臨床実験 Action 3


しばらくすると声が出るようになった。はじめは、これが自分の声?と思う程
細く高い声になっていた。男性だった頃の面影は少しもなかったのである。
自分でも声の響きが不思議でしかたなかった。

「あ〜っ」
「これが・・・僕の??」

女性のような高い声が気になり、無意識のうちに低い声を出そうとしている自
分がそこには居た。しかし、それがかえって宝塚の男役を装っているようで変
なのである。

「あ〜ぁ。」

やはり普通に話した方が、楽であった。もっとも、女医の静香さん以外と話す
機会の無い僕にとって殆ど自分で声を発することもなく気にもならなかったの
だが。

ある日のこと、女医の静香さんが僕にプレゼントだと言って赤いリボンで包ま
れた小さな箱くれた。

「なんですか?これ」
「あら、声が出るようになったのね。笑」
「やっぱり変ですか?僕の声」
「そんなこと無いわよ。とても可愛い声」
「可愛い??」
「きっと男達は美玖の声を聞くだけで感じちゃうんじゃない?」
「そんなぁ・・・」

男性の声であった時と同じように言った言葉が確かに少し甘えた声に聞こえる
のは気のせいだっただろうか。

「ほらっ、その話し方。男性だった美玖の時は気が付かなかったけど男を誘惑
  するような響きね」
「そんなことありません」
「あら、だとしたら身体の変化で自然と男を求めるようになったのかしら?」
「静香さんは僕を苛めて喜んでいます?」
「そんなこと無いわよ。真実を話しているだけ」
「・・・・・・・・」

僕は自分でもどうなってしまったのか分からなかった。静香さんの言う通りか
も知れないとも思うと何も言えなくなってしまったのである。

「この話しは終わりにしましょ。それより、プレゼントを開けてみて」
「はい」

リボンを外し包み紙が破れないように包を開くと、それは下着であった。

「いつまでも裸じゃ恥ずかしいでしょ?」

僕は戸惑ってしまった。全裸でいることに対して羞恥心はあるものの、プレゼ
ントされた下着は明らかに女物なのである。薄いピンクのショーツとブラがセ
ットになっているものだった。

「最近、発売になったマッシュルームブラよ」
「・・・・・・・・・」
「あれ?不服そうね」
「そんなこと・・・ありませんが・・・」
「それじゃ、早く着けてみて」
「えっ?今、ですか?」
「そうよ」
「でも・・・これ・・・」

僕ははじめて女物の下着を身に着けることに恥ずかしさを感じていた。すでに
完全な女性の身体に変化してしまった僕ではあるが、女物の下着を身につける
ことはそれが今の状況を肯定するように感じていたのである。それに静香さん
の前で身につけることへの羞恥心もあった。

「早くしなさい。下着は身体にフィットしていないと良くないから私がチェッ
  クしてあげるわ」
「・・・・・」

僕は包の中からブラを取り出すと羽織っていた毛布を取った。今では膨らんで
しまいすっかり女性の乳房となった胸が静香さんの前で露となったのである。

「美玖のバスト、また大きくなったんじゃない?すっかり女の子ね。揉んだら
  気持ち良さそう」
「やめてください」
「冗談よ」

僕は急いでブラジャーを身に付けたのである。軽い締め付け感と包むような心
地よさが伝わってくる。静香さんは僕に近づくとブラの締め付け具合やストラ
ップの長さを少し調整してくれた。ブラジャーを着けるとバストが寄せられ、
より大きくなったように感じるのが不思議であった。

「ピッタリね。それにとても可愛いわよ」
「・・・・」

男性の僕にとって本当であれば屈辱的な言葉であるなのだが、静香さんに可愛
いと言われ、僕の中で嬉しい気持ちが沸いて来てしまったのである。思わぬ気
持ちが沸いた来たことに僕は戸惑いを感じていた。すでに僕の脳も身体も女性
化してしまったのだと思う。しかし、男であった記憶がその気持ちにブレーキ
を掛け戸惑っていたのである。

「ショーツも穿いておいてね。そろそろ、本当の女になる頃だから」
「本当の女?」
「そう。女になるの」
「??」
「なれば解るわ。笑」

そう言うと静香さんは病院に行ってしまった。




静香さんの言った「本当の女」の意味は翌日、知らされることとなった。

その日は朝から頭も重く憂鬱な気分でベットから起きるのも苦痛だったのだ。
午後になるとその症状は治まるどころか下腹部の痛みさえ覚えたのである。

「う〜ん・・・」

下腹部の痛みを我慢しながらベットに仰向けになり天井を眺め、僕は身体の変
調に不安を覚えながら静香さんの帰りを今は遅しと待ちわびていたのである。
しばらくして陰部に湿った感覚が伝わって来た。僕は掛けていた毛布を退けて
自分の下腹部を確認すると、昨日から身に付けていたショーツは陰部を中心に
真っ赤に染まっているのである。

「えっ?」

不安が全身に過ぎった。明らかに真っ赤なものは僕の血だったのだ。急いでシ
ョーツを脱ぎ、身体に付いた自分の血を拭った。僕のペニスは完全に消失して
おり、そこには手術で開けたホールがある。どうやらショーツを真っ赤に染め
た犯人はそこから溢れ出たようなのである。ティッシュをそこに充てると薄ピ
ンクのティッシュは真っ赤に変わっていった。

(どうしよう・・・)

下腹部の苦痛と不安を抱きながら数時間を過ごしていた。
(僕はどうなってしまうんだ?)
天井が涙で霞んでいた。

「どうしたの?美玖」
その日、静香さんが帰ったのは夜の9時を回っていたのである。僕はいつのま
にか眠ってしまったようである。全身がだるくて眠くなってしまったのである。
しかし、相変わらず下腹部の鈍い痛みは続いていた。

「寝ていたの?私の食事は?お腹がペコペコなんだけど」

そう、僕が女性の身体に変体した日から部屋のキーロックは外され自由に行動
出来るようになっていたのである。そして静香さんとの協同生活が始まってい
た。もっとも僕は外出を一歩もしていない。もっぱら家の家事を行っているの
である。当然、食事の支度も僕の担当である。料理の本を片手に食事を作るの
で時間はかかるのであるが、自分でも予想外に才能があるんではないかと思う。
静香さんは料理を作るのは苦手なようだが、僕の作った食事を美味しそうに食
べてくれるのである。

「それが・・・変なんです。全身がダルくて・・少し熱も」
「えっ?」
「それに・・・アソコから出血が止まらないんです」
「アソコ?」

僕が恥ずかしさに直接表現を避けた為、静香さんには一瞬なんの事かわからな
かったようであったがすぐに気が付いたようだった。

「診せて」

そう言うと静香さんはベットに寝ている僕の毛布を外した。僕は天井を眺め静
香さんの診察が終わるのを不安にかられながら待った。しばらくすると・・・

「あははは・・・」
静香さんが笑っているのである。

「何がおかしいんですか?」
「だって・・・あはは」
「静香さんには他人事でも僕にとっては大変なことなんです」
「ごめんごめん。笑」
「・・・・・・・・」
「悪気はないのよ。美玖の身体の変調は私にとっても重要なことだもの」
「だったらどうして・・・」
「嬉しいのよ」
「???」

「ごめんなさい。これは女になった証なの」
「女の証?」

静香さんの言っていることが僕にもやっと理解出来た。

「美玖は私の考えている通り変化しているから安心しなさい」
「これって・・・女性のアレなんですか?」
「そうよ。病気じゃないのよ」
「・・・・」

「今、ナプキンを持って来てあげるわ」

そう言うと静香さんはナプキンと新しいショーツを持ってくると僕に手渡した
のである。

「付け方わかるかなぁ?教えて上げましょうか?」
僕は顔を真っ赤にして首を横に振った。

「そうそう、今日の夕飯はお赤飯にしましょうね」
「僕が作るんですか?」
「そうよ。病気じゃないんだから。それに美玖は私より料理が上手だもの。笑」

僕はおだてられてお赤飯を作る気になっていた。