
私が昔オルタナにどっぷりとつかっていたが故に、逆に気持ちが裏の裏まで回転してしまった結果とも言えなくもないですが、今時それはないでしょう、みたいな。 まあ最近のは既に様式美化してる感もありますがね。
あの頃のオルタナバンドがその後テクノの方向へ行ったり、サントラ方面に行ったりして路線変更したのは、やっぱり自分達の表現方法を常に模索していたからなんでしょう。最初からこういった音楽をやりたいっていうのでは無くて、とにかく自分がクリエイトしたい物が表現出来る方法を探していた。だから様々な実験を試みたし、いい方法が見つかればファンの気持ちがどうだろうと構わず路線変更した。様式美に囚われた現在のバントとは根本的にそこが違うと思います。まあファンとしては実にありがた迷惑な話なんですが(笑)
ITNも模索の末、自分の表現方法を見つけて今はそれを探求し続けています。その方向性がたまたまフィットしたおかげで唯一今でも私が熱心に聴いているオルタナバンドな訳ですが、当時のファンのほとんどはその変化に順応出来なくて、他のアーティストに流れていくか、ファンを止めていってしまうかのどちらかでした。
インダストリアルやオルタネイティヴといった音楽は、当時エネルギーがあり余っていた若者達がやりたい事を見つける為の旅だったのでは、というのが私の推論。だから今でも全く同じものを彼らに求めるのは酷というものです。最近スロッピン・グリッスルが再起動したり、フロント242とかが久々にニューアルバムを出したりと、密かにオルタナバンドのリバイバル化が起きているんですが、個人的には、本当にそれでいのかな・・・・という迷いがあるのは事実。あの頃の強いエネルギーをまた放出しようという試みは良いんですが、当時と同じ手法を用いて繰り返すのはオルタナの精神としては逆行しているようにも思えます。
現在のITNは過去のやり方を捨て、自分たちが追い求める音楽を目指して突き進んでいるため、ある意味オルタナの精神を持ってはいますが、もはやそこに混沌も攻撃性も実験精神も無いので、早々とオルタナのイメージを捨ててしまったとも言えます。
でも、それでよいのではと。他のいくつかのオルタナバンドも、路線変更しても相変わらず地味に作品を作りつづけ、メディアやファンから完全に置き去りにされても自分がこれだ、と思うことをやっている。それによって私の守備範囲から外れてしまったとしても、彼らは常に新しい物を求めているのだから何も言うまい。
当事からやってる事がほとんど変わらない様式美化したバンドも好きでやっているんでしょうから、これまた文句言われる筋合いは無いはず。別にこうしなきゃならないなんていうお節介は不要な訳だし。
うーん・・・・とは言ってみたものの、現在になってもなお死だ、暗黒だ、恐怖だ、血だ、とかいってシャウトしているのを見ると・・・・・・。
もう私は暴力も人の悲しみも恐怖も見たくない。いつまでもそんな所にいちゃ駄目だ。これは次へ進んで進化するためのステップだ。いつまでもステップを眺め続けていてはいけない。
まあオルタネイティヴなサウンドを私が聴かなくなったのはやっぱり、その牙をむいたような攻撃性にうんざりしてしまったってのが最大の理由。歳を食ったってのも少なからずあるのか、まあ色んなタイプの音楽をむさぼるように聴いていて、その結果、結局最後に残ったのは「奇」ではなく「美」だったってことなのか。
最後に言っておきたかったのは、例のジェネシス・P・オリッジの事。この男、実は結構したたかなヤツなんじゃないかと勘繰ったりもしてるんですが、でもやっぱり思うのは、この人、目がイっちゃってる。
ジャケットの写真や公開されるポートレイトなんかを見てると、とにかくどの写真も皆、彼の目は鋭くこちらをにらみつけている。まさにそれは狂気の目。
以前、TVで、目を見るだけでその人物が麻薬常習犯であるかどうかを判別出来るという有名な警官を紹介していた事があるんですが、この人によると、もう目が「麻薬やってます」と訴えかけているそうで、まさに目は口ほどに物を言うというヤツです。
別にオリッジが麻薬をやってるかどうかとかは関係なく、要はその目が人間の精神状態を如実に表わしていると思う訳です。彼のあの狂気の目を見るたびに、何か言いようのない悲しさを感じてしまいます。私が追いかけてきたもの、興味を持っていたものは所詮狂気だったのか。
まあもしあれが写真用の演出だったとしたら、そのしたたかぶりに逆にあっぱれなんですが、絶対自だわなありゃ。
それと、今回こういうネタを書くにあたって少々情報を調べてたら、またタイムリーな事に出くわしてしまった・・。つい最近、COILのリーダーだったジョン・バランスが亡くなったそうです。不慮の事故死だそうな。なんでこう何か書こうとするとそれにまつわる何かが起こってしまうのかなあ。嫌になる(悲)。
Coilのアルバムも初期の物は結構聴いてたんですよね。やっぱり攻撃的な内容だったけど、色んな要素の入った万華鏡のような趣向があった。Psychic TVにおける音楽性は彼による所が大きかったんでしょう。 ご冥福をお祈りします。