アキと萌−3(作:葉月さん)


「さ、きちんと言ってご覧。」
と言われてもそれが難しい。簡単な単語ばかり。前にも言っているセリフだ。
しかしそれが難しい。何をどう言えば良いか解ってはいるがそれが言えない。
きちんと適度な速さで適度な大きさで言う必要がある。
きちんと言えなければ言えるまで言い直しをさせられる。それも辛い。口に出
すのがなんとも言えず恥ずかしいのだ。

「アキ様のお○んちんを萌のお○んこに入れて下さい。」
そう言わなければならない。
お○んちんを入れて欲しい感覚。
これすらが初め萌には無かった。
指オナでクリトリスを刺激してもあそこはあまり欲しがらない。年の割に貧し
い性体験しかなく、そんな感覚と無縁だった。半年前初めて萌を抱いたアキは
真底驚いていた。そんな女初めてだった。
それからアキの萌の性感開発が始まった。適度に濡れたクリトリスやあそこを
刺激してやっても次第に乾いてきてしまう。どころか膣で受けるのを痛がって
嫌がったりすらしていた。焦らずじっくりと。。。半年間容易に会える訳では
なかったがその都度工夫して励んできた。どうにかこうにか最近少しだけ
萌の感覚に変化が出てきている。
ここの所「お○んちん」を自分から欲しがるようになっていた。

「言えないなら中止しちゃうよ。絶対入れてやら無いからね。」
アキは楽しそうに静かに言う。萌はむずむずする身体の芯からの欲求に耐えが
たくて腰がさかんに蠢く。息が荒い。ぎゅっと結んだ唇から声とも言えない声
が漏れる。
「あ、ああ…お願いです。入れて下さい…!」
切迫した萌の声。
「だから何を?」
当然解ってはいるがあえて意地悪くアキが尋ねる。
困りきった表情の萌。唇が微かに動くが声にはならない。
「お…お○ん・・・ちん…」
振り絞るような蚊の泣くかのような萌の声。
「だから誰の?」
アキは容赦なく聞き返す。

「お○んちん」と言うのは小さい子のトイレなどにも使う単語なのでそれほど
の抵抗は無い。しかしひとたび「アキ様の」と付くだけでどうしてこうも生々し
く大人のそれを連想させる単語に変身するのだろう?
半年前にはその存在すらどうにも信じられない、納得できようの無かった「ペ
ニス」と言うもの。それを欲しがっている自分が信じられないし、それを言わ
されて感じている自分がなおの事信じられない。

「アキ様のお○んちんを…」
「何処に?」
やっとの事で一塊のセリフを言った萌にアキは重ねて聞く。
萌の噛み締めた唇の奥で唾が飲み込まれる。微かに震えさえしながらも、萌は
黙りこくる。
「言わなかったら止めちゃうよ。」
静かに楽しそうにアキが言う。

「お○んちん」と違って「お○んこ」は使ってはいけない単語であり、隠語として
知ってはいるがかつて使った事の無い単語だった。どうにか決心して口を開い
ても「お…」までは言えるものの次の語が出てこない。
どうしてこんなに簡単なかつ単純な単語一つにこれほどまで振り回されるのだ
ろう?
アキは黙って微笑んだまま萌を眺めるともなく見ている。唇もあそこも小刻み
に震えて無性に欲しがっている。
(言わなければならない。このまま許されるわけがない。どうせ言わされてし
まうのだから早く言ってしまって楽になりたい。それに…。それに入れて欲し
い…!むずむずして堪らない!)
そう思いながらもどうしてもその言葉を口に出来ない。思い切って口を開いて
もなんのはずみか肝心のところでブレーキがかかる。

「帰ろうかなぁ…?」
アキが少し意地悪く言った。
萌が弾かれたように顔を上げて思いっきり顔を振る。
「嫌!言いますから!ちゃんと言いますから!」
萌は必死の形相で訴える。
「もう待てないよ。何時まで待たせるの?さっきから俯きっぱなしだし面白く
ない。」
殊更に冷たくしらけたようにアキが言う。萌の喉が鳴る。涙こそ出てはいない
がすっかり涙顔である。
アキはねちねちと意地悪く執拗に責める。アキには少し苦手な責めだ。なかな
かそうはならない。

「アキ様のお○んちんを萌のお○んこに入れて下さい!」
ようよう萌が振り絞るようにうめくかのように小声で口にした。思い切って急
いで言っているので掠れている上にはっきりは聞こえない。
「もっとはっきりと。きちんと言わないと駄目でしょう?」
アキは静かに言い放つ。ようやく言えたことでほっとしていた萌はまた青ざめ
る。
「あ…」息も荒く肩も波打っている。
「お願いです。。」
「セリフが違うよ。」
涙声の萌にアキはなんともないようにわざと冷たく答える。

「どうして?」
「そんなに嫌なの?」
「解った。本当は入れて欲しくないんだよね?」
「じゃ、服着るか?」
口篭もりながらも言葉が出ない萌に、時々優しく(?)話し掛けながらアキは
嬲る。アキの指はその間も萌の花芯を意地悪く弄んでいる。

「ああ…!」
萌の口から声が漏れる。
「お願いです。もう…!」
「だから?」
あくまで静かにアキが聞き返す。

下を向いて目をぎゅうっっと閉じた萌がとうとう口にする。
「アキ様のお○んちんを萌のお○んこに入れて下さい!!!」
はっきりと大きい声で言い放った。半ば叫ぶかのように。
「よーし。。」
にやりと笑ってアキは満足げだ。
「入れてやるよ。」
そう言ってからおもむろに萌の中へ入っていった。

その感覚を萌は全身で受け止めていた。やっと入れて貰えた欲しかったもの。
身体が密着してこの上なく幸せを感じるひと時。全身に広がっていく満足感。
幸福感。充足感。何もかも忘れてこの一瞬の至福の感覚に身を委ねる。
「ちゃんと言えるじゃないか。次からはもっと早くきちんと言いなさい。い
  いね。」
優しく、しかし有無を言わさぬ言い方でアキが言う。
「はい…」
涙すら浮かべた状態でアキに抱かれたまま萌が小さく頷く。

「…………解っててもなかなか口にできません…」
「だからそれをきちんと言うんでしょう?次からはこんなに待たないよ。い
  いね?」
「はい…」

この所毎回のように言わされている言葉。何を言えば良いのかは解りすぎる
ほど解っている。しかしそれがなかなか口に出せない。
おそらく。
おそらくだが。
「慣れる」と言う事は無い気がする。
「服従のポーズ」と同じようにけして難しい事でも大変な事でもない。それ
でも出来ないのだ。だからこそ無理やりに(?)されて感じるのだろう。
無理にでも言わされてしまいたいのだろう。

―――――了―――――