演 題  分子表示プラグインを利用した分子振動アニメーション
発表者
(所属)
 ○本間 善夫,吉田 弘*,松浦 博厚*
 (県立新潟女短大・*広島大院理)
連絡先 〒950-8680 新潟県新潟市海老ケ瀬471 県立新潟女子短期大学
 TEL:025-270-0299 FAX:025-270-5173
 E-mail:honma@muf.biglobe.ne.jp
キーワード 分子振動,アニメーション,密度汎関数法,Gaussian 98,振動スペクトル,赤外・ラマンスペクトル,plug-in(プラグイン)
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
 Gaussian 98で計算した分子振動データをフリーソフトウェアにより分子表示プラグイン用のアニメーションデータに変換し,動画で参照できるようにした。
環 境 適応機種名 インターネットとChemscapeChimeが利用可能なパソコン
O S 名     
ソース言語 HTML
周辺機器  
流通形態
(右のいずれ
かに○をつけ
てください)
・化学ソフトウェア学会の無償利用
 ソフトとする
・独自に配布する
・ソフトハウス,出版社等から市販
・ソフトの頒布は行わない
○その他     ・未定
具体的方法

以下のサイトで順次データを公開。
Webページ「分子振動データ集メニュー」
 http://www2d.biglobe.ne.jp/~chem_env/mva/vib_menu.html

1.はじめに
 分子振動に起因する赤外・ラマンスペクトルは,異なった化合物でも同一の原子団(官能基)がほぼ等しい振動数で吸収・ラマンシフトを示すことから分子構造を知るための有用な一手法となっており,その振動数は,原子の質量,化学結合の強さ,分子の幾何学的形状に依存していることが知られている1,2)。近年は分子軌道法や密度汎関数法などの計算化学的手法によって振動スペクトルを求める研究も進んできており,実用的なレベルで極めて高精度の予測が可能であることが知られるようになった3)
 本研究では,Gaussian 98を用いB3LYP/6-311+G**レベルで計算された約200種の化合物の振動スペクトル4)について,計算出力ファイルから分子表示プラグインChemscapeChime用のアニメーション表示データを作成できるフリーソフトウェア5)を使って変換作業を行い,Web上で多数の振動データを動画で参照できるようにしたので報告する。多くの解説書では分子モデル図と矢印によって示される分子振動を可視化できることは,化学教育の場でも大きなメリットがあり,対称性など分子の形の重要性を理解する上でも役立つものと考える。

2.Web版分子振動データ集の作成
 用いたGaussian 98出力ファイルは構造最適化部分と振動解析部分からなり,エディタで後者を切り出してフリーツール5)により変換してアニメーション用ChemscapeChimeデータ(拡張子xyz)を得ることができる。これを用いて図1のようなフレーム型のデータ集を作成し,各化合物の波数(計算値)をクリックすれば3次元モデルを表示して,ボタンで振動開始・停止や静電ポテンシャル表示などができるようにした。これにより,例えばC−H伸縮振動が特定の波長域にあることや,二酸化炭素のような無極性分子でも振動によって瞬間的に双極子になることなども理解できる。

図1 分子振動モデルデータリストの表示例(英語版;表示分子はfurazanの場合).

 さらに分子の構造別に基準振動の種類が決まり,各振動数は構成原子の質量に依存することを示すために,XY2直線分子,XY2二等辺三角形分子,XY4正四面体形分子,X6Y6ベンゼン形分子など,文献6)でよく用いられる区分にしたがってデータをまとめて表示するなど,赤外・ラマンスペクトルに対する理解を深めるための教材コンテンツも作成している。図2はXY3ピラミッド形(三脚形)分子の表示例である。

図2 分子振動モデル表示例(XY3ピラミッド形分子;NH3とPH3).

3.おわりに
 アニメーションで分子振動を参照できるWebページを作成し,公開した。今後も掲載化合物数を増やし,分子振動や赤外・ラマンスペクトルの解説を加えたコンテンツも追加していく予定である。

    参考文献・Webページ
  1. 水島三一郎,島内武彦,「赤外線吸収とラマン効果」,共立出版(1958).
  2. 松浦博厚,田隅三生,'Force Fields for Large Molecules' in "Vibrational Spectra and Structure", J.R. Durig (Ed.), Vol. 12, Elsevier, Amsterdam, pp.69−143 (1983).
  3. 松浦博厚,吉田 弘,'Calculation of Vibrational Frequencies by Hartree−Fock-based and Density Functional Theory' in "Handbook of Vibrational Spectroscopy", J. Chalmers and P.R. Griffiths (Eds.), Vol. 3, Wiley, Chichester, 印刷中.
  4. 吉田 弘,江原明人,松浦博厚,Chem. Phys. Lett., 325, 477 (2000).
  5. http://www.chem.umass.edu/~nermmw/Spectra/
  6. 例えば,日本化学会 編,「改訂4版 化学便覧 基礎編II」,II-581,丸善(1993).


●本稿は化学ソフトウェア学会2001年度年会における講演305(2001/09/30発表)の要旨を,年会実行委員会のご了解を得て転載したもので,以下で発表後の追記を行う予定です(上記本文は加筆・訂正していません).

【発表後の追記】


化学ソフトウェア学会2001年会筆者のサイト