前回連載へ 次回連載へ 朝日新聞朝刊 1998年5月21日付 家庭面 (毎週木曜連載)
「育休父さんの成長日誌」太田睦担当分第16回

姉弟

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 妻が子供を三人にしてもいいかなと思ったのは、産まれたばかりの二人目の子 供の顔を見たときなのだそうだ。それを聞いて私は人間は変わるものだと感心し た。妻は結婚前に「子供は嫌いだから、赤ん坊は期待しないでね」と私に念を押 すような人だったのである。あきれるばかりの変化ではないか。

 まあ、親はそうやって二人目を抱きながら、三人目の話をしていたのだが、こ こで割を食うのが定番通り、お姉ちゃんである。彼女は、ストレスをため込んで いた。親は以前のように構ってくれないし、赤ん坊は親が前宣伝したほどに面白 いわけでもない。第一、遊び相手にならない。

 それどころか、弟がハイハイを始めると、よだれをあちこちに垂らしながら姉 の生活を侵し、そのたびに姉が悲鳴をあげる。のぞきに行くと、よだれまみれに なった、おもちゃを手に泣いている姉と、次の獲物にしゃぶりついる弟がいる。 そのうち姉はバリケードを築き「ここから入らないで!」と何も分からないゼロ 歳の弟に宣告していた。

 保育園の保母さん達は、下の赤ん坊を可愛がる子供と、冷たく扱う子供がいる のだと説明してくれた。子供も色々なのだ。そして、うちの上の子は赤ん坊に冷 淡なタイプなのだと、遠回しに悟らせてくれたのだった。さらに「お姉ちゃんら しくしなさいというお父さんお母さんの要求も、ちょっと過大だったのかも知れ ませんね」と、やんわりとだが追い打ちをかけるように指摘を受ける。思い当た るところがあるだけに親もつらい。

 ところが、彼らの関係は急速に変化した。弟が歩き始めたころから姉弟は、相 手との遊び方に急速に習熟していくのである。二人でくんずほぐれつして、床の 上で子豚のように転げ回り「うきゃきゃきゃきゃ」(姉)「げげげ、うげうげう げ」(弟)などと奇声を発しているのを見ていると、子供の適応力は侮れないと 思う。子供の数が増えれば増えたで、それだけ複雑ながらも楽しい人間関係を作 ってくれることになるのだろう。

 そこで三人目という話になるのだが、理想論では受け入れられたものの、親の 体力に心配が残った。他人の赤ん坊を、ただうらやましく見ている昨今である。

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