前回連載へ 次回連載へ 朝日新聞朝刊 1998年3月12日付 家庭面 (毎週木曜連載)
「育休父さんの成長日誌」太田睦担当分第6回

子供と向き合う

 育児自体は楽しい経験だったし、今もそれを楽しんでいる。あんな面白いものを女 性たちに独占させておいて良いわけがない。そのことに男たちが気づいたのかどうか 、昨今は男性も育児にかかわるようになったと言われており、実際近ごろどこの幼稚 園でも保育園でも、行事で出たがる父親が増えているという。

 しかし、育児のだいご味はなんといっても零歳児期だ。この時期の育児に男性はも っと進出していっていいし、ひそかに零歳の育児を楽しんでいる男性も、もっとオー プンに育児を語っていいと思う。私の場合は、ちょっとオープンに語りすぎている気 もするが、私は確信犯なので控えるつもりは無いのだった。

おなかがすいた、のどが渇いた、部屋が暑い、寒い、痛い、おしめが気持ち悪い、眠いけど眠れない、そうし たことをたった一つの「泣く」という手段でしか伝えてこないのが零歳の赤ん坊だ。 泣き方ひとつで、赤ん坊の意図を察知して適切な世話をしなくてはならない。多くの 男性は、自分の妻がそれをやるのを見て「さすが母親というのはたいしたものだ」な んて感心しているが、あれは男性でも出来る。

 赤ん坊と四六時中一緒に過ごして、性格を知り、その生活のリズムをつかみ、表情 の変化を読むようにつとめていれば、分かるようになるのだ。もちろんミルクと思っ たらウンチだったりするのだが、母親も結構、外すのだから安心していい。

ここを手伝い気分で通過するか、自分の仕事として腰を据えてかかるかで、その後の展開は心 理的に違うと思う。育児休職で私が得たのは「この子はおれがこの手で育てたんだ」 という自負だった。公園デビューに失敗し、妻にうとまれ、会社の周りをウロウロし た話などを書いてきて、「惨めな育児休職」を愚痴ってきた私だが、それは書いてお きたい。

 乳児の育児に多かれ少なかれハマった父親たちなら分かってくれるだろう。小さく て、温かくて、おっぱい臭くて、おしっこ臭くて、頼りない体をそっと抱きしめたと きに、いわく言い難い感情がわきあがる。そんなとき、心から育児に専念して良かっ たと思うのだ。わずか十分後、同じ赤ん坊に対して「泣かないで、早く寝ろ!」とい らだちの感情に襲われるにしてもである。

この記事は朝日新聞社の許諾を得て掲載したものです。 筆者および朝日新聞社に無断で複製、翻案、翻訳、送信するなど、 著作権を侵害する一切の行為を禁止します。
イラストはやはり朝日新聞社の許諾を得た上で作者百瀬いづみさん自身の 手で公開されている画像ファイルにリンクして表示しています。 百瀬いづみさんおよび朝日新聞社に無断で複製、修正、送信するなど、 著作権を侵害する一切の行為を禁止します。

前回の連載へ 次回の連載