前回連載へ 次回連載へ 朝日新聞朝刊 1998年7月2日付 家庭面 (毎週木曜連載)
「育休父さんの成長日誌」太田睦担当分第22回

父母会

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 私は沈黙に耐えられなかった。皆、互いに目を合わせないようにしてうつむい ている。保育園の父母会で、来年のクラス役員を選ぼうとしているのだ。声を出 せば負ける我慢比べに私は音をあげた。保育園に入って一年たったころの話であ る。

 会長選任で再び我慢比べである。しかし、母親の中に父親一人だけでは、分が 悪すぎる。送り迎えの頻度も高く「育休までとった熱心なお父さん」というレッ テルを張られているのも致命傷で、私に「お願いできますか」と展開する。この とき「やはり、男性に上に立っていただくとまとまりますから」と発言した母親 がいて、ちょっと気分が暗くなった。男を立てなきゃいけない職場もあるのだろ うけど、こんな場ではやめて欲しかった。

 「そりゃ、男をおだてて立てとけば楽だもの」と言い放ったのは、知り合いの 女性で彼女も昔、男性に父母会会長を押しつけたそうだ。シナリオを書いた上 で、すべてその男性を通してやらせたところ、とても楽だったという。

 妻の見解は多少異なる。家事育児を一人で背負い込んでいる母親たちからすれ ば、保育園に出てくる父親に余裕のあかしだ。そういう男に面倒な仕事が回され るのは、逆らえない自然な流れだと言う。私としては、面倒な仕事を引き受ける のは構わないのだが、「上に立っていただく」なんて言われたくない気持ちも分 かって欲しい。

 ところで、年間計画を立て、各行事の担当者を決め、担当者の報告を聞いて問 題を話し合い、皆の意見が割れた場合は調整するといった仕事は管理職が会社で 普段やっていることばかりで、いかにも「会社のやり方」を持ち込みやすい。私 はそう割り切り、効率第一にして仕切っていくことにした。古参の母親にうまく 操られているとも言われていたが。

 さて、会議である母親に仕事を割り当てたところ、別の母親から電話があっ た。「彼女は今、余裕がないので、あの仕事をさせるのは考え直してください」 というのだ。そんなことは、本人が会議の席で直接言えばいいじゃないか。そう 思いながら父母会を会社のように効率優先にして、女性たちに本音が言えなくさ せた責任の一端を感じ、後ろめたい気持ちになるのだった。(電機メーカー課 長)

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