アキと萌(作:葉月さん)

K市にて(1999年10月22日)

「さあ、萌、始めなさい。」
アキが静かに言った。
和やかに談笑していた場の雰囲気が変わる。萌は雷に打たれたように身体中が
硬直している。かすかに震えながら息は早くも乱れて闇雲に早い。
蘭丸と陶子は神妙な顔で黙っている。

時が来た。
あらかじめアキから言われていた事。公開オナニーをこの場でしなければなら
ない。いろいろと、何かと世話になった蘭丸、歳こそ葉月より下だが、このS
M世界でも蘭丸は大先輩になる。そうはいっても…。

萌の中で蘭丸は友達と言うには尊敬していすぎたが、アキより早く知り合い、
何かと相談し、対等に(?)いろいろ話してもらってきた。
アキの前でするだけでどうしようもなく恥ずかしい、死ぬほどの思いをするオ
ナニーなのに、(そう思えるのに)アキはその蘭丸の前で…蘭丸とそのパート
ナー、陶子の前で「公開オナニー」をしろという…
どう考えても、どう自分を言い聞かせても、どうしても強い抵抗感が拭えない。

ここで萌がアキの命令を無視したら…万一そんな事があったら、アキはもう二
度と顔が出せなくなる。どうしようもない恥をかく事になる。
アキと萌の関係そのものも崩壊する…
それは萌にもわかっている。ちゃんとわかっている。
しなければならない。そのように、アキの望むようにしたい。
それはやまやまだ。
しかしこの度し難い抵抗感はなんともコントロールできない。
萌はもう、行動の取りようがない。

確かに蘭丸と知りあいだったのは萌だ。
しかし、こうしてアキと蘭丸が知り合い、(たとえ、萌を通してでも)お互い
に共鳴し、理解しあっている今、もう蘭丸は萌の、ではなく、アキの、萌の大
事なご主人様、アキの大切な友人、と言う位置付けになる。
では蘭丸のパートナーである陶子はどうだろうか?
蘭丸の奴隷だからと言って、萌に取って陶子が同列になる訳がない。陶子も大
先輩であり、大事な御主人様の友人の、大事な持ち物となる。態度一つ、心し
て気を付けなければならない。気安い口は萌に効く権利は微塵もない。
そんな事をすれば、萌はアキにまたまた恥をかかせる事になる。

ごくん…。
萌は大きく唾を飲みこんだ。
いよいよである。
泣いても叫んでも許されはしない。
するだけの事だ。
「お仕置き」でもないもの、「許す」ことの出来る物ではない。
アキはそう言った。
むしろ「ご褒美」なのだとアキは言う。
信頼している人達に成長した自分を見てもらう。こんなに幸せな事はない。
アキはそう言う。
萌にもその理屈はとても良く解る。解ってはいるが…!

「始めなさい」
萌が余りに長く躊躇して見せるのでアキがまた言った。
もう萌には時間稼ぎはできない。ここで始めなければ命令拒否をしたのと同じ
になってしまう。ここK市に来る前に、この事は散々話し合った。
話し合う必要など全くない。アキは思った事、したい事を命令する。
萌はその命令をただ黙って、喜んで押しいただいて実行すれば良い。しかし…。
それが本当なのだが。
萌はアキに立派な誓約書を出しているのだ。

その誓約書を読み上げたのはここK市。
誓約書を読み上げる宣誓式を取り仕切ってくれたのは蘭丸&陶子。
そこまでそろっている場を、今日またアキは萌の為に用意した。
さすがの萌にもそれが良くわかっている。
それでも抵抗が否めない。
身体がひきつったように動かない。

このままではいられない。
誰もが萌の行動を待っている。
これは恩返しなのだ。
何より誇らしい、萌にとって勲章のような瞬間なのだ。
思いつきのように軽く言うアキに、思いのほか強く抵抗した萌。
根気良く萌を諭し、説得(?)したアキ。
今ここで萌が出来なかったら、二人の関係も消滅せざる得ないし、アキはどう
しようもない恥の中に落とされる。萌にはするしか道はない。

萌が車座になっている一同から立ちあがり、3人の前に正面を向けて立つ。
歯を食いしばり、かすかに震え、上手く動かないらしい手で静かに服を脱ぎ始
めた。
ゆっくりと…しかしすぐに服は全部剥ぎ取られる…
萌の顔はとうに紅潮して呼吸も大きく、立っているのもやっとなほど身の置き
所がなさそうだ。
萌はそのまま静かに腰を落とした。尻を畳について両足をゆっくりと、しかし
大きく開く。そして深呼吸をした。
「お・・願いです…」
萌が搾り出すような声で囁く。
「何だ?」
アキが無表情に聞く。
「お願いです…バイブを…バイブを貸して下さい…このまま手だけでは…」
やっとの思いで萌がそう言う。
「……………」
アキは暫く返事をしない。
「アキ様…お・お願いです!バイブを!」
萌は必死に懇願する。アキはおもむろに、
「仕方ないな。」
そう言って萌にバイブレーターを渡す。
「あ、ありがとうございます…!」
萌はやっとの思いでそう言って、バイブレーターを受け取った。
「でもすぐに使うんじゃない。まずは自分の指で始めなさい。」
アキにそう言われ、
「はい…アキ様…」
萌はかろうじて答える。

はじめ、萌の指は乳首に触れた。
触るか触らないかの微かな動きだ。これはアキが発見した。
萌自身、自分で知らないで居た、萌の性感帯の強力なスイッチである。
平静を装う息が少しずつ荒くなる。
おもむろに萌の指は静かに股間に触れる。
萌は小さくうめいて大きくのけぞった。
顔はもう早くも恥辱と嬉しさに泣いているかのようにくちゃくちゃになってい
る。目は開けていられない。硬く閉じたままだ。歯も食いしばったまま…

萌の指が静かに、しかし淫らに動く。ゆっくりと、そして早く…。
萌の声が自然と上がる。言葉では書き表せない表現の仕様のない呻きが間断な
くあがり続ける。
「あ、ああ…ああん…!」
三人が静かに見つめる中、萌の嬌声だけが部屋中に響く。

「あ…お願い…です…バイブ挿入をお許し…くだ…さ…いぃぃ…!」
萌が切羽詰ったように訴える。アキは黙ったままバイブレーターを手渡してや
る。
「あ、ありがとうございます.アキ様ぁ…!」
萌は泣かんばかりにバイブレーターを押しいただいて、もどかしげに挿入する。
もう濡れているらしくすっぽりと簡単に挿入された。
バイブレーターの棹の部分がくねくねと蠢く。萌の喉の奥から振り絞られた声
が間断なく響く。萌はバイブレーターのクリスイッチを入れる。
「あああーーー!!!」
とたんに萌の嬌声が響く。
バイブレーターのすばやい振動音がウインウインと鳴り響く。
萌にはもう周りの状況を見ている余裕はとっくにない。
目をぎゅっと閉じたまま、声の上がるのも構わず、バイブレーターの振動に身
を任せている。
萌の腰もそのバイブレーターの動きに敏感に反応して、くねくねと淫らに動き
回る。
「あ、あ、ああん、あん!」
意味のない萌の声だけが響き渡る。
萌の声とバイブレーターの振動音と…
聞こえてくるのはそれだけだ。

どれほど経った事だろう…
萌の声がひときわ高く、絶叫のように放出された。そのまま萌は動かない。
いや、動けない。バイブレーターの音だけが静かに響く…
萌は大きく喘ぎながら呼吸を静かに整える。
おもむろにバイブレーターのスイッチを切る。
大きく静かな呼吸はようやく落ち着いてきた。
萌が喉を鳴らして唾を飲みこみ、静かに、おずおずと目を開けた。
アキを見る。
その目は何かを訴えている。沈黙…

やがてアキがおもむろに口を開く…
「良し、良くやった。」

その言葉を聞いて萌は力が抜ける。
「あ、あり・・がとう・・ありがとうございました…」
そう言う萌の目に一筋の涙…

                           end