系(system)…着目している,あるいは研究対象として選び出した物質界の一部分ある系が外界から熱量qを吸収して外界へ仕事wをしたとすると,系の内部エネルギー(系の持つ全エネルギー,internal energy U の増加量△U は,外界(surroundings)…系外にあって系の挙動に影響を与えるものすべて
△U = q − w |
---|
すなわち
内部エネルギーの変化 = 系が与えられた熱量 − 系のした仕事
である.
■■■■■■■■■■■
■ ■
■ ─■→ w
■ ■
■ 系 ■ 外界
■ ■
■ ←■─ q
■ ■
■■■■■■■■■■■
注:熱力学が蒸気機関について端を発したのでこのような符合になっているが最近では次のように書くことが多い.通常の条件で化学反応が起こる時に系のする仕事は体積の変化によるものだけである.
△U = w + q
定容反応 w = 0 よって △U = qV (定容反応熱)
定圧反応 △U = q − w
= qp − p△V
∴ △U + p△V = qp △H (定圧反応熱)
つまり,化学変化に伴うエンタルピー(enthalpy)H の変化 △H で反応熱が定義される.系内のエンタルピーの増減を +− で示す(上図のように外界から熱が入るのを + にしている)ので,
定 容 定 圧
発熱反応 … △U < 0 , △H < 0
吸熱反応 … △U > 0 , △H > 0
※注:第一法則は系のエネルギーの出入りの量的関係を規定しているだけで,実際の変化の挙動を知ることはできない.これを補うのが第二法則である.
仕事のエネルギーを無制限に熱エネルギーに変えることはできても,熱エネルギーをすべて仕事のエネルギーに変えることはできない. |
つまり,反応熱を全部仕事に変えることはできず,熱としてしか利用できない部分がある.そこで次の関係が定義される.温度Tが一定で,
△H = T△S + △G (定圧変化)
△U = T△S + △F (定容変化)
反応熱のうち,T△S は熱としてしか利用できない部分で,△G,△F が仕事に利用できる部分である.ここで,
S : エントロピー (entropy)
G : Gibbs 自由エネルギー (Gibbs free energy)
F : Helmholtz 自由エネルギー (Helmholtz free energy,記号は F or A)
△G,△F は反応によって生じた自由エネルギーの変化量を示す.系が反応を起こして仕事をすれば自由エネルギーは減少する.したがって,自然に起こる変化は,
定温定容では △F < 0 の方向
定温定圧では △G < 0 の方向
※ただし,外界からの熱の出入りは認めるが,他のエネルギー(電気,光など)は関与しない場合.定温定圧では,△G < 0 より 反応は △H−T△S < 0 の方向に進行するが,特に,
△H = 0 のとき △S > 0 (エントロピー増大) の方向へ
△S = 0 のとき △H < 0 (エンタルピー減少) の方向へ
それぞれ進行することになる.定温定容においても同様である.
つまり自然界の現象はエンタルピーとエントロピーとの兼ね合いで起こることがわかる.
注:第二法則の別の表現…『可逆過程では宇宙のエントロピーは一定である.不可逆 過程ではエントロピーは増大する.』注:熱力学の第三法則 …『温度が絶対零度(T=0K)のとき,純粋な単体および 化合物の完全な結晶のエントロピーは零である.』
いろいろな化合物の熱力学的パラメータの例・無機化合物の熱力学的性質
・有機化合物の熱力学的性質
◎標準生成自由エネルギーのデータから,反応の自発的進行の可能性を調べる例
6CO2[g] + 6H2O[l] → C6H12O2[c] + 6O2[g]
6(-394.4) 6(-237.2) → -910.6 0 … △G゚f/kJ
└──────────┘ └────────┘
-3789.6 -910.6よって, △G = -910.6 kJ − (-3789.6) kJ = +2879.0 kJ
で,△G > 0 であることから,この反応(グルコースの生成)は自発的に起きないが,この逆反応(グルコースの燃焼)には自然に進む駆動力がある.
参考文献 (本格的には物理化学の専門書が必要だがここでは入門書を中心に上げる)
- Moore 著・藤代亮一 訳,「ムーア 物理化学(第4版)」,東京化学同人(1974)
- Barrow 著,野田春彦 訳,「バーロー 生命科学のための物理化学」,東京化学同人(1975)
- 寺本英,「エネルギーとエントロピー」,化学同人(1974)
- Pimentel,Spratley 著,榊友彦 訳,「化学熱力学 ―分子の立場からの理解―」,東京化学同人(1977)
- 山口喬,「入門化学熱力学」,培風館(1981)
- 安孫子誠也,「エントロピーとエネルギー」,大月書店(1983)
- 杉本大一郎,「エントロピー入門」,中公新書(1985)
- 白鳥紀一,中山正敏,「環境理解のための熱物理学」,朝倉書店(1995)
- 槌田敦,「エントロピーとエコロジー」,ダイヤモンド社(1986)
- 都筑卓司,「マックスウェルの悪魔」,講談社ブルーバックス(1970)
- 室田武,「君はエントロピーを見たか?」,朝日文庫(1991)
- 白鳥紀一,『大学一般教養でのエントロピー論の試み』,えんとろぴい,28号,p.41(1993)
※化学熱力学は反応がどこで終了するかを説明する平衡論であり,いつその平衡に達するかは教えてくれない.それを教えてくれるのが化学反応速度論であり,上の文献 1. や以下のような文献に詳しい.
- 廣田鋼蔵,桑田敬治;「反応速度学」,共立全書127(1978)
- Eyring著,長谷川ら訳,「絶対反応速度論(上・下)」,吉岡書店(1964)
※信州大学繊維学部・大越 豊先生作成の「熱力学」のページの資料集(シラバス,試験問題など[pdf形式,word形式])は大変参考になります!