第3話 サラリーマン


青山通りに面した10階建てのビルの2階に三谷正美のオフィースはあった。彼は1つし
か無いエレベータをしばらくロビーで待っていたのだが、9階で止まっているエレベータ
のランプはいっこうに降りてくる気配がなかった。仕方なく、隣にある非常階段のドアを
開け重い足取りで上っていったのである。

「今、帰りました。」
三谷正美は通信販売を中心とした中堅ランジェリー輸入業に勤めていた。彼はその中でも
直販を担当しており、扱い商品を置いてもらえるブティックの開拓を担当していた。

「おっ、帰ったか!。大口顧客は確保できたか?」
「なかなか、ダメです。今日も6箇所のブティックを回ったんですが」
藤崎課長に状況を聞かれた三谷は小声で答えた。ここ数ヶ月一件も商談が成立していない
のである。社内では直販部縮小の噂もあり、異動させられるとしたら毎月ノルマ未達成の
三谷はその最有力候補であろう。もっとも彼は今の仕事に執着心があるわけでも無いので、
何処に異動しても良いと思っていた。

「そうか、ダメだったのか。実は君の訪問したブティックARTから電話が入ったんだよ」
「えっ?なんだったんですか?」
「男性のモデルを斡旋して欲しいと言うんだ」
「モデルですか?」
「うちの会社で斡旋したモデルが一ヶ月間、問題無く仕事をしたら全国48カ所にある店
舗にうちの商品を置いてくれるらしい」
「でも、うちの会社にモデルなんていませんよね・・・・」
「ARTでは君を指名して来たんだよ」

端整な顔立ちの美青年を思わせる三谷正美はユニセックス的な美しさを持っている。しか
し、身長162センチで痩せ過ぎの三谷は、プロポーションの良い女性下着モデルの横に
いる男性モデルとしては役不足であろう。

「とんでもない、僕にモデルなんて出来ませんよ。他の人にしてください」
「わかってないようだね。先方は君を名指しで話をもってきたんだ。君が断ると言う事は
この話は無かったことになるんだよ。はっきり言ってこれは君にとって最後のチャンスな
んだよ。今日の役員会議で人員削減の話が出ていて大きなリストラが始まるようなんだ」
「・・・・・クビですか?」
「君だけじゃない。私の立場も危ないんだ。営業の一環だと思ってくれ」
「わかりました。僕は何をするんでしょう?」
「帰って来てすぐで申し訳ないが渋谷のART店に行ってくれないか。私が電話を入れて
おくから」
「今からですか?すぐに行っても7時過ぎになりますよ?」
「タクシーを使って行きなさい。オーナーが今日は渋谷店にいるらしいんだ。」
「コネを作るチャンスだから頼んだよ」
「はい」

三谷は早々にオフィスを後にして渋谷のART店に向かった。
「もしもし、グランドランジェリーの藤崎ですが、店長はいらしゃいますか?」
「・・・・・・」
「三谷は、今、そちらに向かいました」
「・・・・・・」
「えぇ、存分に使ってください」
「・・・・・・」




道路が渋滞しており、タクシーを使ったのだが30分かかってしまった。店内には会社帰
りのOLやアベックが4〜5人と接客中の販売員が一人いるだけであった。店内に入り奥
を覗いたが人の姿は見えなかった。三谷はしばらくここで待つことにしたが職業病であろ
うかキョロキョロとディスプレイされている女性物の下着を眺めていた。
目の前には、フルカップブラ、3/4カップブラ、リフトアップが並べられ反対側の棚にはス
トラップレスとロングブラ、スリーインワンが置かれている。奥に目をやるとショーツ類
があった。三谷は奥に行きブラジリアンを手に取り自分の会社の商品との比較をしていた。

「お待たせしました。」
振り向くと接客をしていた女子店員が三谷の後ろにいたのだ。
「あっ・・・・」
「プレゼントでございますか?」
「いえ、・・・違います」
先ほどは気がつかなかったが、近くで見ると三谷の好みのタイプである。年の頃は20歳
代前半であろうか、目鼻立ちがしっかりしたチャーミングな女性である。

「失礼しました。男性用はあちらになります」
そう言うと彼女は三谷を男性用下着の置いてある場所に連れて行こうとするのである。も
っとも、ここに置いてある男性用下着は素人目に女性のスキャンティーと対して変わらな
いのだ。
「すみません、・・・・ちがいます」
「はあ?」
彼女は一瞬、戸惑いを見せたがすぐに立ち直ると
「サイズは分かりますか?。最近は女性の綺麗な下着を身に付ける男性の方も多くいらっ
しゃいます」
「どのようなものがお好みですか?」
彼女は女性用の下着について説明を始めたのである。
「すみません。店長の遠藤さんはいらしゃいますか?」
「はあ?」
勘違いしていることに気がついた彼女は真っ赤な顔になってしまった。
「店長にご用でいらしゃいますか?」
「えぇ」
「私はグランドランジェリーの三谷と申します」
と三谷は自分の名刺を取り出し彼女に渡した。
「失礼しました。遠藤は今、外出しております。すぐに戻ると思いますがどのようなご用
件でしょうか?」
要件と言われても、なんと答えてよいのか言葉に詰まってしまた。
「こちらに来るように言われただけで詳しいことは指示に従うようにと」
さすがに自分が男性モデルとして来たとは言えなかったのである。
「さようでございますか。奥でお待ちいただけますか?」
三谷はちょっとせっかちな女子店員に案内させ奥の事務室に向かった。




奥の部屋で出されたコーヒーを飲みながら、かれこれ1時間が経過していた。
「すみません、すぐに帰ると言っていたのですが」
8時を過ぎ、店を閉めた女子店員が事務室に戻ってきた。
「いえ、あなたの責任じゃありませんから、失礼ですがお名前を教えて頂けますか?」
「あっ、神保・・・美沙と申します。コーヒーをもう一杯お飲みになりますか?」
「ありがとう」
呼び出された手前、勝手に帰るわけにはいかず、もう少し待つことにした。美砂は自分の
分のコーヒーも入れると三谷の前に座った。
「どうぞ」
「どうもすみません」
「先ほどは失礼いたしました。綺麗なお顔立ちだからてっきり、そっちの業界の人だと思
ってしまって」
「そっちのって?」
「ニューハーフの、笑」
「あは、、そんなんじゃありませんよ」
「でも、少し想像をしてしまいましたわ、笑。なんだったら試着してみますか?」
「おいおい、からかわないでくださいよ、笑」
「ごめんなさい、でも遅くまでお仕事大変ですね」
「出来が悪いものですから、ノルマ達成の為に残業が多くて、笑」
「ここには売り込みにいらしたんですか?」
「えぇ・・、でも、チョット違うかも知れない。どちらかと言うと売り込みの為の人柱み
たいなものかな」
「???」
「僕にもよくわからないんだけどね。モデルとして来させられたみたいなんだ」
「下着のモデルですか?」
「うん、細かいことは知らされていないんだ」
「私もバイトでここのモデルをしているんですよ、一緒にできるといいですね」
「美砂さんはプロポーションが良いから、でも僕に務まるかな?」
「第一、モデルってなにをするかも知らないんだ」
「今までは、新製品の写真撮りが多いわ、もっともメーカからのポスーターがあるので何
に使っているか私も見たことは無いの。でも、お小遣いになるからお受けしてるんです」
「僕も下着のモデルなんだろうか?ちょと恥ずかしいな。笑」
「はじめのうちは恥ずかしいかもしれないわね。でもすぐに慣れるわよ・・・」
「あと、試着も頼まれてるの」
「試着?」
「えぇ、メーカさんが新製品を入れると実際に自分達で体験するのよ。お客様に実感とし
て説明できるように販売員の女の子はみんなで試着をするの」
「ふーん、下着を買わなくて済むね。笑」
「でも、ここの商品はセクシーなものばかりでしょ?恥ずかしいわよ、笑」
「今も、試着をしているんですか?」
「えぇ・・セルネールから新しく出たバルコネットブラとブラジリアンのショーツを、あ
そこにディブレーしている物よ」
三谷は示された商品に目をやった後、美砂の胸と股間に視線を落としていた。
「・・・・・・」

少しの沈黙が流れた時、電話のベルが鳴った。
「はい、渋谷ARTでございます」
「・・・・・・・・」
「はい、1時間ほど前からお待ちになっております」
「・・・・・・・・」
「はい、わかります。」
「・・・・・・・・」
「かしこまりました」

美砂は電話を切り話の内容を三谷に伝えた。
「遠藤はこちらに戻れそうに無いようです。今、オーナーの飯島と一緒のようで、私に
三谷さんを連れて来るようにとのことでした。よろしいですか?」
「はい、お願いします」




三谷が美砂に連れて来られたのは新宿にある、小さなスナックやクラブが入っている雑
居ビルである。クラブ「彩」と書かれた重い木の扉を押して二人は中に入った。ここは
オーナーの飯島が愛人に与えているクラブである。中はさほど大きく無いが如何にも高
級感の漂う作りであった。三谷が部屋の奥に目を向けるとゴブパンツにロングブラだけ
の女性がみんなの視線を浴びていた。彼女は周りの人々から視線で犯されていたのだ。
その女性は店長の遠藤知子である。

「おぉ、やっと来たか!三谷君」
二人に気づいたARTのオーナーである飯島浩二は手招きをした。
「お前はもういいぞ!加藤さんの隣に座れ」
知子は自分の服を拾い上げ、身に付けることを許されないまま椅子に背筋を延ばして浅
く腰掛けた。
「びっくりしただろう?笑、こちらにいらしゃる加藤さんのところの新製品試着状況を
確認していたんだよ」
「セルネールの加藤です、宜しくお願いします」
「あっ、グランドランジェリーの三谷です」
「まあ、立っていないで座りたまえ、美沙ちゃんも」
「はい」
三谷は飯島の座っているソファーの隣に腰を沈めた。隣に座ると身長180p、体重も
80sを越えているに違いない飯島の大きさに圧倒される。身長が160pを少し越え
た程度でキャシャな身体の三谷は、まるで子供のようである。何より全国チェーン店の
オーナーとしての貫禄が三谷を精神的にも圧倒していた。

「三谷さんも商品の売り込みですか?」
単刀直入に加藤が聞いてきた。ライバル社の人間が突然現れたのだから気にならないわ
けがない。三谷が言葉に窮していると、飯島が変わりに答えた。
「あはは、気になるかね?でも彼は売り込みに来たわけではないよ。男性モデルだよ」
「グランドランジェリーはモデルの派遣もしているんですか?面白い戦略ですね」
「はぁ」
生返事をするしかない三谷である。
「彼にはセルネールのユニセックス下着のモデルをしてもらうつもりだ」
「それはそれは、よろしくお願いします。三谷さんならイメージにピッタリかも知れま
せん」
「はぁ」
「そうだろう?私も今日、渋谷店で見かけた時にピンと来たんだ。」
飯島は昼間に三谷が商品の売り込みに来た時、男性モデルとして直感したのであった。
「早速、ここで試着してもらおうか?加藤さん」
「いいですね。でも残念なことに今日はユニセックス下着は用意していないんです」
「かまわん、セルネールの下着はどれも同じだろ!」
「そんな、少しは違いますよ、笑」
「とにかく、彼に試着する下着を渡しなさい」
鞄の中からひとつのショーツを取り出し三谷に手渡した。それは、前も後ろもV字型に
カットされており、後ろの方が少し幅が狭くなっていた。全体的に少し透けたレースで
できており明らかに女性用である。
「タンガですか」
「そうです、さすがに三谷さんはグランドランジェリーのモデルさんだ、女性用の下着
にもお詳しい」
すっかり、加藤は三谷の事をモデルと勘違いしている。三谷がショーツを手に躊躇して
いると飯島が急に大きな声を出した。
「早くしろ!」
「はい」
三谷は飯島の一喝に全身を硬直させ、言うことを聞かざるおえなかった。クラブは貸し
切りであった為、他の客はいないのだが、ここのママさん、ホステスなども大きな声に
驚くと同時に私を見ていた。

先ほど店長の知子が立っていた場所で三谷は全裸になった。みんなの視線が三谷の股間
に集中しているのがわかる。それでなくても小さいことに劣等感を持っている彼のペニ
スは緊張のあまり普段より小さく縮み上がってしまっているのだ。
「ちいさいな」
恥ずかしさで一杯の三谷は急いで女性用の下着を身に着けた。
「ユニセックス下着のモデルには好都合じゃないですか?オーナー」
加藤が意見を述べた。
「そうだな、股間が膨らんでいたんじゃ、逆に問題だな!確かに股間のモッコリがない
から女性の下着も違和感が無いようだ」
満足そうに三谷の全身を舐め回していた飯島であったが少し考え込みだしたのである。
「この下着は少し寂しくないか?」
「そうですか?とても引き合いの多い新製品ですが」
と慌てて加藤は答えた。
「きっと、ショーツだけなので、そのような印象を持たれるのでは?こちらの商品はこ
のブラと対になっておりますので」
加藤が同じようなレースの施したリフトアップブラを飯島に手渡した。飯島はそれを拡
げて見るとすぐに知子に投げた。
「これを三谷君に」
ブラを渡された知子は下着姿のままで三谷の後ろに周り込み、渡されたブラを装着しだ
したのである。三谷は呆然と立ちすくみながら懇願するように飯島を見つめていた。
飯島は三谷をいたぶるように
「ふむ、良くなったな。とても似合っているじゃないか。いつも女装しているんじゃな
いかね?三谷君」
「そんなことありません」
「そうかね。わたしにはそうは思えんが、笑。そうそう、ママさんカメラはないかな?」
カウンターの中からカメラを取り出しママさんは飯島に渡した。そして、飯島は三谷の
恥ずかしい女性の下着姿をフラッシュを炊いて撮りだしたのである。
「一応、モデルとして来てもらってるから、写真を撮らないとな」
「・・・・・・」
三谷は何も言えなかった。

「着心地はどうだ?ライバル社の商品だが」
「・・・・・・・」
「あはは、ライバル社を誉めるのは難しいかな?まーいい、せっかく女装したんだ。こ
っちに来て、そのままの格好で水割りでも作ってくれ」
「・・・」
三谷は女性用下着姿のまま飯島のテーブルに行きホステスがするようにテーブル横のカ
ーペットに跪き水割りを作ると飯島にさしのべた。
「おお、ありがとう」
飯島は受け取った水割りをすぐにテーブルに置くと三谷の手首をつかみ引き寄せると自
分の横に座らせたのである。

しばらく、飯島と加藤の間で商談がなされていた。終わったのはPM10時を過ぎてい
た。本当であれば三谷が加藤の立場で交渉をしていなくてはならないのだが、自分の立
場と格好を見て寂しくなるのを感じていた。
(なんとか、1ヶ月後の商談をものにしなくては・・・)

「さぁ、呑むか」

結局、お開きになったのは終電も終わった時刻である。三谷はホステスまがいの事をず
っとさせられていたのである。帰り際には加藤の新商品を均等割りし知子と美砂、三谷
の3人に配布され試着することとなっていた。
割り振られた下着を毎日、身につけることを義務つけられてしまった。

「これで下着を買う必要がなくなったな、三谷君。役得ってやつだな。明日からも宜し
くたのむよ。」
「例の件、大丈夫ですよね」
三谷は一ヶ月後の商談の確認をしたのだ。
「あぁ、君が仕事をまっとうしてくれたらな。頑張りたまえ!」

帰りのタクシーの中、スーツにワイシャ、ツネクタイ姿の三谷がいた。しかし、その下
には女物の下着であるリフトアップブラとダンガを身に着けているのである。




「おはようございます」
翌日、9時に三谷は渋谷ARTに出社した。店の開店は10時であったが準備等がある
為、この時間に出て来るよう言われていたのだ。
「おはようございます」
美沙は昨晩なにごとも無かったように三谷を迎えてくれた。彼にとっては悪夢の出来事
であったのだ。しかし、悪夢は今も続いている。朝起きると帰り際に試着するようにと
手渡された女性物の下着が鞄の中に入っていたのだ。昨日は飯島オーナーの気力に押さ
れて醜態を演じてしまったが一晩寝てみると夢の様に思え従うことは出来なかった。
(呑んだ席の戯れ言だよな)
奥の事務所に入ると店長の遠藤知子が商品の台帳整理をしていた。
「おはようございます」
「あっ、おはようございます。三谷さん」
「早速で悪いんだけど、これに着替えてくれる?。オーナーの指示で女の子が二人新宿
店に回されてしまったのよ。代りは三谷さんにして頂けって」
「はい、私は何をすればよろしいでしょう」
「聞いてなかったの?女の子の代りにお店に出てほしいのよ。早く着替えて」
手渡された物はこのARTの制服であった。それは美沙の着ているものと同じでる。
「僕なんかがお店に出るとお客様が入りづらいんじゃないでしょうか」
「それは貴方が考えることじゃないのよ。オーナーの指示なんだから」
三谷は仕方なく渡された制服を着ることにした。ハイウエストで絞られた黒のパンツに
フリルの付いた白のブラウスであった。絞られたウェストとゆったりと膨らんだヒップ
ラインの作りが全体的に女性の丸みを感じさせる制服である。着替え終わったのを見届
けると知子は三谷を眺めて言った。
「そのパンツに男性物の靴は合わないわね。それにブラウスの下に何を着てるの?」
「はい?アンダーウェアーですが」
「そのブラウスは下着が見えるようにわざと少しシースルーになってるのよ」
「はぁ」
「昨日、渡された下着はどうしたの?オーナーに試着するよう言われたでしょ?」
「あれは、冗談じゃなかったんですか?」
「なに言ってるの、仕方ないわね。今日は私の預かったものを着てください」
と紙袋を指差した。
三谷は仕方なく紙袋からTバックショーツとスリーインワンを取り出し着替え直した。
「靴はこれを履いてね、うーーん、メイクアップは、今日は時間がないからいいわ」
渡されたローヒールを履いてお店に出た。
「なにを手伝おうか?」
「えっ?、三谷さん!!」
三谷が接客用の制服を着ているのに美沙は驚きの表情を浮かべた。
「店長にお店に出るように言われたんだ」
「そうなんですか」
「変だよね、この恰好」
「いえ、似合ってるわよ。特に透けてる下着が、笑」
「やっぱり、変なんだ」
「そんなことないわよ。メーキャップにカツラを付けたら女性そのもの」
美沙に気持ち悪るそうな顔をされなかったのが三谷の救いであった。
「でも恥ずかしいでしょ?」
「お店の前面は私が担当するから三谷さんは奥を担当して下さい」
美沙は三谷に気を使ってくれたのだが午後になるとお客様も増えてきて一人では接客が
追いつかなくなってきてしまった。三谷は勇気を出して接客をはじめたのであった。
営業としての知識は大いに役にたった。お客様も三谷が男性であり女性の下着を着けて
いると思っているに違いないが口に出すことなく平然としていた。

一日があっという間に過ぎて、そろそろ店じまいをしようと商品整理をしていると、突
然、誰かの手が三谷のお尻を触わったのだ。
「おい」
オーナーの飯島だあった。三谷は喉まで出た声を呑み込んだ。
「魅力的だったので新しく来た女の子だと思ったよ。笑、頑張ってるな」
そう言うと奥の事務所に消えて行った。

ディスプレーの整理が終わって、三谷と美沙が事務所に戻るとオーナーの飯島は入れ違
いに出ていった。
「三谷さん、これはオーナーからよ」
店長が預かったと封筒を三谷に渡した。中には2,30枚の写真と1万円札が何枚も入
っていた。
「モデル代だそうよ。多く入れたから化粧品を買いなさいって」
万札が10枚入っていた。写真は全て女性下着姿の三谷である。お金はとにかく写真は
破って捨てたい気分である。




一ヶ月はあっと言うまに過ぎていた。今日は約束の一ヶ月目なのであるのだ。習慣とは
恐ろしいものではじめのうちは違和感があった女性の下着も慣れると着心地も良く、か
えって男性用下着の方が違和感があった。最近では休みの日まで試着品で過ごしていた
のである。
不思議な事に店の売り上げも三谷のことが話題になり増えているようなのだ。特に若い
女性がもの珍しさで買いに来ているようであった。

一日の仕事を終え事務所に戻ると知子も伝票の整理を終えたところであった。
「急ぎましょう。オーナーが待っているから、そのままでいいわ」
「はい」
「美沙ちゃんも一緒にね」
「はい」

タクシーが止まったのは浜港の倉庫前であった。
「ここですか?」
知子は質問を無視して急ぎ足で倉庫の中に入っていった。三谷と美沙も遅れまいと後に続
いた。鉄の扉を空けて中に入ると後ろで扉が閉められた。
「店長!」
振り向いた店長の向こう側には身の丈が2メートル近くある巨漢の黒人と刺青をした白人
がいた。三谷と美沙が逃げようと振り返るとそこにも鉄の扉に、丁度、鍵を閉め終えた黒
人が二人いた。
「Goodデスネ。トモコサン。コノヒトトOKデスカ?」
「いいわよ、思う存分楽しんで」
「どう言うことだ。店長!」
「あはは、そんな恰好で大声出してもさまにならないわよ」
「キャー」
美沙が扉の所にいた黒人に捕まっていた。黒人の大きな腕は美沙の身体を覆いつくしてい
る。
「おい、放せ!」
黒人の平手打ちが三谷の頬を捕らえると2メートルは飛んだであろうか。目の前に火花が
散ったと思うと一瞬、意識が無くなってしまった。

三谷が気がつくと目の前で四つん這いにさせられた美沙が黒人の大きなペニスを口に咥え
させられていた。後ろからは刺青の白人が今、自分のペニスを入れようとしているところ
であった。
「美沙ちゃん」
三谷は助けに向かおうとしたが黒い大きな手に押え込まれ身動きがとれない。良く見ると
三谷自身もブラを残し衣服を全て剥ぎ取られていた。アナルには黒人の大きなペニスがあ
てがわれているではないか。
「うぅぅぅ・・・」
太いものが強引に三谷の肛門の壁を抉じ開け侵入していった。あまりの痛さに涙がでる。
三谷は太いものを阻止せんと力を入れたのだが効力を発揮するどころか苦痛が増すばかり
であった。いつのまにか三谷は肛門の力を抜き少しでも苦痛を和らげようと受け入れてい
た。
「写真も忘れないでね。撮らないとモデルとしての契約違反になっちゃうから」
知子が言った。
「ワカリマシタ」
カメラを片手にした黒人のペニスが目の前に現れた。三谷は口を噤むがおかまいなしに唇
に押し付けて来る。以前として後ろからは大きな手で腰を引き付けられた状態でペニスが
挿入されている。三谷は身動きが出来ず顔をそむけるのであったが鼻を摘まれ正面を向か
されてしまった。息が出来なくなった三谷は思わず口を開けてしまったのである。その隙
を逃さず黒人のペニスが三谷の喉の奥まで勢い良く入ってきた。
「oh、Good」
ペニスを咥えた三谷の目の前でカメラのフラッシュが光った。

その時、美沙を強姦していた二人の外人の悲鳴が聞こえた。黒人が影になり何があったの
か三谷にはわからなかった。しかし、三谷を捕らえていた手は身体から放れ自由の身にな
った。すると視野が広がり美沙の姿が視界に入って来た。透き通る白い肌がみずみずしく
光を発している。その左右には干乾びたミイラのような物体がうごめいていたのだ。残っ
た二人の外人と店長は恐怖に顔を引きつらせている。

美沙の目から二筋の光が雷光のごとく発したと思うとそれは二人の外人に直撃した。しば
らくの間エネルギーを吸い取るように光は美沙と外人をつないでいたが光が途切れるとそ
こには干乾びた外人の姿があった。それを見ていた知子は恐怖のあまりその場で失尿して
へたりこんでしまったのである。美沙がゆっくりと知子に近づき人差し指を額に当てると
知子は皺だらけになって朽ち果てた。

美沙は振り返り三谷を見たが自分の引き裂かれた衣服を広い上げると扉を開けて出ていっ
たのだ。




結局、藤崎課長はART店長との汚職が発覚し、会社を追われてしまった。それに共ない
三谷もリストラの対象となってしまい会社を首になってしまったのだ。しかし、飯島の好
意により渋谷ART店の店長として再就職が出来た。店長は命を取り留めたが老衰状態で
今でも病院にいる。

美沙もあの日以来、三谷の前に姿は見せなかった。