前回連載へ 次回連載へ 朝日新聞朝刊 1998年7月9日付 家庭面 (毎週木曜連載)
「育休父さんの成長日誌」太田睦担当分第23回

模擬店

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 引き受けた父母会の仕事は少し悩ましかった。収益も上がらず、楽しんでいる 人があまりいないバザー、出席率が低いままの学習会……。みんな仕事と家事・ 育児で忙しい上に、さらに父母会をやるんだから楽しめなければと思うのだが、 どうもそうなっていない。人の良い歴代役員のお母さんたちはそれらをまじめに やってきたが、人の悪い新米会長の私はそれらをやめることばかり考えていた。 一番の問題は夏の最大行事、「夕涼み会」だった。子供たちが手作りのおみこし を担いで、太鼓をたたいて盆踊りし、親は模擬店を出して例年盛り上がるが、こ の運営がたいへんだ。

 役員だとか実行委員になると大忙しになり、自分の子供の相手もできずに駆け ずり回る。親子で楽しむのが「夕涼み会」なのに、手伝わない母親が一番恩恵を 受け、手伝っている母親が子供と一緒に楽しめないなんて本末転倒だ。そんな、 もっともな指摘が出ていた。そしてある年、ついに模擬店をやめようという提案 が出るべくして出て、中止されたのである。保育園の父母の忙しさは、各人それ ぞれだ。「できる余裕のある人が、余裕の範囲で、善意でやる」でいいと思う。 余裕のある人がいなければ、無理してやることはない。善意と余裕が足りないと ころを、無理やり引っ張っても面白くもなんともないし、うっとうしいだけだ。

 父母会=ボランティア説をとる私は、母親たちが模擬店を続ける気力を無くし たのだから仕方ないと納得した。だれも私たちがやりますと言い出さなかったの が少し寂しかったのだけれど。そうしたら翌年、父親たちが立ち上ったのだ。お れたちで店をやろうと。

 こうして始まった今年で三年目になるお父さんのお店「父店」は完全ボランテ ィア制である。品数は志願したお父さんの人数で決まる。人数が集まらなけれ ば、その年は閉店と決めてある。変な義務感を背負うのはやめて楽しみながらや るのが原則だ。当日は「父組」と染め抜いた半纒(はんてん)と鉢巻き姿で子供 たちの前に現れ、氷を削り、フランクフルトを焼いたりしている。数カ月前から 土曜の夜に、父親たちはお店の準備と称して集まり、ビールを飲んで雑談に興じ るのだが、単に飲む口実なのではないかという、母親たちからのうがった指摘は 受け流すことにしている。

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