前回連載へ 次回連載へ 朝日新聞朝刊 1998年4月30日付 家庭面 (毎週木曜連載)
「育休父さんの成長日誌」太田睦担当分第13回

父子家庭母子家庭

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 現在、我が家の平日は母子家庭か父子家庭である。子供が起きている時間に両親 がそろわないのだ。

 私がお迎えと決まった日には午後五時に退社する。五時十五分が終業時間だが、 六時までに保育園に着くためには、この時間に会社を出るしかない。

保育園で子供たちに帰りの支度をさせて、なおも遊びたがるのをせかして車に乗 せる。帰宅すれば洗濯物を取り込んで畳んだり、ふろを沸かして、子供たちにも園 で使ったコップや歯ブラシの後片付けをさせ、なかなかそれをやらないので時々怒 鳴りつける。子供たちにとって、私は口やかましい主夫だ。慌ただしい家事の中で ニコニコ顔の優しいお父さんなんかやってられないのである。さらに食事を作って 食べさせて皿を洗い、ふろに入れ、洗濯機を回して、一緒に絵本を読み、洗濯物を 干して、布団の横で歌を歌う。ここまでで、うまく行って夜九時過ぎ。悪くすると 十時近くになっている。

上の子でも下の子でも、ごく小さいうちは、なるべく両親がそろうよう努めてい た。しかし、すきあらば仕事をしようと画策していた我々夫婦はそのままでは終わ らない。特に兄弟関係ができ子供同士で遊び始めると親もだいぶ楽になる。「兄弟 を作ってよかったね」と語り合い、ここぞとばかり互いに残業にいそしむようにな ってしまった。

 母子家庭の日、私は夜の十一時ごろ帰ってくる。父子家庭の日、妻は終電で帰っ てくるので午前様である。

 この生活は疲れる。だから子供を寝かしつけた隣で眠りこんでしまい、気が付け ば朝というのもよくある。片方の親は寝静まった家に帰ってきて、食卓の上に残さ れたメモや、保育園の連絡帳や、夕刊を読みながら食事を済ませる。

以上、他人に話すと「大変だねぇ」と一応は同情してくれるが、どこか「よくや るよ」という軽い侮蔑(ぶべつ)と、「俺はそんなのまっぴらだ」というニュアン スが漂っているような気がしてならない。人間は疲れるとひがみっぽくなるのであ る。ひがんでいても始まらないので、会社から持ち帰った仕事や、保育園の父母会 の仕事をやるべく、起き上がろうと思うのだがやはり子供の横で寝込んでしまい、 朝を迎えることが多い昨今なのだった。

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