◆ 完全合成による新抗生物質/リネゾリド ◆

 現代の医学で大きな役割を果たしている抗生物質の歴史はペニシリンに始まるが,それは同時に耐性菌を生み出して次々と新しい抗生物質が必要となった歴史の始まりでもある。
 抗生物質は当初は微生物によって産出され,もともとは他細胞の発育を阻止する物質とされたが,現在は合成化学物質を含め,抗菌・抗ウイルス・酵素阻害・制がんなどの作用をもつ物質を幅広くさすようになっている。一般に特定の菌にだけ作用するという選択毒性をもち,たとえばペニシリンは動物には無く細菌だけがもつ細胞壁に作用してその合成を阻害して死滅させるものである。他には細菌の細胞のタンパク質や核酸の合成を阻害したり,細胞膜質の機能を障害するなどの作用によるものがある。
 抗生物質を使っているうちに出現してくる耐性菌は医療上脅威になっており,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性菌(VRE)がその代表例である。
 以下に示す新抗生物質リネゾリド〔linezolid〕(商品名ザイボックス(R)〔Zyvox〕)はVREに対する“最終兵器”と目されているもので,完全合成によって作られ,今までの抗生物質とまったく異なった化学構造を有している。従来の抗生物質を化学構造的に分類すると,β-ラクタム系(ペニシリン類等),アミノグリコシド系(ストレプトマイシン,カナマイシン等)など10数種類になるが,リネゾリドはオキサゾリジノン系となる。新規の作用メカニズムをもつ抗生物質の発売は35年振りとされ,日本では2001年4月に輸入が認可されて6月1日に販売開始となっている。
 しかしながら2001年4月発行の医学雑誌にすでに耐性菌の出現が報告されており,無闇に耐性菌を増やさないよう適性利用が望まれている。


球棒モデル  空間充填  OFF
ラベル  OFF
Electrostatic Potential  Lipophilic Potential

ペニシリンG(penicillin G)
C16H18N2O4S,分子量=334.39


球棒モデル  空間充填  OFF
ラベル  OFF
Electrostatic Potential  Lipophilic Potential

メチシリン(methicillin)
C17H20N2O6S,分子量=380.41


球棒モデル  空間充填  OFF
ラベル  OFF
Electrostatic Potential  Lipophilic Potential

リネゾリド(linezolid)
C16H20FN3O4,分子量=337.35

1928年発見
(文献によっては1929年)
1959年開発,1960年実用化
 
2000年にアメリカで認可
 


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