前回連載へ 次回連載へ 朝日新聞朝刊 1998年6月4日付 家庭面 (毎週木曜連載)
「育休父さんの成長日誌」太田睦担当分第18回

主夫の料理

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 私は普段「主夫の料理」を作るので「男の料理」にならない。おからのいり煮、 ひじきと油揚げの煮物、ホウレン草のゴマよごし、大根の葉の浅漬け、キャベツの 即席酢漬け、アジのたたき、ブリあら大根といった、つつましい家庭料理ばかりで ある。百円で売っているマグロの血合い一キロから赤身だけを三百グラムほどそぎ とり、青ネギを散らして食べるという、みみっちいことまでやっている。

豪快な男の料理も嫌いではないし、友人を招いてたまには作る。大きな魚一匹を 丸ごと蒸しあげたり、鶏を一羽丸ごと揚げたり、客受けを狙った派手なこともやる が、そんなことは毎日やってられない。

 妻も、飾りずしには才能があるようで、ひな人形、こいのぼり、アンパンマ ンなど、職人的な技のさえを見せて子供たちを喜ばせているが、これも普段のメニ ューではない。

 日々作るのはご飯と汁もの、肉か魚介類を含む主菜、野菜の副菜が 一品もしくは二品。野菜に固執する妻の要望で、葉菜と根菜、緑黄色と淡色野菜の 比率、保育園の給食とのバランスなどを考慮して献立を作っている。

 もちろん独身時代はこんなにきちんと作ったことも無いし、栄養のバランスなど 猫のひげの先ほども考えたことがなかった。大体が外食だったし、作ってもビール に合ういかにも太りそうな料理である。妻と暮らすようになって、妙に規範的な食 生活に収まってしまったのは、細かな味付けに至るまで夫婦げんかして、私と妻の 食生活観をすり合わせた結果である。それは、婚約時代に彼女の塩加減に対する信 念と闘うところから始まる長い歴史の結果なのである。

 現在、私が主夫として失格しているのが弁当作りで、朝が弱いのを言い訳にして いる。保育園では、給食でおかずだけが出るので、主食のご飯を持たせるのだが、 妻の出張中これを忘れて娘に恨まれた。遠足や行事があると、おかず付きの弁当に なるのだが早起きできない私に代わって妻が作っている。

 さすがに申しわけないの で、先日、今度は早起きしておれが作ると妻に申し入れた。「朝、無理に早く起き て不機嫌で居られるほうが、もっと嫌だから私が作る」と返答され、反論できずに 自己嫌悪している。(電機メーカー課長)  

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