なぜ男が?
「なぜ育児休職をしたのですか?」と聞かれるが、それは納得のいく保育園で生後
六カ月まで預かってくれるところが近所になかったからだった。「なぜ男であるあな
たが?」とも聞かれるが、それは子供をつくろうと強く私が主張したからなのだった。
仕事が大好きで子供をつくることを後回しにしたがる妻に対して、「早く二人で子 育てをしよう」と私は言葉を重ねた。その私が、保育園が見つからなかったという理 由で妻だけに育児休職させたのでは、言行不一致もはなはだしい。朝のゴミ出しを請 け負って忘れてしまうような言行不一致は自分に許せても(妻は許さないみたいだが )、子育てに関しては、体を張って守るべきことのように思えたのである。あれやこ れやあるうちに妻の妊娠が分かって、さてどうやって育てようかと話し合っていた、 ちょうどそのころ、育児休業法が国会で可決された。父親も育児休職ができるという ニュースを見て、私は「おれが休職しよう」と言い出した。夫婦交代で育児休職する という結婚生活最大のプロジェクトはこうして始まったのだ。 職場の上司は意外なほどにあっさり認めてくれた。虚をつかれて一瞬言葉が出なか ったようではあったが、素早く立ち直って休職中の仕事の扱いについて検討し始めた 。その上司を私は今でも尊敬している。 しかし、実際の手続きに入り、会社の社則が相手となると話は面倒になった。実の ところ、育児休業法が施行される日は、私の休職予定日より数カ月ばかり遅かったか らだ。「どうせ法律には従うんです。施行を見越して男性の育休を数カ月早く認めて くれませんか」と会社相手に粘ってみたが、いったんは断られてしまった。私はあき らめきれない。私は父親としての責務を果たしたいのだ。じたばたと社内のあちこち に電話をかけて相談をもちかけているうちに、労働組合まで動き出し、特例として休 職が認められることになった。 友人たちは育児休職前夜に宴会を開いてくれた。首都圏に珍しく降った雪を踏みし めながら、「さあ、明日から新しい生活だ」と帰宅し、翌日二日酔いの頭痛とともに 私の育児休職が始まったのだった。 |
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