保育園のはしご
この回の百瀬いづみさんのイラストは まだ電子化されていません。
二番目の赤ん坊の産休が明けると、保育園を二カ所回って会社に行く生活が始まっ
た。上の娘が通っている保育園は翌年の四月まで入れなかったからである。四月まで
待ったとしても、姉と同じ保育園に入れる保証は無かった。実際、周囲には、兄弟が
何年も別々の園に通っている例がある。今の保育園の制度と現状は、つくづくスリリ
ングなのである。「なるようにしかならない」と共働き夫婦は腹をくくるしかない。
まずは、上の娘を保育園に車で送り届ける。保育園に入ると、一緒に連れていった 赤ん坊の周りに子供たちが寄ってくる。ほほ笑ましい光景なのだが、親にとって結構 スリルがあったりするのは、鼻汁を赤ん坊の上に垂らされそうになったりするからで ある。 赤ん坊をいたわろうとする子供たちの心を最大限に尊重しながら、「はい、チン しようね」とティッシュでよそのお子様の鼻をかむという朝の業務が、こうして発生 する。 その後、赤ん坊を駅前の保育室に連れて行く。駐車スペースが無いので狭い周囲の 道路に路上駐車なんかをすると、これまた結構スリリングである。おまけにビルの管 理組合から、「このあたりに駐車しないでください」と看板を出されてしまった日に は「はい、すみません」と引き下がるしかない。少し離れた場所に駐車場を借りてい るので、そこから赤ん坊を抱いていくことになる。 保育室があるだけでもありがたいのだから、駐車場のことまで要求するのは高望み なのかも知れない。が、「なんとかならないのか」と人知れず、ぼやくのだった。 さて、保育園に通い始めた子供にとって、発熱ラッシュは避けて通れない。同年代 の子供達から次々とうつされ、一通り免疫がつくまで続く。保育室から職場への「お 熱が出ました」コールは、乳児の育児で一番スリリングなことのひとつである。 赤ん坊はこの保育室で半年間を過ごし、妻と私は毎朝の「送り」と、週に一、 二回の「お迎え」を担当した。二人の子供に二つの保育園となれば手間も二倍 のはずだが、日々は淡々と進行した。そして、上の子のときは無駄に力を使い 過ぎていたのだということに思い至る、育児キャリア三年の親なのだった。
|
この記事は朝日新聞社の許諾を得て掲載したものです。
筆者および朝日新聞社に無断で複製、翻案、翻訳、送信するなど、
著作権を侵害する一切の行為を禁止します。 イラストはやはり朝日新聞社の許諾を得た上で作者百瀬いづみさん自身の 手で公開されている画像ファイルにリンクして表示しています。 百瀬いづみさんおよび朝日新聞社に無断で複製、修正、送信するなど、 著作権を侵害する一切の行為を禁止します。 |