第3章 屈辱的な再会


単調な仕事が毎日続き仕事に生きがいも感じない日々なのですが辞めることが出来ません。
なぜなら、大学を卒業する時に故郷に戻れと言う両親の申し出を振り切って東京に残った手
前生活費を自分で稼ぐ必要があったのです。特に最低料金の登録である私は働いても働いて
も貯えが出来ず日々の生活に追われてしまっていたのです。それと少し恥ずかしいのですが
最近では男性の視線が少し快感になって来てしまったのです。そこには見られていることを
意識しているもう一人の自分がいました。

私の職場には派遣社員が他に二人いて一緒に昼食をとるのが日課となっています。その時の
話題はほとんどが流行の服や髪型、ブランド品の話やテレビドラマの話など他愛もないこと
なのですが成海さんに言わせると「麻衣は4年も大学にいてなにも知らないのね」と馬鹿に
します。特にメイクの話をしている時など私の顔を見ながらふたりでいろいろアドバイスを
してくれます。ある時、ついにはトイレに連れていかれ実地訓練をさせられました。
私の顔は童顔なのでナチュラルをベースにして口紅を鮮明にするそうです。すると幼い顔と
セクシーな顔が同居して男性の目は釘付けになるとのことです。確かにトイレから出たあと
明らかに男性が私を見つめているようなのです。

確かに今の自分にとっては成海さんの知識の方が役に立つし、今まで学んで来た知識は殆ど
役に立ちません。以前では心の中で馬鹿にしていたタイプの女の子から逆に馬鹿にされるこ
とに初めは少し抵抗もあったのですが、最近は素直に受け入れられるようになってきました。




そんなある日のことです。私の運命を変えた斉藤さんが再び目の前に現れたのです。
いつものように成海と美紀と三人で食事をしてる時のことです。話題は今年の新入社員の話
になったのです。
「今年の新入社員見た?つぶが揃ってるらしいわよ。」と美紀が話しだしたのです。
「そうみたい、ハンサム系が多いみたいね。私はハンサムはパスだわ」と成海。
「女の子じゃないんだから顔よりも、仕事が出来て、お金持ちじゃなきゃだめよ」
「もっとも性格が悪いのはパスだけどね。麻衣は?」と続く。
「私も成海の意見に賛成かな(笑)」
「それだったら、斉藤さんなんかがピッタリかもね、仕事は出来るし早慶大学出身で
将来有望みたいよ。実家は長野で名門らしいわ」と美紀。
「チェック早いわね(笑)。あっ、噂をすれば・・・・」と成海。彼女のの視線を追うと、
紛れも無く、あの彼がそこにいたのです。なんで?・・・・・これは後でわっかたのですが
スキャンダルで私を推薦できなくなった先生はこともあろうか彼を推薦しらしいのです。

私達の視線に気がつくと彼はこちらに近づいてきました。
「やぁ!麻衣子、君もこの会社だったんだ?」と言いながら私の制服を嘗め回すのです。
「えぇ、先月からご厄介になっています」(よく私の前に姿をみせられるわね。)
「そう言えば、派遣会社に就職したって聞いたけど、派遣要員だったの」
「いろいろ、あって。。。」(もともとはあんたが原因なんだろ)
「麻衣、知り合いだったの?」
「彼女とは早慶大学の同じゼミだったんだ」と私の変わりに彼が答える
「うそーっ!、麻衣も早慶大学卒業なの?男漁りばかりしてないで勉強していれば、
今ごろお茶くみじゃなっかたのにね(笑)」
と勝手なことを成海は言うではないですか。こんな立場で再会してしまった私の気持ちも知
らないで。彼も笑っているだけです。
(それって暗黙の内に成海の発言を肯定していることになるわ)。
(少しでも人間の心が残っているなら本当のことを白状しろ)、それどころか・・・
「ファーストインプレッションについて会議用の資料を作って持ってきたんだ。
アッシュ教授の論文みた?」と私に尋ねてくるのです。
「・・・・・・・」答えられない(これじゃ、昔から勉強が出来なかったみたいじゃない)
確かに卒業して半年程度しかたっていないのに、その頃ならスラスラ出ていた専門用語が頭
の中に靄がかかって口から出てこないのです。
「女の子を困らせるものじゃないわ。大学時代はともかく今はお化粧方法など、私達が勉強
させていますから」と美紀までもが言うのです。
「あはは、それの方が今の麻衣子にとっては役にたつのかな?」
(完全に馬鹿にされてる?)

私は優秀な成績で大学を卒業した事実を主張したのですが、それではと成海が彼に質問を出
させたのです。しかし、なにひとつ答えられず、こうなると負け犬の遠吠えに見えてくるの
でしょう。
成海と美紀は「そうそう、きっと夢をみていたのね」などと言うしまつです。
こんなはずでは無かったのに・・・1年前から私の人生は大きく変わってしまったのです。
大学時代とまったく形勢が逆転してしまって派遣要員としてお茶酌みをしている今の自分の
状況を考えると、とても惨めになりこの場を離れたい衝動でいっぱいでした。


その時、遠くで課長が「持田さん!会議用資料のコピーを20部お願い」と私を呼ぶのです。
成海は「ほら、麻衣の天職が待ってるよ」と冷やかすのです。
確かに、今の私にとって出来る仕事はこのくらいしかないように思えてきました。

課長に頼まれたコピーは彼が作成した資料でした。中身を見ようとする私に課長は「大至急
でお願いしますね」と付け加えました。そうです、今の私に求められているものは、言われ
た仕事を素直に何も考えず、テキパキこなす可愛い人形になることだったのです。

私はコピーミスをしないことだけを考え、黙々と作業をはじめました。ふと気が付くと奇麗
にマニュキアが塗られた自分の長い爪を見ながら「次は制服の色と同じにしてみよう」と考
えていました。