前回連載へ 次回連載へ 朝日新聞朝刊 1998年4月16日付 家庭面 (毎週木曜連載)
「育休父さんの成長日誌」太田睦担当分第11回

二度目を断念

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 二人目の子供も育児休職して育てるつもりだった。前回の休職で反省点は多々あっ たから、今度は快活に毎日を送れるように工夫をこらし、地域で育児仲間を作り、力 んで空回りの多かった離乳食作りもサラリとやってのけ、妻が帰ると温かく迎えられ ホッとできる家庭をつくる。そんな理想の専業主夫を目指して、雪辱戦への意欲に燃 えていたのだ。でも、そうはならなかった。

 まず、妻がこう言う。「最初の子育ては不安だったし、赤ん坊とじっくり付き合っ てみたかった。だから二人交代で育児に専念したことはとてもよかったと思う。でも 、要領をつかんだ今度はどちらも休職しなくても乗り切れるはずだ」と。  おまけに妻は私の理想の主夫生活に懐疑的だ。私の前例を蒸し返し、「帰宅して、 ああいういじけた男を見るのは勘弁して欲しい」とまで言うのである。ずいぶんな言 い方ではないだろうか。しかも、本気で思っているらしいのだ。

 そもそも保育園の問題もあった。当時、私の地域では育児休職をすると、上の子をいったん保育園から退園させることになっていて、休職明けに元の保育園に復帰できる保証はなかった。これが一番困った。一方、駅前にはそこそこきれいな保育室ができ、産休明けから預かるという。職場は裁量労働制に移行し、変則的な時間に出勤・退社しても、仕事の成果さえ出せば問題はない。上の子のときにあれだけ苦労した保育環境・労働環境が、私のまわりでは三年の間に劇的に改善されていた。

 つまり、私が雪辱戦だ、リターンマッチだと騒いでいるわりには、育児休職する強 い理由は無くなっているのだった。残ったのは男の意地だけ。妻にとっては私の男と しての意地なんかどうでもいいことだし、私にとっても実はどうでもいいことに属す る。

 考えるべきは、仕事への執着と、育児への誘惑にどこで折り合いをつけるか、だ った。幸運にも整った環境に甘えて、今回は仕事を重くみてもいいのではないか、専 業主夫もひとつのやり方なら、兼業主夫もひとつのやり方だ。そんなことを考え、「 理想の専業主夫」には、とてもなれないことも心のどこかで自覚している私は、二度 目の育児休職を断念したのだった。 (電機メーカー課長)

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