
| ファンとしてなすべきこと |
何かのアーティストの熱狂的なファンになった者ならば、そのアーティストの作品をもっと多くの人達に見てもらいたい、聴いてもらいたいと思うのは自然な流れだろう。それが故に熱心なファン達は、こぞってネットにファンサイトを開いて積極的にコミニュティを開いたりしている。
面白いもので、ファンサイトを開いた人達の多くは、そのアーティストがどんなにメジャーで有名でも、思ったほど世間に浸透していないと思っているようで、意外と肩身の狭い思いをしているようだ。もっともアーティストが有名ならばそれだけ反響も大きいはずなので、ファンサイトは活気に満ちあふれるのだが、それでもファンサイトの役割というものにも限度があり、管理者が期待しているような「世間浸透」には遠く及ばないのが実情のようだ。
こんなに有名なのにこれ以上どうしようって言うんだよう、それにひきかえ・・・・と、私のようなITNファンは思わずねたみもしたくなってしまうのだが、どんなファンであれ、意外と知られてない、と思ってしまうのはまさにファンの悲しい「サガ」と言えよう。
しかし、In the nurseryはもう間違いなく「意外と世間に知られてない」どころの話じゃない(笑)。それ以前に間違いなく知られていない。多分私も含めて、数少ないITNファンは誰しも同じ事を思っているはずである。「多分こんな曲を聴いているのは私くらいのものだろう」と。
しかも、ITNの作り出す音楽がいくら美しいとはいえ、結構中庸的でマニアックな部分も多い事は重々承知しているので、私個人はITNを他人に強く薦めるような行為は殆どやっていない。たとえ仮にやったとしても「ふ〜ん」くらいの反応しか返ってこないのがオチだと思ってしまっているからだ。要するに個人的には好きだけど、他人には薦めないね、という事になってしまう。 うむむ、ファンとしてこれでは失格である。
しかし、ここまで無名が続くアーティストのファンの心情からすると、どうしても他人に薦めるのには勇気がいるというか、それがおっくうになってしまうというのが本音だ。実際私自身、結構そういったたぐいの「微妙」なラインのマニアックな作品を好む傾向があるので、なかなか理解されないというのが日常的にあり、それが慣れっこになってしまって自分だけ楽しんでそれで自己完結してしまう事が往々にしてある訳である。
もちろんこの世の中は広いから、マニアックでアンダーグラウンドな物を好んで購入する変わり者も少なくはない。しかし、彼らのような者達が求める物はもっと刺激的でサブカルチャー度が高いようなカルト作品であり、その点でいうと、マニアックだけど妙に美しくて聞きやすく、中庸的な香りの漂うITNははっきりいって彼らの要求を満たせないんだろうなあ、とも思える(満たすようになったらそれはそれでイヤだけど(笑))。
だから私はマニアックな人にすらITNを薦める気が失せてしまっているのである。それは、一体どういった人種の人達に向かってITNを薦めれば良いのだろう?という迷いがあるというのも理由の一つだと思う。とかくITNの音楽はどういうジャンルで捉えていいものか分からなくなるからだ。
そもそもITNはオルタネイティブから出てきたバンドで、当初ゴシック系パンクの香りを漂わせていた事もあって、未だにそんなジャンルで語られる事が多い。例えばListenJapan何かではゴス系等のジャンルに収まっている。もちろん、これは別段間違ってはいない。実際当初はそのイメージが強かったし、現在の彼らのサウンドにもそういったニュアンスが全く無いとは言えないし。しかし、他のゴス系バンドと比べてしまったら、ITNは明らかに異質だ。はっきり言って浮いている。他のバンドと比べて憂鬱や陰湿といった概念が欠けているからである。だからゴス系好きの人間がはたして満足出来るような内容をITNが持っているのかというと、やはりちょっと疑問を感じてしまう。
逆に言うと、ITNのような美しいサウンドを求めているような人が、ゴス系と聞いただけでそこを素通りしてしまっていないかと心配もしてしまう。勿論ゴス系は世間が思っているほど不気味なものばかりではないのだが、やっぱりイメージとして「恐い」「憂鬱」「カルト」の3つがついてまわってしまうので、一般の音楽ファンは避けて通ってしまう事が多いと思うのだが・・・。
最近のITNはヒーリングミュージックやアンビエントの要素も高いため、そういう切り口で捉えるのが実際もっともしっくりいくやり方なのかもしれないが、かといって世間一般が思っているヒーリングミュージックとは明らかにITNは違うような気もする。だから、こういった切り口でITNを紹介している所はほとんど皆無といっていいかもしれない。やっぱりITNというといまだにゴス系、ダークサイドなのだ。しかし、実際のゴス系ファンの間でITNがどう捉えられているのか分からないので、はたしてどこまで正しい解釈なのか、自分でも全く分からない。
ファンとして、ITNはこういうたぐいの音楽だから、こういうのが好きな人に是非お薦めする!と高らかに宣言すべきなのだが、当のファン本人がITNの音楽をどう捉えて解釈していいのか未だに分からないままで、「で、結局ITNってどんな音楽なんでしょうかね?」 と逆に質問してしまっているようななんとも情けない状況なのである。
うむむ、やっぱりファンとしてこれでは失格である。
まあ人間というものはなにかとジャンルに当てはめて物を考えてしまいがちな性分なので、よくアーティストは何かのジャンルにひとくくりにされるのをとかく嫌うものだ。しかし、やはりなにか「指針」たるものがないと、購入を考えているユーザーは何を頼りにしたらいいのか分からない。だから私は良くITNに適切なジャンルを探しているのだが、どうにもどこも収まりが悪い。間違ってないけど、直球ど真ん中でもない。そんなのばっかりである。
いっそのことITN系とかいうジャンルを作るしかないのだろうか。ただし残念ながら私はITN以外にITN系なアーティストをあまり知らないのだが・・。
HMVやアマゾンなんかのサイトを見ると、アルバムごとにユーザーがコメントを付ける事が出来るようになっている。そのため、ビートルズのような超大物アーティストになると、それはもう大量のコメントが付けれられていて、一度に読むことが出来ない程だ。多少マニアックなアーティストでもたいがい誰かがコメントを付けているようだが、ITNに関して言うと、それはもう見事に誰もコメントしていない。やっぱりこういう書き込みがあるないで人気度・認知度が決まってしまう感があるので、こういうのを見るにつけ、いかにITNがないがしろにされているかがわかろうと言うものだ。
ファンとしてこの現状を無視出来るハズがない。だから私がコメントしても良いのだが、私がコメントしたってのがどうせバレバレだし、一体どういう推薦文を書けば良いのやら。私の事だからつい推薦してるとはとても言い難いようなネガティヴコメントを書いてしまいそうで恐い。だからこれは他のファンの方々に是非お願いしたい。
結局他力本願である。うむむ、やっぱりどう考えてもファンとしてこれでは失格である。
もっと多くの人達に聴いてもらいたい、というのは切なる願いではあるが、その願いがかない、たくさんの人々に知られるようになり、一気にメジャーへと昇格していったらいったで、逆になんかさみしい気持ちがもたげるのもまた、ファンの悲しい「サガ」であると思う。実際、昔から好きだった「ディヴァイン・コメディ」とかが世間で大ブレイクした時は何故かちょっと寂しかったし、興味も薄れてしまった。世間に知られるという願いが叶うかわりに、「私だけのプライベートミュージック」という特別な思いが失われる事になるからなのだろうか。
しかしITNに関して言うと、あまりにも認知されなさすぎなので、やっぱりそれでももっと多くの人達に聴いてもらいたい、という気持ちは変わらないままだ。何故なら私の知るマニアックな音楽の中でも、ITNだけはそのまま埋もれるのにはもったいない、素晴らしい美しさがあるからである。万人にも充分受け入れられる素質もまだあると思っているし。
だから自分だけの音楽という物を失う可能性があったとしても、やはり何かしなくては・・・・と思っている今日この頃である。
しかし多分腹の中で、たとえそれでもメジャーになることは絶対にないんだろうな、という変な安心感があるからそう思えるのかもしれないが・・・・。
全くもって失礼である。うむむ、くどいようだがファンとしてこれでは失格である。