前回連載へ
転勤の影
この回の百瀬いづみさんのイラストは まだ電子化されていません。
|
梅雨場のナメクジも、遠方転勤の話も来てほしくない。だが、会社員という 職業を選択したら最後、この話が来るときは、だれであろうが容赦なしである。 例えば、私に転勤の辞令が下るとする。私は子供を連れ、妻を置いて赴任す るだろうか。「子育てしています」と日頃言っているので、そのくらい当然と しても、しんどい。妻もすき好んで子供と離れたくはないだろう。では、単身 赴任するのだろうか。育児休職までしたのに、いまさら子育てをすべて妻に渡 す気は起こらない。ならば、二人の子供を父母が一人ずつ育てるのだろうか。 大人の都合が過ぎると思う。姉弟は一番の遊び相手なのだ。では会社を辞める のだろうか。 転勤が嫌なら、夫婦の都合がいいように、納得がいく転職をしてしまえばい い。それをためらうのは、きっとサラリーマンの奴隷根性のせいだ。 そういえ ば以前、転職して地方に来ないかと誘われ、断ったことがある。私の単身赴任 でも妻の単身残留でも嫌だからと自分では理屈つけたが、あとで知人から「本 当にやりたい仕事があれば、家族を理由にそれをあきらめられるだろうか」と 言われてギクリとした。「本当にやりたい仕事」という殺し文句に動揺し、転 職という可能性に立ちすくむ私はもうすぐ不惑の歳である。 私の知っている育児休職男性たちの決断の仕方は様々だ。ある男性は、育児 休職明けに職場に出ると、グループ全体の転勤話が待ち受けていた。妻のキャ リアを尊重して育児休職した直後の酷な展開だ。悩んだ末に自分のキャリアを 修正することにして転勤を断り、配置転換になった。 また、ある商社マンは育児休職から復職の半年後、中国への海外赴任を命じ られた。彼の場合は、家族を日本に残して単身赴任することを選択し、現地出 向会社で副社長をしている。 私の妻も転勤は有り得ない話では無かったらしく、地方や海外勤務での仕事 内容に心引かれていたようだ。「今までは子供が小さくてあきらめ、そうこうするう ちにタイミングを逸してしまったわ」と妻は言うのだが、今後何があっても冷 静でいようと思いつつ戦々恐々としている。 |
|
この記事は朝日新聞社の許諾を得て掲載したものです。
筆者および朝日新聞社に無断で複製、翻案、翻訳、送信するなど、
著作権を侵害する一切の行為を禁止します。 イラストはやはり朝日新聞社の許諾を得た上で作者百瀬いづみさん自身の 手で公開されている画像ファイルにリンクして表示しています。 百瀬いづみさんおよび朝日新聞社に無断で複製、修正、送信するなど、 著作権を侵害する一切の行為を禁止します。 |
前回の連載へ