県立新潟女子短期大学・生活科学科生活科学専攻 本間善夫
1 はじめに
ある調査によれば,2000年6月時点の国内におけるインターネット利用人口は2,045万人に達するとされ,携帯電話等による利用も急速に進んでいる。ITや「総合的な学習の時間」が注目される中で,教育分野でもインターネット・情報活用は加速度的な進展が期待され,コンピュータ室だけでなく,理科や化学の実験室でもインターネットが利用できるコンピュータの設置が当たり前になると予想される。
Web上にはすでに膨大な化学情報が掲載されており,化学教育の領域でも様々なデータベース*1や教材を活用した斬新な試みが各学校でなされているものと思われる。しかし,教員や生徒にとって使いやすい日本語のコンテンツは徐々に増えてきているものの,英語版に比してまだまだ少ない。ここでは,3次元分子モデルや動画などによるインタラクティブな教育用サイトであれば英語版でも十分に講義で活用できること,さらに国内で公開されている定番的なサイトや最近運営を開始したサイトをいくつか取り上げて紹介したい。
2 データや情報を探す
検索エンジンが多数あるので,それぞれの特徴を知って使いこなすことが必要である*2。また,多数公開されている化学関連のリンク集*3を利用して,どこにどのようなデータや教材があるか確かめ,自分独自のURL集を作成しておくと便利であろう。生徒自身に情報検索能力や間違った情報に惑わされない能力を身につけてもらう意味でも,これらの点は普段から心がけておくと有用である。
3 動くWeb教材
Web教材は,自分の関心で次々とクリックして資料を参照できるハイパーテキストであり,カラー画像もあって理解に役立つというメリットがあるが,最近は動画,ゲーム形式,クイズ形式など高度な手法を使ったものも急増している。化学分野では立体的な分子モデルを画面上で自由に動かして見ることのできる技術がいくつか登場し,中でもChemscape Chime(以下Chime)というプラグインソフト(MDL社による無料ツール)は,Protein Data Bankはじめ世界中の多くのサイトで利用されている*4。
ChimeはWebページを記述するHTMLデータを自分で書き直すことによって,いろいろな分子情報の表示をすることができる。特に英語版教材は充実しており,図1に示した例のように他の動画データ等へリンクを張るなどして視覚的に理解できるように工夫されているものも多い。化学式や分子構造などは世界共通言語であるから,海外の教材活用も視野に入れておく必要がある。
国内でも少しずつ同様なサイトが増えてきているのでそれらを有効に活用したり,既存分子データファイルを保存して(これを公開用データとしては使えない)自分の講義に適したHTMLデータを作成してオフライン用教材にしたりすることも可能である。
図1 分子表示ソフトChimeを使った水分子についての教材例(Understanding Drugs,http://www.wellesley.edu/Chemistry/Chem101/home.htmlより)。
[参考]excite翻訳による和訳例(同ページ以降,すべて和訳表示されます)
4 まとめ
公的機関のデータベースを除けば日本語のWeb化学教材*5は,教員や学生のボランティア的な活動によって支えられている面が大きい。今後は実践者間の情報交換により,重複を避けながら国内で不足している基礎的な教材などを充実させていく必要性もあると考える。そこでは掲示板やメーリングリストなど,インターネットの多様なツールが役立つであろう。
企業による教材ページが少しずつ増えてきている点も評価できるが,画面のデザインなどに重点が置かれて化学の面白さを伝えようという工夫が足りないと感じられるコンテンツも少なくない。同じ内容でも小学生向け・中学生向けなど,利用者の年代に応じて楽しめる工夫を盛り込んだものがあるとありがたい。また,家庭や学校では通信速度が遅い環境で使う場合も多いので,その点の配慮も欲しいところである。
Web上の情報は教師自身の知識を豊かにするためにも講義で直接教材にするにも有用であるがあくまで補助的なものであり,利用者自身が生徒に伝えるべきメッセージを持っていて始めて生きてくるものと言えるだろう。