前回連載へ 次回連載へ 朝日新聞朝刊 1998年5月7日付 家庭面 (毎週木曜連載)
「育休父さんの成長日誌」太田睦担当分第14回

スケジュール調整

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 同じ会社で働く妻との間で、どちらが保育園に迎えにいくかは、日々最大の懸案で ある。そこにはいたわりと、駆け引きと、怒りと、あきらめが凝縮されている。

 おおよその比率は決まっているものの、具体的な「お迎え」日程はその都度決まっ ていく。夕方の会議が予定に入れば、「○月×日のお迎え頼みます」「了解」という ような用件のみに絞った電子メールが、夫婦間で飛び交う。ほかの人とは、もうちょ っと無駄話を交えた軟らかい文章の電子メールを交わしているのだが、どうしたこと か夫婦間の電子メールが一番ドライである。「お迎え」は、お互いの仕事に影響する ところが大きいので、真剣勝負なのだ。

双方にゆとりがあれば、子供のことも考えて父母のお迎えが交互になるように調整 もするが、予定がぶつかると大変だ。電子メールでは決着がつかなくなり、深夜の食 卓で、どちらの用件の方が優先されるべきかという腹の探り合いや激論が交わされる ことになる。片方があきらめることになるのだが、それが「貸し」として、その後 の交渉材料になることは言うまでも無い。

 最大の緊張が走るのは子供の発熱である。早朝などにそれが発覚すると、どちらが その日休むのかという最重要課題が突き付けられる。「午前中だけなら何とかなる」 「じゃあ、午前だけ会社に行かせて」「二時から会議なんだ」「一時に帰ってくるか ら」というような会話が暗い顔の夫婦の間で交わされる。この場合、妻は会社に早出 し、私は午前中、家で子供の看病に専念するが、午後一時には子供を車に乗せて駅の ロータリーに出向く。そこに妻が帰ってきて、子供とその看病をバトンタッチし、二 時の会議に間に合わせるべく、会社に急ぐ。そんな綱渡りを何度 かやってきた。

「仕事と子供とどちらが大事なんだ」という古典的な質問には「どち らも大事」と我々は答えるしかない。比較して優劣をつけて二者択一するような問題 ではないからだ。「仕事と育児の両方ともが中途半端になってないか」という、これ また古典的な指摘に対しては「どちらかを犠牲にするよりはマシ」と答える。育児は 、いま、するしかないのだし、職場の方も幸か不幸か、いま、しなくてはいけないこ とが山積みなのである。

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